ego apartment、『ku ru i』が照射する社会に潜む“静かなる怒り” 「鬱憤はかなり溜まっていると思う」
はっぴぃえんどから受けた影響も
ーーインタールード的な楽曲「ENTER-MISSION」も収録されていて、全体のストーリーをつなぐ役割を果たしています。
Dyna:まず「インスト曲を入れたい」という気持ちがあったんですよね。メンバーも「Dynaのエレクトロニックなところをもっと出してほしい」と言ってくれたし、「ENTER-MISSION」はボーカルなしでいこうと。Zenが弾いたアコギのフレーズをサンプリングして作ったんですけど、インストを入れることで「アルバムって本来、こうあるべきだよね」という答えが見えた気がしたんですよ。曲がたまったからアルバムにするというやり方もあるけど、最初から最後までつなげることによってーーそれこそ1本の映画じゃないけどーー作品としての意味が出てくるんだなと。特に1曲目の「Nautilus & Nemo」と2曲目の「浮世 (ukiyo)」のつながりはすごく意識しました。
Zen:そうだね。全体のストーリーもそうだし、映画にたとえると「どのシーンにどんな音を付けるか」みたいなことも考えていて。1曲目、2曲目はアルバムのイントロダクションというか、どういう世界観なのか?を説明するという意味でも大事なパートだったんですよね。宇宙船がクラッシュして沈んでいるところから始まって、そこから浮上してみたらディストピアだったという。
Dyna:そこで『ku ru i』というタイトルがバーンと出て。映画の掴みとしては最高だよね(笑)。
ーー楽曲制作のスタイルも変化しているんですか?
Dyna:作り方自体は以前と変わらないですね。すべての曲に3人が関わっていて、ラフミックスも自分たちでやって。「曲によってプロデューサーが違う」という感じなんですよ。たとえば「mad cooking machine」はShuがプロデューサー的な立場で、僕とZenがアレンジャーとして関わっていて。前作に入っている「huu」だったら発端のアイデアは僕で、ShuとZenが編曲してくれたんですが、その形は一貫してるのかなと。
Shu:「mad cooking machine」に関しては、最初のデモはぜんぜん違う感じだったんですよ。もっと激しい曲だったんだけど、ライブで演奏することを考えて、音数も自分たちで表現できるところで抑えて。いい意味で“静かなる怒り”を表せたのかなと思ってます。内なる怒りはすごく大切なものという気がしていて。それを越えたら“ブチ切れる”ということになるのかもしれないけど、今の社会のなかにも鬱憤はかなり溜まっていると思うんですよね。
ーー確かに“静かなる怒り”が溜まっている実感はすごくありますね。
Shu:そうですよね。実際に争いが起きている場所はもちろん、日本のなかにも主観的なディストピアはいっぱいあると思っていて。今回のアルバムは、基本的にその考えに沿っているんじゃないかなと僕は思っています。
ーー先行配信された「pools」はオルタナ的なセンスを感じさせる楽曲。この曲の発端を作ったのは?
Dyna:僕なんですけど、Zenがすごくカッコよくしてくれたんですよ。3人で共有しているパソコンがあって、そこにデモを置いていて。「pools」のデモは「これはボツかな」と思ってたんだけど(笑)、いつの間にかカッコいい曲になってたので。
Zen:Dynaがインスピレーションの種を置いてくれたというか。自分で1から作るときはシンプルにするのが難しいんですけど、「pools」は基盤になるデモがあったので、作りやすかったですね。木の中から仁王像を掘り出すというか(笑)、デモを聴いたときに全体のイメージが見えて。
Dyna:その後はShuが「俺のヴァースを作るぜ」という感じで入ってきてくれて。
Shu:「あとは自分の歌を入れるだけ」という状態だったので(笑)。基本的にはラブソングなんですけど、Zenの英語詞に対して、自分の情けない部分というか、パートナーに対して「もっと何かをしてあげたい」という気持ちを日本語で歌いました。
ーーコライト的な要素もありますが、一般的なバンドとはかなり作り方が違いますね。
Dyna:“バンド”と言われると3人ともちょっと違和感があるんですよね。もともとego apartmenはトラックメイカー3人が集まって始まったんですよ。それぞれがLogic Pro、GarageBandで制作していたし、その根本的な部分はブレていなくて。まずは各々が作りたいものを作って、それを共有しながら楽曲に落とし込むという。そういう意味では他のバンドとは違う作り方なのかもしれないですね。
Zen:そうだね。
Dyna:ライブではベースを弾いてますけど、ベースラインはZenやShuが考えることのほうが多いんですよ。3人とも作曲家であり、トラックメイカーでもあるし、アレンジャーでもあるんですよね。
ーーなるほど。今回のアルバムのなかでZenさんがプロデュースした楽曲は?
