『ギタージャンボリー』、Eggsとのタッグで取り組んだオーディションで見えたもの 藤田琢己が語るアーティストへの思い
2024年3月2日、3日の2日間、東京・両国国技館で開催された『J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 2024 supported by 奥村組』(以下、ギタージャンボリー)。ラジオ局J-WAVE(81.3FM)が主催する、日本最大級のギター弾き語りフェスだ。今回で9回目を迎え、土俵に見立てたセンターステージを客席がぐるりと囲む会場には、他のフェスやイベントにはない『ギタージャンボリー』ならではのムードや特徴が観客の中にも出演アーティストの中にもしっかりと根づき、受け入れられていることがはっきりと伝わる2日間だったように思う。
その『ギタージャンボリー』にはインディーズアーティストをフックアップするオーディション枠がある。2022年より2年連続で開催されてきた企画だが、今年は、国技館といえば相撲、ということで「幕間オーディション~新弟子検査~」と冠して実施された。1日目には大東まみ、2日目には灯燈あかと、勝ち抜いたアーティストも今回国技館のステージに立った。J-WAVEとインディーズアーティストの活動を支援するプラットフォームEggsとのタッグによって行われたこのオーディションは、これからの音楽シーンの未来をも思わせるものだった。
主催者はどんな思いでこのフェスを開催し、オーディションを行っているのか。ラジオのナビゲーターとして活躍しつつ『ギタージャンボリー』では「新弟子検査」のプロデューサーも務めた藤田琢己に語ってもらった。(小川智宏)
両国国技館でしか味わえない部分をみんな体験してくれている
――藤田さんはJ-WAVEのナビゲーターとしてもご活躍されていますが、『ギタージャンボリー』にはどういう形でかかわっていらっしゃるんですか?
藤田琢己(以下、藤田):現在はナビゲーターをやりながら、J-WAVEのイベント事業部でも仕事をさせていただいているのですが、『ギタージャンボリー』では影アナ(場内アナウンス)をやりつつ、今回はオーディション企画「新弟子検査」のプロデューサーとしても関わらせてもらいました。
――両国国技館で開催されるフェスなので、オーディションも大相撲にちなんで「新弟子検査」なんですね。
藤田:はい。アーティスト登場時にスポンサーの読み上げをするんですけど、それも相撲の懸賞にみたてて、ステージで懸賞幕を掲げていたりしますね。
――今回で9回目となった『ギタージャンボリー』ですが、かなりユニークなフェスですよね。これだけの規模で“弾き語りだけ”というのは他になかなかないなと。
藤田:そうですね。両国国技館に土俵を模したステージを置いて、弾き語りの「真剣勝負」をするという。なんで「勝負」かというと、これはこのイベントを立ち上げたプロデューサーが言っているんですけど、弾き語りって、アーティストとお客さんの息遣いが直に感じられるんですよね。本当に生の音と生の声が届いてくる。演奏する側と聴く側がお互いに固唾を飲んでお互いを見つめているような緊張感があったりする。だから真剣勝負なんです。両国国技館という会場自体もその息遣いがダイレクトに伝わるような場所なので、姿勢と環境が完全に調和しているなと思っています。
――国技館でライブをするというのは、アーティストにとってもレアな機会ですよね。
藤田:普段相撲が行われているというのもあるからなのか、会場に入った瞬間に何か凛とした空気を感じるんですよね。神々しさを感じるというか。砂かぶり席に座って上を見上げると“屋形”と呼ばれる吊り屋根があって、その周りを歴代の優勝力士の優勝額が囲んでいる。見守られている感じもするし、お行儀よくしなきゃと思わせるような緊張感があります。また、アーティストからはリバーブ感がいいと言ってもらえることもあるんです。360度客席に囲まれているというのは、はたから見るとやりづらいのかなとも思うんですけど、その独特の響き方がいいと言う方もいらっしゃいますね。
――僕もこれまで何度か拝見して、今回もお邪魔させていただいたんですが、後ろのほうからでもステージがすごく近く感じるんですよね。
藤田:そうだと思います。それにすごく生な感じがするというか。たとえば今回もご出演いただいた竹原ピストルさんは『ギタージャンボリー』最多出場なんですよ。でも、だからといって既視感があるかというと全然違って。今年の竹原ピストルさんは去年とは違うし、他の会場で観るピストルさんとも違う。独特の空気と独特の響きがあるあの場所だからこそ、違って見えてくる。それも両国国技館マジックなのかなと思います。ステージが回転するので、すべての方が正面からアーティストを観るチャンスがあるのもここならではだなと思います。どこに座っていても自分のほうを見て歌ってくれる瞬間がある。それも独特ですよね。
――その国技館でここまで歴史を積み重ねてきた『ギタージャンボリー』ですが、今回の2日間はいかがでしたか?
