『Project CO-MUSIX』対談:猫井ヤスユキ&佐藤日向が向き合う“ガチ恋”の物語 「マンガ×音楽」の新しさ

猫井ヤスユキ&佐藤日向対談

 人気アーティストを多数抱える総合エンターテインメント企業・アミューズと、コミック配信サービス・まんが王国を運営するビーグリーが共同で立ち上げた「マンガ×音楽」のクロスメディアプロジェクト『Project CO-MUSIX』が始動した。

 その第1弾として、4組の漫画家とミュージシャンがコラボレーション。“叶わぬ恋”をテーマとした4篇のオムニバス作品『すべてがサヨナラになる』が展開されている。漫画家とミュージシャンが互いにインスパイアを受け合いながら、どのようにして4つのオムニバスストーリーが完成し、そして「マンガ×音楽」はどのように共鳴し合ったのか、リアルサウンドでは4組の漫画家とアーティストの対談を通して、このプロジェクトの真髄に迫る。

 この記事では、『ガチ恋と私、捧げます』を手がけた漫画家 猫井ヤスユキと、同作への書き下ろし楽曲「キミだけ見てたい」を歌唱し、さらに作詞にも初挑戦した佐藤日向、ふたりの対談をお届けする。(編集部)

猫井ヤスユキと佐藤日向が描いた“ガチ恋”からの発展ストーリー

――おふたりは当初、『ガチ恋と私、捧げます』という原案や作品にどのようなイメージを抱いていましたか?

猫井ヤスユキ(以下、猫井):あらすじや(川口)麻依というキャラクターを見て、最初は結構変わった人というか……ぶっちゃけヤバい奴だなと思いました(笑)。そういう意味では、読んで楽しいものになるんじゃないかなと感じましたね。

佐藤日向(以下、佐藤):「ガチ恋」というワード自体はよく目にしてきたものだけど、それをマンガに落とし込んだ作品に私はそこまで触れてこなかったので、最初はどう展開していくのかがタイトルからは想像できなくて。なので、マンガを読むのがすごく楽しみでしたし、読んでからも「ガチ恋をして、そこからの恋への発展はこうなんだ!」という流れを含めて面白かったです。

――主人公の麻依みたいなキャラクターはどう感じました?

佐藤:読めば読むほどぶっ飛んでいる女の子で、よくも悪くも自分の感情にすごく素直ですし、好きなものに情熱を注げたり、好きを曲げずに進んでいけるというのは、彼女らしい魅力なのかなと思いました。

――猫井先生はこの『ガチ恋と私、捧げます』のように、原作が存在する作品をマンガとして描く時に、まず大事にすることはなんですか?

猫井:僕は原作付きの作品に携わることが多いんですが、原作者さんによってはこだわりがあったり、「自由にやってください」と言ってくださる方もいたりするなかで、僕はわりと受け身でいられるようにしていて。作品がいちばん映えるような絵を意識するようにしています。

猫井ヤスユキ
猫井ヤスユキ

――では、今回は麻依のようなキャラクターをマンガにどう落とし込もうと考えましたか?

猫井:こうやって日常生活のなかで擬態している“変な人”って、意外といると思うんです。なので、読んだ方に「自分より変な人がいる」と安心してもらえたらいいな、とは考えました。とはいえ、あまり身近にいるタイプの人でもないので、取材ではないですが、池袋とかに行ってカードを広げている方々を見て、「麻依もきっとこういう日々を過ごしているのかな?」と、いろいろ気づきもありました。そういう意味では、面白い人だと思いながら描いていましたね。あとは、食が細いから不健康そうに見える部分と、オタ活の時には着飾って人が違って見えるように描こうとか、そういうことは意識しましたね。

佐藤:私はイベントやライブごとにフラワースタンドをいただくことが多いんですけど、フラワースタンドってお高いじゃないですか。だから、ファンの方々が協力し合ってフラワースタンドの計画を立ててくださっていることがあるんですけど、そういうファンの方々のSNS投稿を見かけることがよくあって。各々の持てる限度の熱量で応援してくださる方が私の周りにいらっしゃるので、そういう姿は出役側からすると原動力にもなります。でも、麻依ちゃんの1日に食べるのは食パン1枚だけとか、そういう無理はしてほしくないなとは思います(笑)。

――佐藤さんはこの作品において、「キミだけ見てたい」という楽曲で歌唱のみならず作詞も担当。作詞はこれが初挑戦になります。

佐藤:今まで挑戦したことがなかったので、詞先行のほうがいいのかメロディ先行のほうがいいのかもわからない状態で。「一旦作詞先行でやってみよう」という方向で決まったんですけど、メロディもどういう系統がいいのか、曲の流れもどういうものがいいのかを話し合って、気づいたら曲先行になっていました(笑)。作詞を初めてやるとなると、実体験を書いたほうがやりやすいとは思いつつ、私は普段から本を読むことも多いので原作とリンクするように書くことのほうが私としてはやりやすいと思って。自分っぽさを消すことができるという点では、以前書かせていただいていた書評と通ずるところもあったので、楽しく書かせていただきました。

佐藤日向
佐藤日向

――作品があるからこそ出てくる言葉や表現というのもあったのかなと思います。今回いちばんこだわった点は?

