鈴木慶一に聞く『72年間のTOKYO』刊行後日談 初出エピソード、秘めたる思いも文字にした真意

鈴木慶一と振り返る『72年間のTOKYO』

亡き盟友たちへの思いを初めて文字にした理由

――大滝詠一さん、高橋幸宏さん、PANTAさん、そしてかしぶち哲郎さんや岡田徹さんといった亡くなった方々に言及した部分への反響も大きいです。

鈴木慶一:結論を言えばもう会えないんだよ。ときどき思い出すよね。両親も親戚もだ。「死」というものは、生き物に絶対訪れるものだけど、なかなか受け入れがたいな。だから、幸宏のベストアルバム(『THE BEST OF YUKIHIRO TAKAHASHI [EMI YEARS 1988-2013]』)に関わることはかなり厳しいことだった。

――あの時代の楽曲制作に関わった慶一さんじゃないと選曲できないベストアルバムだと思います。

鈴木慶一:2枚組じゃなくて1枚だったら、私が関わった曲だけにしちゃおうかなと思ったんだけど、それも横暴だなと。坂本(龍一)さんも含めて、こんなにいなくなるのは、そういうときが来ているんですよ。だけど、それを「しょうがないな」とは思い切れないんだよな。いや、なかなか難しいな。

――やはり今も受け入れがたいと。

鈴木慶一:会いたいと思うよね。みんなときどき会っていたし。

――亡くなった仲間への慶一さんの言葉がこれだけまとまったこともなかったですよね。

鈴木慶一:文章にはしていなかったからね。ラジオは出たけども、それをウェブ上でも文字にしないでくれって言っていたし。

――今回はなんで文字にさせてくれたんですか?

鈴木慶一:72年のヒストリーを語る上では文字にせざるをえないだろう。みなさん、岡田くんがムーンライダーズのリーダーシップをとっていたというところが衝撃でもあったようだよ。自分の曲のことになると、本当に集中するタイプだったし、ワガママな人ではあったけれども、自分の曲が終わるとムーンライダーズというバンド全体を見ていたね。それは、亡くなってから気づくんだ。だから、文字にしてもいいなと思った。

――慶一さんの音楽を聴いてきた方々が、自分の人生と重ね合わせながら読んでいるのも多く目にしました。

鈴木慶一:それは自分の個人の歴史と、私の歴史の、どこかの接点でしょ? それは、はっきり言って私には関係ないことだ(笑)。申し訳ないが。そういう重要なことだと思ってくれてもいいし、重要でないと思ってくれてもいい。「あなたの一生の中で、ここのポイントが重要だった」というのは勝手に発見してください。

――慶一さんの周囲では、意外な人からの反響はありましたか?

鈴木慶一:ムーンライダーズを知らないサッカーチームの人が、「この人、どんな人なんだろう?」といっぱい読んでくれたみたいですね。「面白かったですよ」って言ってるね。

――慶一さんはサッカーチームでは音楽活動について言わないんですか?

鈴木慶一:言ってない。ピッチ上はみんな平等だからね。ダイレクトに感想を言ってくるのは、やっぱりムーンライダーズを知らない人たち。高校の友達とかだね。「面白い家ですね」とか「大変でしたね」とかね。

――ムーンライダーズを知らない人たちからも借金問題について反応があるんですね。あと、補足したいところはありますか?

鈴木慶一:KERAに指摘されたんだ、「保管」は「補完」じゃないかって。

――298ページですね。これは文脈上、悩んだんです。慶一さん的にはどちらですか?

鈴木慶一:難しいところだけど、「補完」だね。

――では、それも3刷目のときに。KERAさんは『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』を読んで、「おいらもやっぱり語り下ろしかな」と書いてくれていましたね。

鈴木慶一:自分で書くと、第三者の目が入らないってことだね。

――今回は膨大な資料考証もしたので、そう言っていただけてありがたいです。

鈴木慶一:それは自分でやれないよ、ありがとうございます。雑誌の記事もここまでは追えないもん。

まだまだ作りたい音楽がある P.K.Oの未完成5曲の行方も

――読んだ方は、PANTAさんとのP.K.Oの未完成の5曲がどうなるのかも気になっていると思います。頭脳警察の『東京オオカミ』もリリースされましたね。

鈴木慶一:頭脳警察は頭脳警察というバンドだし、P.K.OはP.K.Oで小さくふたりだけでやろうかなと思っているね。

――2月24日のムーンライダーズのファンクラブイベントでは、6月には出したいと話していましたね。けっこう間近ですよね。

鈴木慶一:だけど、今ちょっと私の声が出ないんだよ(笑)。

――PANTAさんが歌えなかった楽曲は、慶一さんが歌うわけですね。

鈴木慶一:うん。バッキングトラックがほとんどできてるからね。5曲は全部完成しているし、残りの5曲に歌を入れていって、音をちょっと足していく。PANTAが遺言のように「あの曲のあそこに『007/ゴールドフィンガー』みたいなバラーラー♪っていうチューバを入れてくれ」と言っていたから。ちょっと1月と2月は異常な忙しさで、3月に入ったら作業を始めるよ。

――ファンクラブイベントでは、劇伴で39曲を作ったと言っていましたね。今も何かの仕事で高崎に行っているし。

鈴木慶一:基本、全部映画だね。映画はだいたい(作るのに)1年かかるでしょう。みんないい映画で、共通点は死んだ人のお話なんだ。セリフを言っていて、考え込んでしまうようなときもあるけど、「それは置いといて、映画は嘘だから」と自分に言い聞かせる。

――ファンクラブイベントのときに、ソロアルバムも作りたいと話していましたね。

鈴木慶一:うん、作りたくなるような音楽がたくさんあるんだよ。それはムーンライダーズというバンドに収まらないんで、そういう音楽があると、「違うところで」となるでしょう。P.K.Oは曲は全部できてるし、今興味があるものを作ろうとするとソロしかないな、ということかな。

――70歳を超えたミュージシャンが、まだまだ作りたい音楽があるというのがすごいですよね。

鈴木慶一:でも、海外ではいっぱいいるじゃない?

――今回72年分の話は書籍になったけれど、慶一さんの中では遺言めいたものではなく、ここまでの通過点としてまとめておいた、というぐらいの感覚ですか?

鈴木慶一:長い間まとめてなかったので、まとめておいた。記憶力っていうのは本当に怪しくなってくるんでね、いいときにまとめてくれたと思うよ。

――ありがとうございます。

鈴木慶一:あと何年、このように活動できるかわからないけども、その分はまたお願いしますわ(笑)。

※1:https://realsound.jp/book/2024/02/post-1571794.html

■書籍情報
タイトル:『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』
blueprint book store購入:https://blueprintbookstore.com/items/6570603f72c3a4015daca272

著者:宗像明将
発売日:2023年12月26日 ※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:3,300円(税込価格/本体3,000円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:四六判ソフトカバー/336頁
ISBN:978-4-909852-47-2

■リリース情報
No Lie-Sense10周年記念ミニアルバム『Twisted Glove』好評発売中。
3月31日(日)より配信もスタート。

ムーンライダーズは日本語歌詞の実験室だ ロックで何が歌えるか、言葉の可能性への挑戦

以前、曽我部恵一(サニーデイ・サービス)と澤部渡(スカート)にムーンライダーズの魅力について対談してもらった時、2人は口を揃えて…

ムーンライダーズが特異なバンドであり続ける理由 優れたリスナー、先鋭的なディガーとしての鈴木慶一の功績

ムーンライダーズは、日本の音楽史において最も特異なバンドの一つである。長大なキャリアを持っているのだが、その音楽性は作品ごとに異…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる