Mrs. GREEN APPLEによる破壊と再構築 『The White Lounge』は楽曲を主演とした斬新な舞台に

 Mrs. GREEN APPLEが、昨年12月から今年3月にかけて行った全国ツアー『Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”』。来場者にネタバレ禁止のお願いをしていた今回のツアーは、従来のミセスのライブとも、ロックバンドのライブと聞いて多くの人が想像するであろうものとも異なる公演で、演劇・舞台的な構成を採っていた。大森元貴(Vo/Gt)はギターを持たず、歌ったり踊ったり演じたりしている。若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)も自身の楽器を演奏しつつ、曲によっては踊ったり演じたりする。観客は原則着席での観覧で、公演半ばに幕間として15分間の休憩が設けられていたのも、終演後にカーテンコールがあったのも演劇・舞台的だった。昨年末、Mrs. GREEN APPLEが様々な音楽番組に出演した際、大森の華やかな立ち振る舞いに対して「ミュージカルもできるんじゃないか」という声が上がっていたが、その裏で彼らはこんなツアーをまわっていたのだ。

 この記事では、3月2日に東京ガーデンシアターで行われたセミファイナル公演をレポートする。この日のカーテンコールで3人は「年末の活躍ぶり、見てくれました?」「それ、自分から言うことじゃないよ(笑)」とふざけながら言っていたが、2023年のミセスの活躍ぶりは確かに凄まじく、バンドの間口は大きく広がった。個人的には、60代の自分の親がミセスのことを把握していたり、近所の小学生が「ダンスホール」を歌いながら歩いていたりするのを見るたびに、“国民的バンド”というフレーズが当たり前に使われるようになった現状を実感している。

 そんなタイミングで、いくらファンクラブツアーとはいえ、これほどコンセプチュアルかつ実験的なツアーをまわるのか、という話である。確かに、「広がったことで厚みがなくならないように」とバランスに都度気をつけながら歩んできたバンドだ。2023年の華やかな動きのあとに、孤独と夜の歌「ナハトムジーク」を2024年最初の曲としてリリースしたのも、おそらく天秤を一方に傾けないためだろう。しかしそれでも今回の『The White Lounge』に関しては、「かなり振り切ったな」という印象が勝る。

 その上で何がどう新しかったのか、ツアーの目的は何だったのかを推測したい。結論から言うと、楽曲の破壊と再構築、一つの視点を与えることで無限の可能性を提示することが目的であり、そのための手段として、楽曲を主演とした舞台を繰り広げたのではないだろうか。その観点から捉えると、オープニングムービーに「starring 大森元貴 若井滉斗 藤澤涼架」という表記があった昨年のドームライブ、アリーナツアーとはライブの在り方が対照的。3人は大森元貴、若井滉斗、藤澤涼架としてステージに立っておらず、ダンスにしろ演技にしろ、動きは全て脚本上の楽曲の立ち位置やストーリーに準じたものだった。それは10名のキャストについても同様だ。会場ロビーに展示されていた『The White Lounge』のキービジュアルは、角度を変えると違う絵に見えるトリックアートだった。それと同じようなことを彼らは音楽で試みたのではないだろうか。

大森元貴

 テーブルやソファ、バーカウンターのある2階建ての真っ白なセットに、なぜか天井から吊るされている家具たち。白いドレスやスーツを着て談笑する仮面の人々。会場に出現したThe White Loungeは、現実と虚構、生と死、俗世と浄土、自分と他者といった2つの世界のあわい(間)にある場所という印象で、「白いものを身につけてお越しください」というドレスコードも意味深に思えた。お遍路での巡礼服にしろ、亡くなった人に着せる着物にしろ、人は違う世界に旅立つ時に白を纏う。

 そんな空間で繰り広げられた演目は、ドアを開けて登場した大森が歌うツアーコンセプトに沿った書き下ろし曲から始まった。以降は、ホワイトノイズ演出による場面転換を挟みながら物語を展開。ステージセットの裏には、ストリングス、トランペット、サックスを交えた『Studio Session Live』を踏襲した編成のバンドが構えていて、どの曲も大幅にリアレンジされていた。そんななか、若井はロックギタリストらしいアプローチから歌に寄り添う繊細な演奏まで披露し、藤澤はキーボードにフルートにピッコロにアコーディオンと様々な楽器を演奏。ドームライブやアリーナツアーのドキュメンタリー映像では、2人がアレンジを取り仕切る姿が見られたが、彼らがミュージシャンとしてより頼もしく成長した今だからこそ、今回の新アレンジも実現したのだろう。

藤澤涼架、若井滉斗

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