PSYCHIC FEVERが持つグローバルヒットのポテンシャル アジアでの功績、R&Bマナーから紐解く
PSYCHIC FEVERのアンテナが「DOKONI」向くのか?
では、そうした肝煎りの武者修行以前/以後、あるいはその過程でサウンド面にどんなケミストリーが生じているのだろう? デビュー日にリリースされた1stアルバム『P.C.F』は、「Hotline」だけでなく「Best For You」や「Snow Candy」など、今時のチルな感覚とメロウネスをフレキシブルに行き来する、アルバム全体としては心地よい軽さを体現する音作りだったが、タイでの武者修行後の1st EP『PSYCHIC FILE I』では、ひと回り厚みを増して音そのものによる圧を感じる。『99.9 Psychic Radio』を挟んで2nd EP『PSYCHIC FILE Ⅱ』に収録されている「IGNITION」を聴くと、UKシンセポップ調の小宇宙的なサウンドが溢れ、『アナザースカイ』でHIROが視察したバンコク中央の新時代型の商業施設 EmSphereのクラブフロアにドンピシャのナンバーだなと思った。
同EP収録の「Pinky Swear」は、堀田茜主演のドラマ『好きなオトコと別れたい』(テレビ東京系)のエンディングテーマに起用された。音楽番組『BREAK OUT』(テレビ朝日系)の2022年7月度オープニング・トラックに「Choose One」が起用されて以来、楽曲タイアップを着実に重ねてきた彼らにとっては、念願の初ドラマタイアップ曲だ。ただし国内のタイアップ曲から国外へ飛躍する例の大半は、現状、アニメーション作品に限られている。『【推しの子】』(TOKYO MXほか)のオープニング主題歌であるYOASOBI「アイドル」が、日本語曲として初めて米ビルボード・グローバルチャートで1位に輝いたことは記憶に新しい。紛れもない快挙だが、注意が必要なのは米ビルボードが2020年に新設した2つのグローバルチャートのうち、YOASOBIが獲得したのは「Global Excl. U.S.」での1位であり、米国のデータを除いた(exclude)結果であること。アメリカを含む「Global 200」で日本語曲がどんなきっかけで1位になるかは当面の間はわからない。
その上で、PSYCHIC FEVERが今後どのように「グローバルチャート1位」を目指し得るのか。僕としては主に2つの楽曲が重要なポイントになると考えている。「IGNITION」の小宇宙的なサウンドの元を辿ると、『P.C.F』収録の「Spread The Wings」と共振し、〈無限の宇宙(ソラ)へ〉と高らかに歌い上げられる同曲のサビが初期のビジョンとして意欲的だ。示唆的だったのはトラックタイトルで、1990年に米R&Bチャートを制覇したナンバーであるTroopの「Spread My Wings」と(ワンワード違いの)同名曲だったこと。これはめでたい。同曲は、チャッキー・ブッカーによる提供曲だが、こうしてトラックタイトルから図らずも往年のR&Bナンバーへと接続される(偶然の)目配せは、この先のチャートアクションへの験担ぎにもなるだろう。
より具体的で実質的なアプローチとしては、『PSYCHIC FILE Ⅱ』のリードトラック「Love Fire」で打ち出されているY2Kトレンドに色濃い。アメリカのブロンクス出身のホットな注目ラッパー アイス・スパイスが、7月26日にドロップ予定のアルバムタイトルをズバリ『Y2K!』と銘打つくらいなのだから、現行R&Bシーンのトレンドに敏感なグループであることは、PSYCHIC FEVERにとって大きな加点になる。このままトレンドの波に乗り切れば、グローバルチャートの登頂も十分視野に入ってくるはず。「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」が南アフリカのリスナーの反応を得ていることも見逃せない。『PSYCHIC FILE Ⅱ』のラストトラック「DOKONI」のタイトルにちなめば、PSYCHIC FEVERのアンテナが「DOKONI」に向くのかが、今後のグローバルなチャートアクションの鍵を握る気がする。
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