『CDTV』は2時間レギュラー、各局新番組も続々……テレビがいま音楽番組に注力する理由

NHKの音楽番組の歴史をハイブリッドした『Venue101』

 一方、年末の国民的音楽番組『NHK紅白歌合戦』を擁し、常に音楽番組というコンテンツを提供し続けているNHKの動きにも注目していきたい。

 NHKの音楽番組の歴史にはいくつかの軸がある。その一つはNHKホールを収録場所として作られてきた公開収録スタイルの番組という流れ。そして、もう一つはNHK内の101スタジオを収録場所に圧倒的なセットを組み、しっかりとアーティスト軸にフォーカスして見せていく番組。そこにさらに、視聴ターゲットの要素が加わっていく。若い視聴者をターゲットとして、1974年からスタートした『レッツゴーヤング』は毎週日曜日18時にオンエアし、当時の人気アイドル歌手が大挙出演し、華を添えた。その後、1993年から始まった『ポップジャム』は視聴ターゲットをそのままにNHKホールでの収録スタイルを引き継ぎ、何回かの枠移動を繰り返しながら土曜の23時台に定着していった。そして、今、土曜の夜に生放送でオンエアされている『Venue101』は、そんな土曜の枠の若い視聴者をターゲットとしたゾーンを引き継ぎ、番組名に101スタジオの名前を冠することで、上記2つの軸のハイブリッドを目指しているかのようだ。

 その『Venue101』は、SNSを意識した番組作りが特徴だ。オンエア前から、XやInstagram、LINEなどを駆使して出演者自身がSNS投稿することで、オンエアへの期待感を煽っていく手法が絶妙である。オンエア後もパフォーマンス映像が期間限定でYouTubeにアップロードされ、メイキング(撮影の裏側)や出演感想コメントなども順次SNSに投稿され、視聴者がオンエアの余韻を楽しめる仕掛けが施され、次回への期待へとつなげていく。歴史と伝統を受け継ぎつつSNS時代とも積極的にリンクしていく、令和ならではの音楽番組となっているのだ。

 そしてこの春、今までの軸とは全く別種の『tiny desk concerts JAPAN』という新たな番組が加わった。アメリカの公共放送NPR(National Public Radio)がネット展開し、全世界にブームを巻き起こした音楽コンテンツ『Tiny Desk Concert』のローカライズの権利を獲得したのである。NHK WORLD JAPANで国際展開しながら総合テレビでもオンエアされる。アーティストのパフォーマンス空間は、NHKホールや101スタジオとは真逆ともいえる東京・渋谷のNHKオフィス。文字通り小さな机と密室的な空間で展開される。本家ではテイラー・スウィフトやビヨンセ、BTSなども出演したこのフォーマットをNHK風にどうアレンジしていくのか注目だ。

 こうした各局の音楽番組の積極的な攻めの姿勢は、音楽コンテンツを取り巻く新たな潮目を形成していくことになるのだろうか。

人気番組の看板を守りつつ、新たなチャレンジも

 テレビ朝日は2019年に放送時間を毎週金曜21時に移動した『ミュージックステーション』を柱としながら、レジェンドアーティストの紹介や新たなアーティストを発掘しつづけている『関ジャム 完全燃SHOW』とも連携し、局をあげて『METROCK』などの音楽フェス運営にも積極的に進出している。そんなテレビ朝日の今後の動向にも要注目だ。そして、最後にフジテレビ『MUSIC FAIR』についても触れたい。この激動の時代の中、良質な音楽番組として60年間3000回を継続した同番組は、 “継続は力なり”という言葉を改めて思い知らされる。これもまた音楽番組のひとつの達成であり、不変な価値を伴って時代を超越して光り輝く、歴史と伝統に裏打ちされた大きな成果なのだろうと強く思う。

 こうして各局の音楽番組が歴史的な変遷と熟成期間を経て、競い合いながら、再び主役に躍り出す日がいよいよこの春やってくる。

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