藤田:弾き語りでどれだけ惹きつけることができるかっていう勝負感はずっと変わらないなと思います。でも、今回初出演してくれたクジラ夜の街のような若手もいたり、一方で竹内アンナさんなどはフレッシュなイメージのあるアーティストですけど、これまで何回も出てもらって会場の掴み方も知っていて圧倒的なパフォーマンスを見せるアーティストもいたり。「こういうアーティストのこういうライブだけが売りなんです」っていうことは、むしろどんどんなくなってきたのかなという感覚がありますね。
――お客さんにとっても『ギタージャンボリー』の楽しみ方が染みついてきたというか、あの場でのアーティストとの関係値がいよいよ固まってきて、他のフェスやイベントとは違う、このフェスならではの空気が濃くなってきた感じがしました。
藤田:今年、特にTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)さんのステージにはそういうところを思いました。TOSHI-LOWさんはそんなに昔から出てくれているわけじゃないんですけど、お客さんとの呼吸の合わせ方とか、共演者の誰かをちょっとイジったりとか、自分の曲をやるだけでは絶対に掴めない空気を生み出してくれました。『ギタージャンボリー』を知っているというのもそうだし、キャリアの中でいろいろな場所を経てきたからこそ、そういう力強い勝負ができる。他の音という「鎧」を剥ぎ取った先にある肉体の強さ、人間味や呼吸感などの違いが『ギタージャンボリー』の文化になってきているんじゃないかなと思います。
あと、お客さんの中にも何回も来てくれている『ギタージャンボリー』ファンの方がいらっしゃるので、そういう人たちがより率先してリラックスした雰囲気を作ってくださっているというのもあると思います。他の会場だとどうしても全員が同じ方向を向いてライブを観る形になるんですけど、国技館の場合マス席で胡座をかいて観たりできるので、みんながリラックスしているのが見えるんですよね。胡座でお酒を飲んで、焼鳥を食べて(笑)。
――確かに、あんなに日本酒を飲んでいる人が多いライブもあまりないですよね(笑)。
藤田:我々は「音楽花見」と呼んでますけど、地べたに座ってお花見をしている感覚というか。あの感覚がやっぱり独特ですよね。両国国技館でしか味わえない部分をみんな体験してくれて、そのワクワクやドキドキ感があの雰囲気につながっているんじゃないかと思います。実際に毎年来てくれている方もいらっしゃいますし、誰が出るかではなくイベント自体にファンがつくっていうのは、国技館という会場だったから特にあるだろうなと思っています。
――藤田さんの中で、今回の2日間で特に印象的だったシーンはありますか?
藤田:全部思い出深いのですが、個人的には辻仁成さんのライブを弾き語りで生で観たことが印象的でした。みなさん、辻さんというと「ZOO」の印象が強いと思うんですけど、こんなフィジカルでロックバンドみたいに演奏するかっこよさがあるんだっていう。本当にソリッドにロックなパフォーマンスで、緊張感がピリッと走るような演奏がずっとこだまして……あれは記憶に残りました。