宇多田ヒカルの深遠なクリエイティビティに迫る デビュー25周年に伴うメディア出演を徹底総括

 宇多田ヒカルのデビュー25周年を記念した初のベストアルバム『SCIENCE FICTION』は間違いなく、2024年の音楽シーンにおける最大級のトピックだ。

 全26曲のうち「Addicted To You」「光」「traveling」の3曲はリレコーディングされ、10曲は新たなミックスバージョンで収録。さらに最新シングル曲「何色でもない花」、新曲「Electricity」を含む本作は、Billboard JAPANダウンロード・アルバム・チャートにて4週連続1位(5月8日公開)、オリコン週間アルバムランキングでは2回の1位(4月22日付、5月6日付)を獲得するなど、大ヒットを継続中だ。

 本作のリリースに際して、地上波の音楽番組や雑誌など様々なメディアに登場した宇多田ヒカル。ここでは主なものをピックアップし、その内容を紹介していきたい。

宇多田ヒカル 「SCIENCE FICTION」 SPOT |Electricity

ベストアルバムの意義 椎名林檎とのテレビ初共演も話題に

 まずは、デビュー当時のレギュラーラジオ番組『宇多田ヒカルのトレビアン・ボヘミアン』の一夜限りの特別復活。

 ロンドンで“宅録”されたプログラムは、宇多田の「道」からスタート。ロンドンで鑑賞した現代美術家 ダグラス・ゴードンの個展(『All I need is a little bit of everything』)やゲルハルト・リヒター展の感想を語った後、ファンからのメール(&悩み相談)を紹介するコーナーへ。

 「今まで制作してきた曲に対して、『今だったらここはこうするな』という箇所は?」という質問に対して「ないです。いつも正直に書いているし、出ざるを得なかったものを表現してきてるから」と回答。さらに「人の目が気になって悩んでます」という相談には「有名になってわかったのは、人の目というのは結局、自分の目。自分が自分をどう見ているかが大事だから、自分と向き合ったり、ケアのために時間かけてあげたらいいのかなと思います」とアドバイスを送った。

 初のベストアルバムについては、「今までは(ベストアルバムに対して)抵抗があったけど、25年やってこれたのはいろんな人の支えがあったからだし、みんなに“ありがとう”を伝えたいなと思って、やりたいなと思いました」とコメント。また、『SCIENCE FICTION』というタイトルについては、「科学と文学が大好きだし、最初に読み出した本もサイエンスフィクションで。ずっと“宇宙人みたい”と言われてきたし、創作してるときも“ワームホールみたい”って言うことがあって。あるとき『それだ!』と思って決めました」と説明した。

 さらに、伝説のコーナー「This Week's Top 2」(テーマを決め、おすすめの2曲を紹介するコーナー/今回は“おいしそうな曲”)や、「何色でもない花」のリズムアレンジの解説、6年ぶりの全国ツアー『HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024』の展望も。久々のラジオトークを楽しんでいる彼女の様子も印象的だった。オンエアされた楽曲は、「flight fm」(ジョイ・オービソン)、「COLORS (2024 Mix)」、「traveling (Re-Recording)」、「Beautiful World (2024 Mix)」、「Better Things」(The Kinks)、「Electricity」など。

 地上波の音楽番組にも数多く出演した。まずは『CDTV ライブ!ライブ!』(TBS系/4月8日放送)。「First Love」を24年ぶりにテレビで歌唱した。オンエアでは、1999年にリリースされ、累計800万枚以上のセールスを記録した1stアルバム『First Love』がその後の音楽シーンに与えた衝撃を改めてレポート。本作に収められた「First Love」が主題歌となったドラマ『魔女の条件』(TBS系)の映像や、INIの藤牧京介、ONE OK ROCKのTaka、LE SSERAFIMのKIM CHAEWONらが同曲をカバーしていること、Netflixオリジナルドラマ『First Love 初恋』を通して若い世代にも浸透していることが紹介された。黒い薔薇をモチーフにしたトップスに身を包んだ宇多田は、すべてのフレーズに豊かな感情を込めながら、15歳のときに書いた珠玉のラブソングの奥深い魅力を表現してみせた。

宇多田ヒカル「First Love」from TBS系『CDTVライブ!ライブ!』

 宇多田は、有働由美子がMCを務める『with MUSIC』(日本テレビ系)レギュラー放送初回(4月13日放送)にもメインゲストとして登場。2021年リリースの「One Last Kiss」(映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』テーマソング)をテレビ初披露した。色彩と光のインスタレーションと称すべき映像をバックに、14年に及んだ“宇多田×エヴァ”のラストを飾った名曲の世界を表現。心地よいフロウと深淵なメッセージを同時に響かせる素晴らしいパフォーマンスだった。

 そして椎名林檎とのコラボレーション曲「二時間だけのバカンス」を2人で披露。1998年にデビューした“同期”の2人が音楽番組で共演するのはこれが初めてとあって、SNSでも大きな話題となった。アルバム『Fantôme』(2016年)に収録された同曲は、どこか危うい関係性を描いた楽曲。〈朝昼晩とがんばる 私たちのエスケープ〉というラインを2人で響かせる超レアなシーンが実現した。

宇多田ヒカル - 二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎

 1週間後の4月20日にも再び同番組に出演。最初の放送では「25年前、15歳でデビューしたきっかけ」「椎名林檎と似ているところ」について語ったのだが、この回の最初のテーマは、“息子と友達が撮った”という「One Last Kiss」のMVについて。「(MVのコンセプトは)忘れられない人が撮影した思い出の映像という設定。前の日に美容院で髪を綺麗にしてもらって、そのままの状態で寝て(撮影に臨んだ)」と制作エピソードを語った。続いては、曲作りの変化について。「まず自分が何を感じていて、何が出てこようとしているかは、音楽を作り始めるまでわからない。そこは対話が始まるところだと自分で思っている」と曲が生まれる最初の瞬間について説明。さらにアルバム制作に関して「何かを完成に持っていくには忍耐、愛情、勇気が必要。私はこんなんですけど、どう? というのを自分にも見せつけるし、そこで自分の感覚に自信が持てなかったら、完成って言うのは怖いじゃないですか。自分で“これでよし”と思える瞬間が一番達成感がありますね」というコメントも。創作の一端が垣間見える貴重な対話となった。

宇多田ヒカル『One Last Kiss』

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