17歳のボカロP 晴いちばん、ポップで面白い音楽を追求する信念 新たな刺激により高まった作家性
同世代の高校生バンドとの共作から得た刺激
ーー『部活ピーポー全力応援!ブカピ!』(朝日放送)での「ブカピ軽音楽部」というプロジェクトで、武蔵丘高校のヤラズノネというバンドと一緒に作った「夜空と星、春の歌」がありました。これは編曲・プロデューサーとして参加したということなんですね。
晴いちばん:もともとは自分が大部分を作らないといけないのかなと思ってたんですけど、ベースの小森(瑛登)くんが作詞作曲まで全部できて、GarageBandでデモをちゃんと送ってくれる子で。びっくりしたし、刺激を受けましたね。
ーーそもそも「ブカピ」の話を受けての印象はどんな感じだったんですか?
晴いちばん:軽音楽部とソニーミュージックのアーティストとでコラボするということで話がきたんですけど、自分も高校生の軽音楽部のバンドと曲を作るっていうのは今まで全くなかったので、面白い経験になるなと思って受けました。
ーー同世代の全く違うフィールドの人たちと音楽を作ったのはどんな体験でした?
晴いちばん:青春をしてるなって感じでした。ヤラズノネは5人組でみんなでワイワイやってるようなバンドだったので、自分もバンドやりたかったなって(笑)。演奏のクオリティも高くて、刺激を受けたし、羨ましさと尊敬があって。とにかくバンドやりたかったなって思いましたね。
ーー再生回数のナンバーワンを決める企画でこの曲が1位になったということですが、ちゃんと結果に結びついた手応えもありましたか。
晴いちばん:曲自体は小森くんがほとんど作っているので、自分の手柄とは全く思ってなくて。自分が力を入れたことと言えば、SNSの拡散とかですね。いかに曲に興味を持ってもらえるかを頑張って考えて、それによってボカロのリスナーの人たちが聴いてくれたりもしたんで、結果的によかったのかなと思います。
ーー曲を作るとか歌詞を書くだけじゃなくて、それをどう広めるかってところまでやるのが、そもそもボカロカルチャーのあり方ですもんね。
晴いちばん:いくらいい曲ができても、聴いてもらえないことには始まらないと思うので、いかに興味を持ってもらえるかなっていうのは考えました。
ーーこういう経験が、晴いちばんさんのアーティスト活動に影響を与えた部分はありました?
晴いちばん:ディレクションの仕方をもうちょっと考えようと思うきっかけになりました。レコーディングをメンバー全員と一緒にやったんですけど、彼らも初めての経験だったので、難航する部分はあって。楽曲はDTMだったら一人でできるんですけど、いろんな人と作るとなると、自分のやりたいものをいかに相手に伝えるかというのが重要になってくる。そこを見直すきっかけにはなりましたね。
1stアルバムは晴いちばんのポートフォリオに
ーー1stアルバム『Ruins Record』についても聞かせてください。アルバムを出したいというのは以前から考えていたことでしたか?
晴いちばん:アルバムは絶対に高校生のうちには作りたいなと思っていて。高校生のうちに世に残せるものをできるだけ多く残したら、大人になった時に「こんなことをやっていたんだな」と思えるんじゃないかなと思っていたので、作れてよかったです。ちょっと前までは全然聴かれていないようなボカロPだったので、アルバムを出してもどうせ聴かれないと思っていたんですけど、「聴かれなくても出すには出した方がいいな」というのと、たくさん曲があった方が楽しいなという単純な楽しみの一環として出そうかなという感じです。
ーーボカロシーンでは1曲1曲にMVがあり、曲単位で物事が動いていくのがベーシックな考え方だと思います。ただ、アルバムとなると一つの作品としてのまとまった世界観やコンセプトも考えるようになると思うんです。そのあたりってどうでしたか?
晴いちばん:そこにはいろいろなところから受けた影響が表れています。アルバムで曲が繋がっていくというのも洋楽から知りましたし、あとは原口沙輔くんの『アセトン』というアルバムを初めて聴いた時に、アルバムでしかできないようなことを結構やっていて。アルバムだからこそ輝くものがあるんだなと思ったので、コンセプトを決めて作りたいなと思っていました。今回は『Ruins Record』というアルバムなんですけど「ワンダールインズ」っていう曲を軸に、いろいろ世界観を広げていこうと新曲3曲を作りました。
ーー「ルインズ」は遺跡という意味ですよね。SFっぽさがあるし、未来の廃墟みたいなイメージもあるんですが、このあたりのストーリー性とかイメージってどんな風に膨らませていったんですか?
