草彅剛はいつも“新たな顔”を見せてくれる 主演映画『碁盤斬り』魂を揺さぶる演技への期待

 2月27日、草彅剛が主演する映画『碁盤斬り』(5月17日公開)の本ポスター、本予告、場面写真が公開された。そのビジュアルを見た瞬間、ゾクゾクする感覚を得たのは筆者だけではなかっただろう。近年、草彅は作品ごとに新しい顔を見せてくれている。今作においても、それは期待を大きく超えてきたといった印象だった。

幾層にも重なる複雑な感情を想像させる草彅剛の視線

 特に、一点を見つめる横顔が印象的な本ポスターには思わず釘付けになった。伸びっぱなしの髭に、少し開いている口元。頬には汚れもついており、髪も少々乱れている。そんな荒々しい風貌においても、決して曇ることのないまっすぐな視線。怒り、憂い、悔しさ、そして成し遂げるべきことを見据えた覚悟……一言では表せない複雑な人間の感情を掻き立てられる表情に、目が離せなくなった。

 草彅が演じるのは、実直すぎる性格ゆえに身に覚えのない罪によって故郷の彦根藩を追われた浪人・柳田格之進だ。妻に先立たれ、今は娘の絹(清原果耶)とともに、囲碁を嗜みながら江戸で貧乏暮らしをしている。だがある日、旧知の藩士から冤罪事件の真相を知ることに。そこには妻の最期にまつわる新たな事実も含まれていた。身の潔白を証明しようと一度は自ら命を絶とうとする格之進。しかし、妻の敵討ちもせず、濡れ衣を着せられたまま死ぬのかという絹の訴えにより思いとどまり、父と娘、それぞれの誇りをかけて復讐を決意するのだった。

 本予告の映像を観ると、さらに格之進として生きる草彅の姿に引き込まれた。清廉潔白に生きようとしてきた格之進が、理不尽な冤罪事件に巻き込まれていく。そうした不本意な人生の荒波は、時代や立場が異なったとしても誰の身にも起こり得ることでもある。そして、そんな絶望の淵に立たされた時にこそ、その人ならではの生き様が見えてくるもの。

 予告映像のなかで「なんだその目は」と問われるシーンが出てくるが、まさにその物言わぬ眼差しがこの映画の芯となって観る者の心を打つ。自らの誇りのために、大切な存在のために、人はどのように立ち上がり、闘っていくのか。格之進を通じて、草彅という人間の心の奥底にある芯の強さが、私たちに訴えてくるような映画になりそうだ。

5月17日(金)公開映画『碁盤斬り』60秒予告

演じるのは「古き良き物に宿る色褪せることない魂」

 草彅といえば、これまで現代劇での活躍が目覚ましいが、時代劇との相性のよさも本作で強く印象づけるのではないかと期待が高まる。実際に、2021年に出演したNHK大河ドラマ『青天を衝け』では、徳川慶喜役で『第59回ギャラクシー賞』テレビ部門個人賞を受賞。「後世に残る徳川慶喜像を作り上げた」と高い評価を受け、大きな話題となったことも記憶に新しい。

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 草彅は、自分ではどうすることもできない大きな流れに翻弄されながら、自分自身と向き合い、じわじわと変化していく心の動きを繊細に表現していくことが非常に巧い。現代劇においても、その繊細な演技は十分に発揮されるが、文化やしきたりが強く根づいている営みを演じる時代劇では、目に心情が滲み出る草彅の表現力がより光るように思う。

 草彅は本作の出演に際して「古き良き物に宿る色褪せることない魂を演じてみたいです」とコメントをしていた。その「古き良き物に宿る色褪せることのない魂」とは、武士道をはじめとした、かつて多くの人々が抱いてきた“誇り”と呼べる部分だろう。今の日本では武士のように生きる人はなかなかいない。しかし、私たちのなかにこの国に生きる者として誠実であろうという魂は変わらずあるのだと、どこかで信じられているような気がする。それは昭和、平成、令和と大きなうねりのなかで、世間から大きな注目を集めながら、飛び交う憶測にも口を閉ざし、実直に目の前の活動に取り組んできた彼の生き様とも重なるようにも思えるのだ。

 時代の移ろいとともに、多くのものが変わっていっているように感じるが、古くなって途絶えたように思えても、大事なことは確かに引き継がれている。そして、その部分が草彅の誠実な演技によって呼び覚まされる感覚が、きっとこの映画でも味わえるのではないだろうか。

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