JUJU、マニアの域を超えたディープな昭和歌謡愛 豊かな歌唱に直結している歌詞への洞察力
昨年8月からデビュー20周年イヤーに突入し、活発な活動を見せているJUJU。昨年は、昭和歌謡のカヴァー曲をメインに歌うライブシリーズ『スナックJUJU 2023』で全47都道府県ツアーを開催。さらに、アルバムとしても『スナックJUJU ~夜のRequest~ 「帰ってきたママ」』をリリースし、ロングヒット中。そして先日2月17日には、東京ドームで5万人を集め『ソニー銀行 presents ジュジュ苑スーパーライブ スナックJUJU 東京ドーム店 ~ママがJUJU20周年を盛大にお祝い!! 一夜限りの大人の歌謡祭~』を大成功に収めた。
JUJUは「素直になれたら」「やさしさで溢れるように」「明日がくるなら」などオリジナルのヒット曲を多数持ち、これまで『NHK紅白歌合戦』に2度出演、昨年は日本レコード大賞「最優秀歌唱賞」も受賞した。さらに、自身のルーツのコアにあるジャズを中心に、リクエストを募った邦楽・洋楽など、様々なジャンルのカヴァーアルバムも定期的にリリースし、カヴァーライブ『ジュジュ苑」も現在ではライフワークとなっている。2010年に発売した自身にとって初のカヴァーアルバム『Request』は2週連続でチャート1位を獲得し、女性アーティストのカヴァーアルバムとしては史上初の記録を残している。さらに自身がリスペクトを公言する松任谷由実のカヴァーアルバム『ユーミンをめぐる物語』(Produced by 松任谷正隆、松任谷由実)や、前述した『スナックJUJU ~夜のRequest~ 「帰ってきたママ」』まで、これまでリリースされたカヴァーアルバム全7作をチャート10位内に送り込んできた。
この結果は、JUJUが熱心な音楽リスナーであると同時に、楽曲にこめられた様々な感情を表現できる稀有な歌い手であること、ジャンルを問わず音楽そのものに深い愛情があること、それらすべてが結びついたことで成し得た、JUJUというアーティストならではの美学とも言えよう。そんなJUJUが、2月20日放送の『マツコの知らない世界』(TBS系)に出演し、昭和歌謡について、番組MCのマツコ・デラックスと語り倒している。ただ“昭和歌謡が好き”という気持ちだけにとどまらず、“なぜ昭和歌謡が好きなのか”を『ザ・ベストテン』(TBS系/1978年から1989年にかけ毎週木曜日に生放送されていたランキング音楽番組)などのデータを元に徹底的に分析した様子は、歌謡曲マニアの域を超えていた。
昭和時代、ヒット曲のきっかけは、ほとんどがテレビ番組か有線放送が主体であった。前述したようなランキング形式の生放送音楽番組が週に2本あったことに加え、多くの民放放送局で音楽番組が放送され、バラエティ番組にも“歌のコーナー”があった。JUJUは、放送当時に最高視聴率50%超えを記録していたザ・ドリフターズによるバラエティ番組『8時だョ!全員集合』(TBS系)を例に挙げ、アイドルが歌った後にマイクリレーで演歌や昭和歌謡が歌われた、ゆえに昭和歌謡は大人だけでなく子供にまで広がったと分析している。ちなみに、JUJUがマイクを渡され人前で初めて歌ったのが細川たかし「北酒場」だそうだ。この曲は当時、視聴率合計100%男として各放送局でいくつもの冠番組を抱えていた萩本欽一による人気バラエティ番組『欽ちゃんのどこまでやるの!』(テレビ朝日系/1976年~1986年放送)にレギュラー出演したことで、お茶の間の人気者になった細川たかしの18枚目のシングル曲である。演歌というよりも軽快で明るい曲で、子供まで口ずさめる歌謡曲であった。
さらにJUJUは『マツコの知らない世界』の中で、1982年と2023年を比較した“年間チャートトップ3の平均文字数”のデータ「昭和/309」「令和/680」(番組調べ)に触れ、「1人が抱える1日における情報量の違い」を指摘。マツコとともに、昭和歌謡の魅力を「言葉が少なく行間が多いから歌詞が心に刺さる」と分析している。さらにJUJUは歌謡曲で「強い女の台詞が好きになった」と、後に傾倒する自身のもうひとつのコアなルーツ=R&Bの解釈への影響も言及している。
“行間”についてもうひとつの特徴を挙げれば、曲間の合いの手が入れやすいところだろう。アイドル全盛時代の80年代、各アイドルにファンが結成した親衛隊があり、アイドルが歌うのに合わせて「ラブリー○○」「俺たち大好き可愛い○○」(○○にはアイドルの名前が入る)などといった掛け声が、歌番組の名物にもなっていた。この掛け声とカラオケ文化が結びついたのが、中森明菜「DESIRE -情熱-」(1986年)の「はーどっこい!」という掛け声である。「スナックJUJU東京ドーム店」では、5万人の「はーどっこい!」が東京ドームに響いた。東京ドーム店には、原曲がリリースされた頃にはまだ生まれてなかったであろう若い観客もたくさんいたが、「はーどっこい!」も、JUJUのライブで初めて知ったという人がたくさんいたと思う。この数年、“令和レトロ”という概念から昭和時代のカルチャーや楽曲に魅力を感じる若者が多く、海外でも80年代のシティポップから火がつき日本の歌謡曲がブームになっている中、昭和歌謡を大合唱できる場を提供し続けているのも、JUJUというアーティストの功績のひとつといっていいだろう。