清水美依紗、次なる一歩を進むための「Wave」と「Home」 父との別れを経て生まれた歌手としての自覚

私は苦しい時でも笑っていようとする人間なんです

――「Wave」は当時の大変だった時の気持ちを形として残すため/心の整理をするために書かれた特殊な楽曲。その曲と再び向き合ってアレンジを加える作業は大変でした?

清水:私はミュージカルをやっているので、自分に役が入る感覚と一緒なんですよね。自分の作った曲に新しい色を加える感覚だったので、すごく楽しかったですし、書きやすかったです。すでにできているものをベースに書くほうが断然やりやすいですし、自分でいることよりも役として何かを表現することが好きなので、こういう楽曲作りは初めてでしたが、楽しかったです。

――サウンドはどのように作っていったんですか?

清水:メジャーデビュー曲「High Five」からお世話になっている作曲家のMitsu.Jさんとスタジオに入って、音色から曲調まですべて一緒に相談しながら作りました。「ここはギターがいい」「ここピアノにしたらどうなるか」「ラジカセの音を流したら、ちょっとストーリー性が生まれるよね」など、ひとつずつ実際に対面して完成に持っていきましたね。

――楽曲を聴いて思ったのが、サビでウワモノが入って少し豪華な印象になりますけど、基本的には音数が少なくて非常にシンプルなサウンドですよね。

清水:音数が少ないことによって、ポツンとした感じが出ますよね。そこからちょっとずつ(音数が)増えていくことで、感情の動きを連想させたいというのはありました。

清水美依紗 - Wave

――歌詞を読んでから曲を聴いたら、いい意味でイメージと違ったんですよ。繊細で儚げなメロディやサウンドになっているのかなと思ったら、実際は明るくてあたたかい気持ちになれる楽曲で。

清水:私は苦しい時でも笑っていようとする人間なんですよ。だから、単に悲しい曲にはしたくなかった。歌詞だけを読むととても繊細ではあるんですけど、曲まで繊細にしてしまうと自分でも怖いので、私の持つ明るいエネルギーを楽曲に吹き込んだ感じがします。一方で、最初に歌う〈記憶の中で〉の3連譜には強い意味がありまして。同じ音を繰り返すじゃないですか。その後の歌詞に〈ぐるぐる回るmy voice〉というフレーズがあるんですけど、同じことを繰り返し考えてしまう自分の性格を音で表しているんです。〈記憶の中で〉は繊細に音を置きながらリズムにハメるという歌の複雑さも、私という人間の複雑さを表しています。ただ、そこを意識し過ぎて、全部が繊細で悲しい曲になってしまわないように、自分を支えている根の明るさをメロディに反映させましたね。

――一曲のなかにさまざまなレイヤーがありますね。

清水:自分でも面白いです! もともとは無意識に降ってきた楽曲だけど、意外と考えられているし(笑)、細かい複雑な自分の矛盾を抱えた性格が楽曲に出ているなと思いますね。

――喜怒哀楽のどれかひとつだけではないかもしれないですけど、この曲はどんな感情で歌われましたか?

清水:感情を込めるというよりは、私が感じたことをそのまま自分の口で説明している感覚なんです。同じ音が繰り返されたり、サビやブリッジでも変わったメロディはないので、本当に同じようなことを繰り返し歌う楽曲だからこそ、シンプルに、ただ説明することを意識して歌いました。

――MVはどこで撮影されたんですか?

清水:タイのプーケットで撮りました。しかも、私にとって初めてのタイだったんですよ! 実は『Cherish』ツアーの東京公演と大阪公演のあいだにタイへ行きまして……(笑)。

――だいぶ詰め込みましたね。

清水:本当に(笑)。こんなスケジュールは初めてっていうぐらい、急ピッチで撮影に行きました。「海外でMV撮影をしてみたい」というのと、「Wave」の映像は波やアコースティックを連想させるような場所で撮れたらいいなとチームで話していて、4月の終わりぐらいにタイでの撮影が決まりまして。もうバタバタ! タイには4、5日間いたのかな? しっかり日焼けをしたので、大阪公演はまっくろくろすけでツアーファイナルを迎えるという(笑)。すごく思い出深いMV撮影でしたね。

――冒頭で言っていた“怒涛”というのは、まさにですね。

清水:そうですね(笑)。5月は本当に怒涛でした。

――タイはどうでしたか?

清水:本当に暑くて、焦げるかと思いました(笑)。日本はちょっと涼しいぐらいの季節だったんですけど、タイはもう到着した瞬間に蒸し暑くて。しかも、ちょうど雨季で撮影日にちゃんと晴れるか心配だったんですよ。タイに着いた時は大雨だったし、「次の日の撮影は大丈夫かな?」と思ったら、とっても晴れまして。次の日の撮影も晴れて、2日間で撮り終えました。

 あと、撮影チームが私の楽曲や感情に寄り添ってくださって嬉しかったです。というのも、私は今回のMVで「感情が動いているところを見せない」と最初に言っていて。完成した映像を観たら、色鮮やかで溌剌としたプーケットの街並みと、感情が動いていない私の対比が面白くて。撮影自体はすごく楽しかったんですけど、一定の感情でいる私を撮ってもらっていたから、撮影期間中は「私はタイにいるんだ」と思う時間がそこまでなくて……うまく伝わるかわからないんですけど。

――伝わっていますよ。「Wave」は感情を大きく表現するというよりは、あくまで清水さんは語り部のように、フラットに楽曲のメッセージを伝えたかったわけですよね。

清水:そうなんです。2日間でMVを撮り終えて、3日目に象に会ったんですよ。そこで「自分はタイにいるんだ!」ってことにあらためて気づいて(笑)。

――はははは、ようやく素になって。

清水:そうです、そうです。それだけ作品に集中していたんだなと気づきましたし、変な緊張感もありましたね。私が作詞作曲した楽曲なのもあるし、しかもタイアップという大きなプロジェクトなので、余計に力が入っていて。そういうプレッシャーと、タイの暑さに耐えて汗を抑えないといけなかったし、熱中症も本当に怖かった。そんななかでMVをなんとか素敵な映像にしたい思いが本当に強かったからこそ、すっごく集中してましたね。

清水美依紗「Wave」MVメイキング映像

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