『気になってる人が男じゃなかった』『ふつうの軽音部』……”マンガ×バンド”の話題作が開く実在する音楽への扉

 直近話題を集める『ふつうの軽音部』もオルタナティブ/インディーロックに該当するバンドや曲が作中に登場し、音楽リスナーにも徐々に認知が広まっている作品だ。『気になってる人が男じゃなかった』が洋楽バンドを主としたラインナップの一方、こちらは主に約1990~2010年代に名を広めた邦楽バンドや楽曲が随所に散りばめられている。作品は現在「ジャンプ+」にて週刊連載中。「次にくるマンガ大賞 2024」Webマンガ部門のノミネート候補にも選出されている。

 主人公・鳩野ちひろ(以下、ハトノ)は、NUMBER GIRLやZAZEN BOYSのフロントマンである向井秀徳に憧れ、初めてのギターにフェンダー・テレキャスターを選び、つたないながらも人目を忍んでandymori「everything is my guitar」をコピーして楽しむような女子高生だ。軽音部に入部直後、慣れないステージで初心者として順当に恥をかいたハトノ。だがその経験を糧に練習に励み、周囲の友人たちと本格的にバンドを始めていく……というのが本作のあらすじになる。

andymori「everything is my guitar」

 作中にはRADWIMPS、あいみょん、King GnuにVaundyといったアーティストの名前も登場。加えてハトノが好む曲として、銀杏BOYZ「あいどんわなだい」やHump Back「拝啓、少年よ」、syrup16g「生活」などが描写される。直近6月には彼女が作中でa flood of circle「理由なき反抗(The Rebel Age)」を歌ったことも大きな反響を呼び、バンド公式がそれを受けて該当曲のライブ映像を公開するといったプチムーブメントも巻き起こした。

 とはいえ楽曲の力だけでなく、マンガ自体が元よりファンに根強い支持を受けていた点も話題となっている理由のひとつだろう。バンドの結成物語と併せ、本作では10~20代特有の自意識との葛藤や煩雑な人間関係、それに追随する苦悩をコミカルかつ軽快に描いており、それらへの共感が作品の面白さとして広まった印象もある。

 そして、登場する楽曲群の音楽性と作中で描かれる各キャラの内面の親和性も高い。そのためマンガから該当アーティスト/楽曲に触れる読者も一定数存在しており、音楽とマンガ各作品における相互のファン作りの好循環が確かに発生しているのだ。

 今回ピックアップした両マンガには共通して、作中の登場曲を集めた公式プレイリストも各配信サービスで作られている。

 本来なら視覚のみで楽しむコンテンツであるマンガの魅力を聴覚面でも補強し、物語をより深く知るための追加コンテンツにすると同時に、未知の音楽への扉を開く導線となる。そんな仕掛けも、時代潮流に沿って着実に設けられている。

 こうして現在注目を集めるマンガ2作品が、共通して洋邦のオルタナティブかつ内省的な一面のあるロックバンドを扱う点は恐らく偶然ではない。そこには間違いなく、昨今のカルチャーに触れる消費者への意識が大きく反映されているだろう。そしてそれは直近の電子音楽トレンドや、一昔前のバンドブーム期の音楽リスナーとは明らかに異なる傾向だ。

 数々のエンタメが息を吹き返し、本格的に訪れたアフターコロナの時代。これからの音楽は、そして音楽を聴く人々は一体どこへ向かうのだろうか。他のカルチャーを介しながら徐々に表れ始めたその変化感は非常に興味深く、今後の先行きがとても楽しみだ。

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