石原夏織、アルバム『Calm Scene』で覗かせた新たな顔 楽曲提供陣16名からメッセージも

石原夏織、シンガーとしての新たな顔

チップチューン、シティポップ、チル……歌の奥深さを再発見

石原夏織(撮影=晴知花)

――また、「キラリアット」は声優ならではの声色と楽しさがありますね。

石原:ありがとうございます。作曲・編曲を担当してくださったヒゲドライバーさんとは2回目です。今回のアルバムはこれまでっぽい曲もあるんですけど、新しい雰囲気の曲が半分くらい入っているので、ファンのみなさんが置いてけぼりにならないように、ということも考えました。俊龍さんの曲があって、クボさんの曲があって、バンドっぽい曲があって……あとはどんな曲が必要か考えたときに、私の好きな4thシングル『Face to Face』のカップリング曲「ポペラ・ホリカ」が浮かんできて。ライブで盛り上がるみんなが楽しんでくれる曲なので、それと近いような、電波ソング的というか、みんながどこでかけ声を入れたらいいか分かりやすい曲がいいなと思って。じゃあそういう曲なら、ヒゲさんに書いていただこうとなりました。

――ゲームに例えた歌詞とピコピコしたサウンドが秀逸ですね。

石原:作詞は児玉雨子さんで、それこそ「ポペラ・ホリカ」を作詞してくださっていて、すごく好きな歌詞だったんです。その時も独自の世界観ができあがっていて、それが私的にも大好きだったので、この曲もぜひ書いてほしいなって。

――歌詞に〈→↑↓↑←AB コマンド決めれば 連打〉など出てきて。

石原:そうそう、すごいですよね(笑)。連打する音の中で、まさか〈右〉とか〈上〉とか出てくるとは、全く想像していなかったので驚いて、第一稿で「これで行きましょう!」となりました。ライブで歌う時は、みんなで右とか上とか、やれたら楽しいだろうなって、すごく想像が広がります。あと、〈(One Two 三 ふぉー Cinq 육 K.O.)〉と、英語、日本語、フランス語、韓国語と、いろんな言語でカウントしているところも楽しくて。〈Cinq 육 〉がサンキューにも聞こえるし、初めて聴いた人はここの歌詞をどう受け取るのかなというところも楽しみです。

――次に「Twinkle Ticking」は何かのアニメのテーマソングのような雰囲気です。

石原:そうですね。ちょっとハードめなロックなので、戦いそうな雰囲気ですよね(笑)。今までもバンドサウンドはありましたけど、こういうテイストのロックは初めてでした。タイトルに「Twinkle」と付いてキラキラとした感じがあるのですが、ダークで黒っぽい色合いが合いそうな感じで、「自分の声質でこの曲に合う格好良さが出せるのかな?」と思ってドキドキしたんですけど、きっとファンの方が好きな感じの曲だと思うので、ライブでみんなの盛り上がりに負けないようにと思って歌いました。

石原夏織(撮影=晴知花)

――「恋の匂い」もいいですね。シティポップのようなサウンド感で、メロディは歌謡曲といった雰囲気のキャッチーさです。

石原:作詞・作曲の多田慎也さんとは初めましてだったのですが、シティポップは歌ったことがなかったし、私自身もシティポップや90年代のJ-POPがすごく好きなので、そういう曲を歌いたいなと思って。そういう曲は多田さんが得意だということで、スタッフさんがオファーしてくださって。

――電話の音が入っていたり〈リグレット〉という言葉が使われていて、そこがシティポップとか90年代っぽいなって。

石原:確かに。実際に歌って、もともと好きなテイストだからすごく気持ちが乗りやすかったし、歌詞も入り込みやすかったです。でもビートが四つ打ちだったりするので、アクセントを付けてリズミカルに歌うんだけど、心はゆったり揺れているみたいな。切ない曲だけど楽しく歌えましたね。

――「Sugar Planets」は、作詞・作曲・編曲が春野さんです。

石原:プロデューサーさんから、1年半くらい前に「こういうチルな曲の感じが合いそうだから、やってみない?」と言われていて。でも自分の声って割と鋭くてウィスパーな感じではないから、「合うのかな?」と思っていたんですけど、今回はアルバムだし新しいことに挑戦するにはもってこいの機会だと思って、チャレンジすることになりました。実際に歌うと、力を抜いて歌うのがすごく難しかったです。声優だからなのか、滑舌を甘くして歌っても言葉がはっきり聞こえてしまうので、それをできるだけ削いでほしいという指示をいただいて。何なら「言葉が分からないくらいでいい」と。でも、それがすごく難しくて。私のイメージでは、夜にダウンライトの下でコーヒーとかお茶を飲んでゆっくりしている時にぴったりの曲だから、ハキハキしちゃうとそういう雰囲気を壊してしまうのかなって。

石原夏織(撮影=晴知花)

――声優としてこれまで磨き抜いてきた部分を、逆に出してはいけないという。

石原:今までやってきたことと逆のことをするのが、本当に難しかったし、歌って奥深いなっていうことが再発見できました。声優として歌う時は、ちょっと滑舌が悪いと歌い直しになってしまうんだけど、それだけじゃないんだという部分が自分の中でより明確になりましたね。他の方の曲を歌うとちょっと違って聞こえることが多くて、「どうしてこの差が埋まらないのだろう」と思っていたんですけど、その疑問がここで解消された感じです。まだまだ自分のものにはできていないけど、新たな武器として身につけることができたなら、この先にまたこういうテイストだったり、まだやったことのないテイストにチャレンジする時に、もう少しすんなりできたり、自分が表現したいと思うものがより表現できるのかなと思いました。