佐藤:曲調はポップだけど、歌詞を読むとちょっと引いちゃうくらい重い女の子を、マンガのなかで使われている言葉も引用して表現したくて。あと、私は普段文章を書く時に(表現などを)硬く書いてしまう癖があるので、麻依ちゃん視点で現代っぽい言葉遣い、たとえば「ら抜き言葉」とか「い抜き言葉」を取り入れながら書きました。レコーディング中にも歌詞を変えながらだったので、今までにはない経験でしたね。そういう意味では、佐藤日向として歌った曲というよりは麻依ちゃんを通して歌った曲と言うほうが近いのかな。

――歌い方でいちばん注力したところは?

佐藤:ねっとり重めに聴こえるように歌いつつ、マンガで最後は「やっぱり推しはひとりだけだ!」という結論に辿り着くので、物語の流れに合わせた感情の振れ幅も表現したくて。たとえば、2番のAメロだと自分の低い声を活かしながら、「もう道を外れちゃったんだから、行くところまで行ってみよう!」というヤケっぽさを入れてみたり。いろいろ挑戦させてもらいました。

――先ほどのお話を聞いていると、曲調やサウンドに対してのアイデアも採用されたようですね。

佐藤:自分が好きな作曲家さんの楽曲をいろいろピックアップして、意見を擦り合わせながら作業を進めていきました。特に今回、ほかの作品の楽曲はバラードが多いと聞いていたので、4つの作品のなかで「お、曲調がガラッと変わったな」と印象に残るものにしたいとも思ったんです。恋をしている女の子が主人公だから曲調はボカロっぽくて、音数が多くてポップに聴こえるけど歌詞はちょっと重たいものにして……と基盤を作って。どんな音を入れたいとか、「サビは音数を多くしたいけど、2番のAメロの頭は音をグッと減らしたい」とか、そういう部分は自分から意見を伝えさせていただきました。

【#すべてがサヨナラになる】「ガチ恋と私、捧げます」(漫画 :猫井ヤスユキ、楽曲:佐藤日向 『キミだけ見てたい』 )

――なるほど。猫井先生はこの楽曲を聴いてどう感じましたか?

猫井:曲がポップなのに声がかっこよくて、すごく聴きやすいというのが最初の印象でした。ちゃんと歌詞にマンガの内容が落とし込まれていて、初めての作詞とは思えない仕上がりで。何回も聴きたくなるし、繰り返していても飽きのない曲だなと思いました。

佐藤:ありがとうございます! 「初作詞とは思えない」と言っていただけるのがすごく嬉しいですね。でも私、プライベートを文字に起こすのがすごく苦手で、日記も続かないんですよ(笑)。自分のことを言語化はできないけど、今回は作品からもらった言葉からインスピレーションを受けて書くという形だったからこそ生まれた歌詞なので、本当にマンガがあってこその楽曲だと思っています。

――もしかしたら、キャラクターや役を通して何かを表現することに普段から精通しているからこそ、それを作詞にもうまくつなげられたのかもしれませんね。

佐藤:そうですね。自分が舞台に立つ時やアニメの台本を読んでいる時、書評の連載をやっている時、大学のレポートを書いている時――その全部をギュッとしたものが作詞だった、ぐらいの感覚なのかな。だから、そこまで作業としては難しく感じなかったのかもしれません。

『ガチ恋と私、捧げます』
『ガチ恋と私、捧げます』

――佐藤さんにとってはキャラクターの声ではなく、作詞と歌で関わるというのも新鮮なコラボレーションかなと思いますし、また猫井先生にとってはこういうクロスメディアプロジェクトに携わることで今までとは違った形で作品が届いていくこともあるのかなと思います。そのあたりの実感は今、どのくらいありますか?

猫井:実感といいますか、作品を広げていく方法は時代を経てどんどん変わってきているんだなとは感じています。どれが主役というわけではなく、“プロジェクトのなかのひとつ”という感覚も面白い。マンガ界と言うと大きすぎるかもしれないですが、これからどうなるんだろうと楽しみです。

佐藤:私が今まで携わってきたメディアミックスプロジェクトだと、アニメで声優をやらせていただいて、舞台でも自分がそのキャラクターを演じて、ライブも自分がステージに立つ、とすべて自分でやることが多かったんですけど、今回は歌唱と作詞でこのコンテンツに携わらせていただくということで、ちょっとだけ心に余裕ができたというか。マンガがあって、さらに実写版では別の方が演じてくださったりと、『ガチ恋と私、捧げます』という作品に対して入り口がたくさんあるわけですよね。そう考えるとすごく先進的で挑戦的だと思うんですよ。TikTokで何かを発信することが主流にはなってきつつも、ドラマとなるとまた新しい手法でもあると思うので、どういうふうに皆さんのもとに届くのか、私自身も楽しみです。自分の曲がTikTokドラマではどう使われるのかもすごく気になりますね。

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