晴いちばん:もともと自分は廃墟が好きで。いろいろな廃墟を見たりすることによってインスピレーションを受けて、そこから曲を作りたいと思って「ワンダールインズ」を作ったんです。その後にいろいろなSF映画を観て、『インターステラー』とか宇宙を描いた作品にすごくワクワクして、それと廃墟を掛け合わせたら面白いんじゃないかなと。「ワンダールインズ」だけで終わらせるのはもったいなかったというか、まだやりたい気持ちがあったので、アルバムという形で広げていったっていう感じですね。
ーーなぜ廃墟が好きなんでしょう?
晴いちばん:なぜか惹かれるんですよね。文脈とか関係なしに、見た目でも惹かれるし、人が暮らしてきたことの哀愁みたいな部分にも惹かれるので。最近このアルバムを作るにあたって軍艦島に行ってきたんです。自分が住んでいるのが長崎なので、軍艦島はすぐ行ける場所にあるんですけど、実は今まで1回も行ったことがなくて。上陸ツアーがあったので運よく上陸できて、写真で見るのと生で見るのは全然違ったし、空気感を全身で感じられて、とにかく圧倒されてひたすら感動しました。人生の感動するランキングトップ3に入るぐらいでしたね……そこからアルバムへのインスピレーションも湧いたかなと思います。
ーーでは宇宙に惹かれるのはなぜでしょう?
晴いちばん:なぜですかね……もともと小さい頃から、星の絵本とかをいろいろ読んで育ってきて。そこまで宇宙には詳しくないんですけど、綺麗なもの、未知なもの、自分の日常とは全くかけ離れたものだからこそワクワクするのかなと思いますね。
ーーアルバムがまさに完成したばかりですが、どんなものができた感覚がありますか。
晴いちばん:1stアルバムということもあって、自分のポートフォリオになった感覚ですね。いろんなジャンルを作るボカロPなので、「こういう曲もあるよ」っていう提示ができたんじゃないかなって思いますね。あとは「ワンダールインズ」から広げて「こういう世界観がありますよ」っていうことも提示できたコンセプチュアルなアルバムになってます。
ーー今作を作ったことで、自分の夢、思い描いている未来にはどう近づいたと思いますか。
晴いちばん:アルバムの、特に新曲3曲が大きいかなと思っていて。ここ最近聴いてきた音楽を大いにアウトプットして作ったので、最新の自分を知ってほしいですね。
ーー「ポストアポカリプス」「瓦礫日誌」「廃工場の猫暮らし」という3曲が新曲ですが、まさに「廃工場の猫暮らし」はネオソウルに通じるゆったりとした、グルーヴ感が肝の曲になっているように思います。
晴いちばん:そういう今ハマってるものを聴いてもらいたいって思います。ただ、どんどん考え方も変わっていくし、自分の作るもの、聴く音楽もどんどん変わっていくと思うので。とりあえず現時点での最新の自分を表現したアルバムですね。
ーー5年後や10年後、自分の長期的な未来を見て、どういう理想像がありますか。
晴いちばん:今は特定の理想像を設定するのはやめようと思っていて。きっと1年後、2年後には変わっているので。でも大きな信念として変わらないでいたいのは、「面白いものをずっと追求していたい」ということ。向上心を捨てずに、面白いものをずっと突き詰める人間でありたいですね。
※1:https://realsound.jp/tech/2024/02/post-1576883.html
◾️リリース情報
晴いちばん『Ruins Record』
5月8日(水)リリース
CD購入:https://lnk.to/RuinsRecord_CD
【収録曲】 全9曲
1. ポストアポカリプス
2. カッティングパイ
3. アブセンティー
4. カクレミノ
5. 瓦礫日誌
6. フォーリーバンジー
7. ワンダールインズ
8. 廃工場の猫暮らし
9. ワンダールインズ (雄之助 Remix)