――歌詞の〈せまっこくて〉とか〈~くれまいか〉とか、〈うだった〉とか、言い回しが面白いですよね。

石原:春野さんワールドだなって。今回ご一緒させていただくにあたって、春野さんが歌っていらっしゃる他の曲も聴いたんですけど、どれも世界観があって素敵だったし、仮歌を春野さんが歌ってくださっていて、それも独特の雰囲気がありました。さっきの滑舌の話も含めて歌詞の世界感とかも、正しいとか正しくないとかではなく、創作って自由なんだなってすごく思いました。きれいだったらOK、正しかったらOKとかではないんだなって。

――正解がないというか。

石原:滑舌がきれいじゃなくても、ものによってはそれが正解になる。それが個性となり魅力となるんだなと。

――こういう「Sugar Planets」のような曲は、ライブではどんな風に披露するんでしょうね?

石原:そうなんですよね。それに、この曲が入る位置によって聞こえ方も全然変わるだろうし。

石原夏織 3rd Album「Calm Scene」クロスフェード

――曲順も悩みましたか?

石原:結構悩みました。本当に難しくて。例えば「Gift」を最後に持ってきたのは、作品のエンディングテーマだったこともありますが、最後にみんなで〈La la la〉と歌う部分がエンディングっぽくて、歌詞の内容も含めてシングル曲だけど最後に持ってきたいという思いがあって。そこに至るまでの10曲を、どこにどれを持ってきたら、心がストップせずみんなが楽しく聴いてもらえるか、すごく考えました。一番難しかったのが「キラリアット」の位置です。どこに入っても異質だから(笑)。それを真ん中にすることで、一度流れをスパンと切って、その後に切ない流れを作ろうと。「恋の匂い」で別れの感じを歌って、「Sugar Planets」で距離が縮まって、「Twinkle Ticking」で未来を見据えるみたいな流れを、後半は考えてみました。

――このままの曲順でライブをやっても良さそうですね。

石原:本当にそうです。

――6月~7月には、全国4都市のツアーを開催します。

石原:「5周年のツアーも良かったけど、6年目はこんなに表現の幅が広がるんだ、5周年で終わりじゃなかったね、越えられたね」と思ってもらえるようなライブにしたいと思っています。ファンのみなさんに「こういうジャンルの曲もいいね」と思ってもらえるようにもしたいです。

葉の色の変化で時間の経過を表したアートワークにも注目

石原夏織(撮影=晴知花)

――『Calm Scene』にちなんで、穏やかな気持ちになる時はどんな時ですか?

石原:最近ではゲーム『あつまれ どうぶつの森』をやっている時と、カフェのテラス席でお茶をしている時です。地方でちょっと緑が見えるお店だとうれしいし、その土地で採れた野菜で作った料理が出た時は「生きてて最高!」という気持ちになります。京都が好きで、大阪でリリースイベントがある時は、一回京都を経由してから大阪に入る時もあって。鴨川が流れていて穏やかな雰囲気じゃないですか。遠くに山があって、街も落ち着いているし。

――人間は緑とか自然を見ると落ち着くと言いますし。今回のジャケット写真も、森ですね。

石原:はい。前のシングル「Paraglider」と「Gift」のジャケ写が空だったし、前回のアルバムが『Water Drop』というタイトルでジャケ写を水辺で撮ったから、ブルーじゃないほうがいいなと。それで、今までメインカラーにしたことのない色にしてみました。凪というとみなさん波を想像すると思うけど、風で葉っぱや緑がそよそよと揺れているのも、ある種の凪と言えるのではないかと思いました。

――今回はどんなところで撮影したのですか?

石原:関東近郊のとある公園で撮ったんですけど、変わったかたちの木がいっぱい生えていて、野鳥の観察もできるすごく広い公園なんです。「きゃにめ豪華盤」のジャケ写では、葉っぱでできた孔雀を持っているんですけど、野鳥を観察しに来た方がそれを観て「新種の鳥がいる!」って驚いちゃうんじゃないかと思って、ドキドキしながら撮影していました(笑)。

――そもそもなぜ孔雀を?

石原:デザイナーさんのアイデアで、孔雀って羽の色がグラデーションでカラフルになっていて、それを葉っぱの色で表現しています。綺麗な緑から紅葉していくような感じで、それを前作から4年という時間の経過とも重ねています。「初回限定盤」は葉っぱで作られた額縁の中で私が絵画になっているイメージで、その額縁の葉っぱも色がちょっと変化しています。アルバムのタイミングやファンのみなさんとの月日を、葉っぱの色の変化で表現したアートワークになっています。

――デジタルではなくフィルムのカメラで撮ったそうですけど。

石原:両方で撮ったんですけど、最終的にフィルムで撮ったほうが採用されました。フィルムは今回が初めてだったんですけど、アートワークのコンセプトが絵画っぽいイメージだったので、より質感が絵画に近い感じだったのがフィルムで、すごくいい感じになったと思います。「きゃにめ豪華盤」と「初回限定盤」にはミニ写真集がついているので、写真もたっぷり楽しんでいただきたいです。

石原夏織(撮影=晴知花)

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