「桜想」で形にした「言葉では到底表せない感情」

――続いては6曲目「イマジナリーフレンド」。ドリーミーなサウンドに、ざらっとした物語が乗った一曲ですが、この曲ができた経緯を教えてください。

『ユイカ』：この曲は「物語を作りたい！」というところから始まった曲で。どちらかというと、自分でも聴きたくなるほうの系統の曲です。一曲のなかに展開がいろいろあって、ひとつの小説を読んでいるような感覚になってほしくて、起承転結にはすごくこだわりました。種明かしをすると、イマジナリーフレンドと出会う曲だと思わせて、実は自分がイマジナリーフレンドだったと、ハッとさせるような曲。だから、最初の段階でいかに聴いている人を騙せるかということを考えながら作りました。種明かしも、直接的に「僕じゃなかったんだ」と言って気づかせるんじゃなくて、「よく考えたら……」という感じにしたかったので、シーソーの描写を入れて。自分にとってはすごく表現にこだわったし、挑戦でした。

――私も聴きながら、まさにシーソーのところの〈君の方が重いから〉で混乱しました。

『ユイカ』：騙されましたか？

――はい（笑）。

『ユイカ』：やった！　成功です（笑）。

――声やサウンドもいつもの『ユイカ』さんの曲とは違う印象を受けましたが、サウンド面ではどのようなこだわりがありましたか？

『ユイカ』：この曲は私が大尊敬しているアーティストのアマアラシさんにアレンジをお願いしたんです。今までの『ユイカ』じゃない部分を見せたい、幻想的な『ユイカ』を出したいということをお話しして、アレンジしてもらいました。その結果、自分でも聴きたくなる曲を作れたなと思うし、すごく満足度の高い曲ができました。

――8曲目「嘘」は攻撃的な歌詞を乗せたロックチューン。まさに、今までの『ユイカ』さんとはまったく違う一面が見える一曲です。

『ユイカ』：アルバムを制作するうえで『ユイカ』の振り幅を見せたい、「『ユイカ』ってこういう一面もあるんだ」と思わせたくて、「かっこいい曲を作りたい」とずっと話していたんです。でも、いざ作ろうとしたら「いや、“かっこいい曲”って何だ？」と思って。今まで書いてこなかった部分に目を向けてみようと、なんとなく思ってはいたけれど言葉にはできなかったことを歌詞にしてみました。作ってみたら、意外と自分のなかでも腑に落ちたというか。「私ってこういうふうに思っていたんだな」と気づきました。あくまでも『ユイカ』の一面でしかないですけど、こういう考え方をしている自分も許してほしいという気持ちでしたね。

――サウンドはどのようなイメージから？

『ユイカ』：Mrs. GREEN APPLEさんの楽曲にあるような、ちょっとダークでかっこいい曲。そういうテイストの曲がすごく好きなんです。なんとなくそういうものを書きたいなと思って、マイナーコードを使って暗さのあるサウンドを作っていきました。

――ロックなサウンドにあわせてボーカルも荒々しいですが、ボーカルレコーディングで意識したことはどのようなことでしたか？

『ユイカ』：こういう歌い方は普段しないので、レコーディングの時は不安だったんですけど、さっきお話ししたように「自分のこういうところも認めてほしい」という気持ちで歌ったら、プロデューサーさんがそのテイクを活かしてくれました。感情のままに歌った感じです。

――こういった歌い方は難しかったですか？

『ユイカ』：はい。もともと怒りや、納得できないことに対してマイナスな感情を表現することが少ないので、結構体力を削られました。正直、この曲を書き終えた時は「『ユイカ』がこんなこと言っていいのかな？」という不安みたいなものもあったんですが、レコーディングを終えてあらためて聴いてみたら「めっちゃいいじゃん！」って思えて。変に取り繕わずに、自分の本心を紡げたなと。

――じゃあ、今後もまたこういう曲ができるかも？

『ユイカ』：またダークな『ユイカ』が出てくるかもしれないです。

――12曲目の「桜想」はバラードです。昨年12月にXに「この2カ月で家族の身体が冷たくなってこの世から消えていく感覚を2度も経験した」と書かれていたので、その経験が元になっているのではと推測してしまいました。

『ユイカ』：それとはまた別のところからの着想ではあって。高校生の時に、一緒に音楽活動をしていた子が亡くなっちゃって。それが初めての予期せぬ死の経験だったんです。衝撃もあったし、すごく悲しくて、言葉では到底表せない感情だったんですけど、どうにか形にしてみたいと思った。だけど、形にするのはまた違うのかもしれないという迷いもありながら、それでも形にすることで悲しみを外に出して、自分も進まなきゃと思ってその当時作った曲です。普段はギターで作ることが多いんですが、この曲はピアノで作りました。

――エモーショナルなボーカルも印象的ですが、レコーディングにはどのような気持ちで挑みましたか？

『ユイカ』：レコーディングの時は歌いながら泣きそうになっちゃって。でも、泣かないように必死に頑張っていたんですけど……。当時のことを思い出しながら歌うのは辛いし、フラットな気持ちで歌いたいと思っても、どうしても引っ張られちゃって。自分のいろいろな気持ちが入り乱れてしまったなとも思うんですが、今となっては、その複雑な感情がよりこの曲を引き立てられるような歌になったかなと思います。

――高校生の時に作った曲をこうしてレコーディングして、あらためてこの曲を聴いてみてどう感じましたか？

『ユイカ』：当時の自分の想いがすごくこもっていて、聴くと同時にその時のことを思い出しちゃうというのはもちろんあるんですけど……でも、やっぱりあの時の気持ちを形にしてよかったなと思いました。これからも大事にしていきたい一曲です。