草彅剛、“到達”の一年を振り返る 6年ぶり主演ドラマや朝ドラ『ブギウギ』、そして舞台まで
草彅剛にとって、2023年は“到達”の一年だったように思う。2017年に新しい地図を広げて以降、しばらく遠のくことになった地上波テレビの世界。だが、2023年は実に6年ぶりとなる主演ドラマ『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)のスタートから幕を開けたのが印象的だった。
『銭の戦争』(2015年)、『嘘の戦争』(2017年)に続く、“戦争シリーズ”の第3弾。制作スタッフが再集結して作られた『罠の戦争』は、オンエアのたびにSNSで世界トレンド1位を獲得するなど大きな話題を呼んだ。政治の世界を舞台に騙すか騙されるかのスリリングな物語が繰り広げられ、草彅演じる主人公・鷲津亨さえも信じられなくなる視聴者も続出した。いい人であってほしいという期待と、人間なら誰しもが足をすくわれそうな部分にも頷ける。そんな人間味あふれるキャラクターを熱く繊細に表現できたのは、やはり草彅だからこそだと思わされた。
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加えて主演ドラマの番組宣伝を通じて、バラエティ番組で“お久しぶり”となる人との再会も多くあった。『さんまのまんま新春SP』(フジテレビ系)では7年ぶりに明石家さんまと、『おかべろ』(カンテレ)ではナインティナインの岡村隆史と6年ぶりに共演。明石家さんまからは「戦友と会う感じ」と慕われ、岡村とは「ともに歩んできたと思っている」と盛り上がる。そんな時の経過を忘れさせる距離感で話ができるのも、草彅だからなせることだと思った。
また“お久しぶり”という点では、11年ぶりに主演を務めた『世にも奇妙な物語 '23秋の特別編』(フジテレビ系)でも、脚本・演出を務めた星護との再会があった。星と草彅は、ドラマ『僕の生きる道』(2003年)、『僕の歩く道』(2006年/いずれもカンテレ・フジテレビ系)、映画『僕と妻の1778の物語』(2011年)の、“僕シリーズ”の3作品を手掛けてきた仲だ。芸能の仕事とは、作品ごとの一期一会になりやすいものだが、こうして久しぶりのタッグを組むことが叶うのは、その間の積み重ねがあってこそ。
現在、絶賛放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK総合)での羽鳥善一役も、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)での活躍があったから。『ブギウギ』の制作統括・福岡利武が、最後の将軍・徳川慶喜という難しい役どころを演じきった草彅の現場での明るい姿を見て「次にドラマで一緒させていただく機会があれば、明るい役をやってもらいたいな」と羽鳥役をオファーしたのだと明かしている(※1)。
振り返ってみれば、2017年からの数年は草彅にとっては模索の時代だった。そのなかでも、決してブレることがなかったのは彼の明るさと、好きなことへのまっすぐさだ。草彅の仕事ぶりを見ていると、いつも前向きに取り組んでいることが伝わってきて気持ちがいい。どんなに環境が変わったとしても、変わることのない「いいものを生み出そう」という気持ちの強さに、携わったからにはとことん楽しもうという没頭力。その清々しい仕事ぶりが草彅の可能性を大きく広げてきたように思う。
「最近ね、私の動画全然伸びてないんですよ」とは、YouTubeチャンネル「ユーチューバー 草彅チャンネル」(動画「【これぞ巨匠】草彅剛が「今年の革ジャン」教えます!~HOW TO Leather Jacket~」)での一コマ。だが、そのYouTubeチャンネルもさまざまな模索を経て、2023年に“コレがひとつの形なのでは”と思うところに到達した感がある。
それは、草彅がとことん自分の好きなものについて語っている動画だ。かねてよりマニアとして知られてきたデニムについてはもちろん、同じデザインのカーコートをサイズ違いで購入するほどこだわりを見せるレザージャケット、そしてコツコツと練習を続けているギター……と、もはや自分でも「変な人だな」なんてツッコミを入れることもあるほど、その愛しっぷりはひとつのエンタメとして成立している。
彼が特に愛してやまないのは、何十年も前に作られたヴィンテージもの。今からどんなに加工をして、ヴィンテージ風に仕上げたとしても、決して出すことのできない風合いがある。その今からでは得ることのできない「時間を買っている」というのだ。多くの時間を経たからこそできた傷に、使い込まれたからこそ出る色、そして音があるのだ、と熱弁する草彅を微笑ましく見ながらも、その年々高まっていく価値は草彅自身にも通じるものがあるように感じた。