Zen:「浮世 (ukiyo)」「6a6ylon 6illy」「The Black Pearl」「神無 (kanna)」あたりかな。
Dyna:今回はちょうど1人4曲くらいかな。
Shu:そうか。Zenはいろんなアイデアを持っているんだけど、僕らが取っ掛かりやすいようにしてくれるんですよ。
ーー「The Black Pearl」は90年代のグランジの雰囲気もありますね。
Dyna:そうかも。それはZenの好みでもあり、僕らが好きな感じでもあって。
Zen:この曲については、日本語で歌うというのもインスピレーションのもとになっていて。はっぴいえんどが日本語でロックを歌ったみたいに、僕らも日本でやっている意味を改めて考えてみたんですよね。なのでShuにも「日本語で歌ってほしい」と指定したんですよ。
ーーはっぴいえんどの影響もあるんですね。
Zen:そうですね。はっぴいえんどは当時の音楽シーンとは違うことをやって、後世にずっと残るものを作ったバンドだと思っていて。僕らにも「永遠に残るものを作りたい」という気持ちがあるし、はっぴいえんどの行動にはすごくインスピレーションを受けています。
Dyna:すごくいいよね。「The Black Pearl」ができて、初めて聴いたとき、泣いたんですよ。ShuとZenがガッツリ日本語で歌うのは「huu」以降なかったし、大好きなメンバーが母国語で歌っていることに感動してしまって。
Zen:今まではほとんど英語で歌ってましたからね。日本語で歌うことによって感情がさらに伝わって、パンチ力も加わって。Dynaがそれを感じ取ってくれたのもうれしいです。
Shu:日本語の歌詞は淡々と歌いたいという感じがあるんですけど、やっぱり母国語なので伝わるパワーはすごく強いと思います。歌詞の内容としては、現在の社会のなかで“権力者がジャマな存在を排除する”という動きがあるじゃないですか。でも、どんなに排除しようとしても、その人たちの存在は消えないし、その後も生きていく。そういうことを表現したかったんですよね。
Dyna:歌詞をいちばん理解し合えるのも、メンバーの3人だと思うんですよ。そのことを改めて感じられたし、スーッと涙が出てきて。今は笑いながら話してますけど、本当に泣きました(笑)。
Zen Shu:ハハハハハ。
ーー『ku ru i』というアルバムタイトルはいつ決めたんですか?
Dyna:出来上がってからですね。
Zen:このアルバムを一言で表すなら? とみんなで考えて、ローマ字で『ku ru i』はどうだろうと。タイトルは枠でしかなくて、捉え方は自由なんですけどね。
Shu:“狂う”という捉え方もできるし、“異物が来る”という意味もあって。異物に対して違和感を覚える人もいるだろうし、「もっと来ていい」という人もいるだろうなと。そういう解釈の違いも時代を映すことになるんじゃないかなと思ってます。
ーーego apartmentの新たな進化を実感できるアルバムだと思います。『ku ru i』を作り上げたことで次のビジョンも見えてきているのでは?
Zen:そうですね。徐々に浮かんできています。
Dyna:さっき言ったように7曲くらい入れていない曲があるし、制作中にも「こんなこともできるよね」というアイデアも出てきてるんですよ。今はリリースパーティ(6月27日/『O do ri Ku ru i』大阪 Yogibo META VALLEY)に向けてセットリスト組んだりリハーサルをやっているんですけど、そこでも新しい発見があるんじゃないかなと。世に伝えたいこと、伝えたい音は常にあるし、「2ndアルバムでこんなにカッコイイものを作れたんだから、次が楽しみ」くらいに思っていて。コンセプトアルバムを作ったのも初めてだし、この先も3人で新しいことに挑戦していきたいですね。
Shu:やりたいことはまだまだあるんですけど、僕はその場でパッと思い付いたことが原動力になることも多いんですよ。それをみんなに話して、イメージを共有することも大事だと思っていて。そのあたりをこれまで以上にしっかりやることで、もっともっとすごいものが作れる気がしています。
■リリース情報
アルバム『ku ru i』
2024年5月29日(水)配信・CD・アナログ
<収録曲>
01. Nautilus & Nemo
02. 浮世 (ukiyo)
03. pools
04. mad cooking machine
05. ENTER-MISSION
06. 七夕 (tanabata)
07. Cabin Fever
08. 6a6ylon 6illy
09. eight ball.
10. The Black Pearl
11. B.A.T.S.
12. 神無 (kanna)
■ライブ情報
6月27日(木)【大阪】Yogibo META VALLEY『O do ri Ku ru i』
OPEN 19:00 / START 19:30
<出演者>ego apartment 他
配信チケット有り(Available worldwide)6月27日 19:00〜6月28日 17:00迄
チケットURL:https://w.pia.jp/t/egoapartment-odorikurui/
Overseas tickets URL:https://pia-live.jp/event/2412211?lang=en
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