Official髭男dism、“完璧”から解放されて手にしたもの アルバム『Rejoice』に至るまで

ヒゲダン、“完璧”であることからの解放

 Official髭男dismからメジャー3rdアルバム『Rejoice』が届けられた。前作『Editorial』以降、「ミックスナッツ」「Subtitle」をはじめ、数多くのヒットシングルを放ってきた彼ら。3年ぶりのオリジナルアルバムとなる本作には、前作以降のヒゲダンの軌跡、そして、さらに自由度を増した音楽性がダイレクトに表現されている。

 リアルサウンドではメンバー4人にインタビュー。アルバムの手ごたえ、新録曲を中心とした収録曲の聴きどころ、さらに30代になってからの変化やライブに対するスタンスなどについても語ってもらった。(森朋之)

『Rejoice』は人間らしさ、バンドらしさのあるアルバム

――メジャー3rdアルバム『Rejoice』がリリースされました。前作『Editorial』以降の3年の軌跡、そのなかで生み出された色彩豊かなポップミュージックが体感できる作品だと思います。

藤原聡(以下、藤原):そう言ってもらえると何よりです。自分たちにとってもすごく愛着が湧くアルバムなんですよね。いい感じに肩の力を抜くところは抜いて、しっかり力を入れるところは入れて。1曲1曲をすごく愛せるし、人間らしさ、バンドらしさがあるアルバムだなと思ってます。わりとギリギリの制作だったんですけどね(笑)。

小笹大輔(以下、小笹):(収録曲を)増やしたからね。

藤原:うん。既存曲もかなり多かったんですけど……。

小笹:新曲もできるだけたくさん入れようと。

松浦匡希(以下、松浦):そのほうがうれしいよね。

――全16曲ですからね。リスナーとしても大満足のボリュームで。新曲の制作はどうでした?

楢﨑誠(以下、楢﨑):いい意味で肩の力を抜いた状態でやれたと思います。以前は「すごいミュージシャンにならなきゃいけないのかな」という感じがあったんですよ。僕だったらベースとサックス、みんなもドラム、ギター、ボーカル、鍵盤に対して、「他の誰かに比べて、すごいことをやらなくちゃ」みたいな気がしてたんですけど、今回のアルバムはそうじゃなくて。ヒューマン・グルーヴの大切さだったり、偶発的に出てきたフレーズを愛することもできるようになったのかなと。

藤原:考え方がシンプルになってきましたね。前は「間違えちゃいけない」「パーフェクトなものを作らねば」という概念が先を走っていて、それに向けて曲を作っている感覚があったんだけど、今回の制作は、そのときに弾いたこと、出てきたものがよければ「これでいいじゃん」と思えるようになって。

小笹:短い期間でけっこうな曲数を仕上げなくちゃいけなかったんですけど、4人で集まって、1日しっかりやればいいものが作れるという実感があって。追いつめられる感じもなくて、楽しんでやればいいというマインドになれました。

松浦:アレンジを考えているときも、みんな、どんどんアイデアを提案して。それがバンドらしさにつながっていると思います。

ずっと楽しいも違うし、ずっとシリアスも違う 目指したのは“ハッピーなもの”

――では、収録曲について聞かせてください。アルバムの1曲目「Finder」は〈再び出会えた 呼吸の証を見せて〉という歌詞が印象的なナンバー。いろいろな出来事を越え、再びヒゲダンが動き出すことをストレートに表現した楽曲ですね。

藤原:コロナもあったし、また解き放たれるような感覚も大事にしたかったんですよね。前作の『Editorial』は心の内側を描いたり、少しシリアスな楽曲もあったので、今回はちょっと気分を変えたくて。その序章として、この曲を入れたという感じかな。同じことを続けたくないというか、ずっと“楽しい”も違うし、ずっと“シリアス”も違う。「そのときにやりたいことをやる」というのが基本なんですが、今回のアルバムはハッピーなものにしようと思っていたんですよね。

――続く「Get Back To 人生」はライブ映えしそうなアッパーチューン。前向きな波動が伝わってきます。

小笹:「Finder」がかなり壮大な曲なので、2曲目もそういう方向の曲にするという案もあったんですよ、最初は。でも、ライブ活動を休止した期間があったり、「ライブで盛り上がれるアルバムにしよう」という気持ちが高まってきて。もっとテンションが上がるスタートにしたほうがいいなということで、新たに作ったのが「Get Back To 人生」なんです。アルバム全体にとってもかなり大事な曲になったと思いますね。

藤原:うん。アルバム制作の最後のほうに作った曲です。

小笹:結構ギリギリで、滑り込んできました。しかもライブで演奏するのが難しいだろうと言われてます(笑)。

――「キャッチボール」のバンドサウンドにもライブ感があって。スラップベース、カッコイイですね。

楢﨑:ありがとうございます。デモ音源の段階ではぜんぜん雰囲気が違ってたんですよ、この曲。その後、みんなで北海道に行ったときに、聡が「冒頭のシンセのフレーズが曲を通して響くようにしたいんだよね」という話をしてくれて。4人でパソコンの周りに集まって、リズムセクションはどう絡んだほうがいいのか、ギターやシンセをどう組み合わせるのか、みんなでアイデアを出し合ったんですよ。今回のアルバムはそういうやり方が多かったですね。

藤原:以前はデモを作って、次にプリプロをやって……という順番で制作することが多かったんですが、最近はパソコン1台をみんなで囲んで、ああだこうだ言い合うようにしていて。そのほうが早いし、クリエイティブだったりするんです。

――「濁点」は、抑制の効いたリズムとメロディを軸にしたミディアムチューン。このアルバムのなかでも異色の1曲なのかなと。

藤原:それほど起伏が激しくない楽曲を作ってみたくて。アンビエントな質感からスタートしたんですけど、こういう曲はあまり作ったことがないし、自分としても楽しい試みでしたね。歌詞は………思春期の頃、夜中に誰かと長く通話したり、誰かの配信をグヘグヘしながら観ている感じでしょうか? 現代の通信技術を用いて、誰かとつながっていることの面白さだったり、怪しさだったり、そういうものを孕んだ幸せだったり。それがこの曲に合うだろうということで書いたんだと思います。頭で考えているわけではなくて、直感的なんですけどね。

――そしてアルバムの最後は「B-Side Blues」。ビンテージ感のある、素晴らしいサウンドですね。

楢﨑:この曲、全員で「せーの」で録ったんですよ。デモ音源にピアノのイントロが入っていて、それを聴いたときに「これはみんなで一緒に撮ったほうがいい」ということになって。さっきは「DTMの音源を聴きながらディスカッションする」という話をしましたけど、「B-Side Blues」は楽器を弾きながらセッションして、フレーズやアレンジを決めて。そのままレコーディングしたんですけど、演奏し終わったときに、みんなで「僕たち、上手くなったね」って言い合いました(笑)。一発録りするたびにヘコんでた時期もあったので、だいぶ変わりましたね。

――〈失くしちゃなんないものはただ「続き」だけなんだ〉というフレーズも素晴らしいなと。

藤原:もちろん受け取り方はそれぞれでいいんですが、ここ数年、使っていたスタジオが閉鎖されたり、お世話になっていたライブハウスがなくなったりして。当たり前のように通っていた場所がなくなってしまうことに対する思いも入ってますね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる