Kroi、初武道館を終えて 「Sesame」から3rdアルバム『Unspoiled』の構想まで大いに語る

 初の日本武道館ライブ『Kroi Live at 日本武道館』を大成功に導いたKroi。メジャー2ndシングル『Sesame』(TVアニメ『ぶっちぎり?!』オープニングテーマ)では中東風のサウンドを取り入れるなど、ライブ/音楽性の両方において、こちらの予測を超えた進化を続けている。3rdアルバム『Unspoiled』のリリースもアナウンスされたばかり。さらなる飛躍を遂げようとしているKroiに現在のバンドの状況について語ってもらった。(森朋之)

初の武道館に広がった叶えたかった光景

——まずは1月20日に行われた『Kroi Live at 日本武道館』について聞かせてください。初の武道館ライブ、手ごたえはどうでした?

益田英知(Dr):楽しかったですね。演奏してると昔のことがよぎるというか。お客さんがぜんぜんいない時期からやってた曲とかだと、ジワッと当時のことを回想したり。

内田怜央(Vo/Gt):確かにいろいろ思い出したよね。みんな、武道館でライブ見たことあった?

千葉大樹(Key):ないんだよね。

長谷部悠生(Gt):俺はエリック・クラプトン。

関将典(Ba):andymoriとMR. BIGを見た。

益田:怜央は?

内田:コブクロの初武道館を見たんだよね、7歳のときに。子どもだったけど「初めての武道館って、アーティストにとって大事なんだな」と何となく思ったし、自分の夢になったというか。もちろん自分が武道館でライブをやってるところは想像できなかったけど、そのうち「音楽家としてやっていくなら、武道館に出たい」と思うようになって。

——7歳のときの思い出を回収したわけですね。

内田:不思議ですよね。Kroiの音楽をいろんな人に聴いてもらえるようになって、Mステとかいろんなところに出させてもらって、武道館のステージに立てて。いつもそうなんですけど“嬉しい”とか“やった!”より、「俺ら、何でここにいるんだろう?」という感覚が強くて。

——現実感がない、と。武道館のライブはすごく自然体で、いい意味でいつも通りの雰囲気だった気がしますけどね。

千葉:確かに変な気張りはなかったですね。

内田:武道館に負けないバンドでありたいと思っていたし、「いつも通りにかましてやる」という感じは若干あったかな。もちろんライブを楽しみつつ、自分としては「次に行くぞ」みたいなメラメラ感もあったんですよ。ライブの最中に「ここから次、何やろうかな」みたいな。

——ライブ終盤のMCでもそういう話をしてましたよね。

内田:はい。“行けるところまで行く”という気持ちでやってるし、まだまだ上を目指したいので。

内田怜央

関:演奏もそうですけど、自分は演出まわりにも関わっていて。半年以上前からスタッフと一緒に構築してきたものをしっかり披露できたのもよかったですね。これまで培ってきたチームワークの良さも実感できたし……(他のメンバーがこそこそ笑い始めて)俺が喋ってるときにふざけるのやめてくれない(笑)?

益田:俺じゃないよ。こいつ(長谷部)が変顔してくるから。

——(笑)。演出やライティング、確かにすごかったです。Kroiのロゴがスクリーンの上で溶け出すオープニングもカッコよくて。

関:そのあたりはずっとMVやステージデザインを手がけてくれている新保拓人さんがアイデアをいっぱいくれて。照明は長谷川凪っていう同世代の仲間がやってるんですけど、どこのイベントでも「照明いいね」って褒めてもらえるんですよ。武道館も自信を持って臨めたし、全部を総括して満足のいくパフォーマンスを届けられたかなと。

——千葉さんはどうでした?

千葉:もちろん喜んでもらえたと思うんですけど、こちらとしては「やっぱり武道館だな」という感じがあって。「この空気に呑まれちゃいけない」という意識もあったし、特に前半はそんなに楽しくはできなかったですね。ガチガチに緊張してたわけではないけど、それなりに背負うものがあったのかなと。あと、さっき怜央が言ってたように「かましてやる」というのは自分も最近意識していて。お客さんのノリを気にしすぎないというか、他人に評価を委ねすぎず、ライブに対する価値観みたいなものはこちら側に置いておきたくて。

——“自分たちにとってのいいライブ”に重きを置く?

千葉:そうですね。武道館でもそこは気にかけてたんですけど、終わったあと、スタッフや関係者の皆さんが「すごくよかった」と言ってくださったので安心しました。

Kroi - shift command (Live at Nippon Budokan, 2024)

——メンバー全員のソロ演奏やアドリブもいつも通りにやっていて。ベースソロやドラムソロであそこまで沸く武道館ライブ、最近では珍しいですよね。

内田:そう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。アドリブを楽しみにしてくれたり、めちゃくちゃ盛り上がるっていうのは自分たちが叶えたかった光景なので。演奏の面白さだったり、お客さんとバンドがお互いに楽しみ合うライブを高校の頃からやりたかったし、それを武道館でやれたのは奇跡的だなと。

長谷部:そうだね。みんなの話を聞きながら、「武道館の前日、どんな気持ちだったかな」って思い出してたんですけど……。武道館はLed ZeppelinやThe Beatlesがライブをやった場所だし、自分たちのワンマンとしてはいちばんお客さんの数が多かったから、まずは圧に負けないようにしようと。いろいろイメトレしてたんですけど、実際にライブが始まったらやっぱり「かましてやる」という気持ちが強くなって、感慨深くなる隙間はなかったですね。

長谷部悠生

——あまり聞かれたくないでしょうけど、長谷部さんが曲順を間違えてしまう場面もありましたね。

長谷部:そうですね(笑)。2ブロック目の最後の曲と3ブロック目の最後の曲を入れ替えちゃったんですけど、メンバーはすぐ気づいたみたいなんですよ。俺は曲の途中で「あ!」ってなって。

千葉:途中で気づくのって怖かっただろうね……。

長谷部:ギターソロの直前で気づきました(笑)。でも、照明とかの演出がちゃんとゲネプロ通りになってて。俺が間違ったことに即座に気づいて、対応してくれました。

益田:さっき関も言ってましたけど、ずっと一緒にやってますからね。俺らが間違えても臨機応変にやってくれて。

関:普段のライブでは、意図的に曲を変えることもあるからね。

長谷部:武道館はVJも仕込んでましたから、いつも以上に曲が変わると大変なわけで……感謝です。

関:ラストの「Polyester」のエンディングの照明もカッコよかった。

益田:演奏に合わせて“せーの”でバッと落とすっていう。あれはすごいよね。

千葉:マジでカッコよかった。

内田:ウチはまったく同期の音を使ってないし、クリックも聞いてないですからね。最近のVJや照明の技術って、同期があるとやれることがたくさんあるんですよ。Kroiはそれを手動でやってるので、めちゃくちゃ大変なんです。演奏もそうだけど、逆に手動じゃないとできないことがあるので、そこにはこだわってますね。

「Sesame」もインパクト大な一曲 Kroiの“サビメソッド”に変化?

——では、新曲「Sesame」について。TVアニメ『ぶっちぎり?!』(テレビ東京系)オープニングテーマですが、どんなイメージで制作されたんでしょうか?

内田:アニメのテーマが「ヤンキー×アラビアンナイト」だったので、まずアラビアンの要素を入れたくて。いくつかデモ音源を作るなかで、「ガッツリ入れるより、さりげないほうがオシャレだな」と思ったんですよね。そこを踏まえたうえで、アニメのオープニングとして通用するパワーが欲しいなと。

——楽曲の展開も面白いですよね。最後にビートが変化して、ラップパートが挿入され、そのまま終わるという。

内田:そうですね。Kroiの曲は一方通行で進むことがけっこうあって。

千葉:回収しないよね。

内田:そうそう。たとえばイントロでいいメロディがあっても、1回しか出てこなかったり。後で「もうちょっと出したほうがよかったかな」ということもあるんだけど(笑)、そこは無駄使いしたほうが印象に残ると思うんですよ。基本的にサビもなるべく繰り返したくなくて。

千葉:サビを3回以上繰り返す曲ってたぶんないよね。

——サビを繰り返して目立たせるのがポップスのセオリーだと思いますが、Kroiはそうではないと。

内田:そうかも。でも逆に「サビらしいサビを作ろう」と思いはじめたんですよ、最近。これまでは“イントロとAメロが最高”みたいな曲作りが多くて、サビは意外と惰性で作ってたんです。それがカッコいいと思ってたから。

関:そのせいかサビで音圧が落ちることがあって。ライブではそこを上げるように意識してアレンジすることもありますね。

千葉:そうしないと怜央だけががんばって歌ってる感じになっちゃうからね。

内田:その作り方は今もパンチがあると思ってるんだけど、タイアップ曲で“サビだけCMで流れる”みたいな場合もあるし、サビもしっかりカッコよく聴こえないとダメだなと。

#Kroi - Sesame [TVアニメ『ぶっちぎり⁈』オープニング・テーマ]

——「Sesame」はサビもすごいインパクトですよね。長谷部さんはどうですか? アラビアンの要素はギターが担ってるところもあると思うのですが。

長谷部:アラビアンの部分はストリングスのユニゾンなので、そのバランスはかなり考えましたね。あとはイントロの華やかさ。アニメのオープニングとしても大事なところだと思うので。

——中東的な旋律とロックサウンドの相性もいいですよね、じつは。ツェッペリンにもそういう雰囲気の曲があるし。

長谷部:あ、そうですね。ビートルズにもシタールを使った曲があるし。

内田:ロックバンドをどんどん進化させていくと、そういうエッセンスが入ってくることってありますよね。今回それを意識したわけではないけど、Kroiも進化の過程を踏んでるのかも。ただ単に違う要素を取り入れるだけではなくて、バランス感ももちろん大事ですけど。あと、アニメ自体の展開の速さも意識してました。『ぶっちぎり?!』はアニメオリジナルで、原作がないんですよ。最初にキャラクター設定と基本的な設定、台本を送ってもらったんですけど、各キャラクターの言動とかストーリーの進め方は想像するしかなくて。放送が始まって、展開の速さにちゃんとついていける曲になってたので安心しました。

——なるほど。関さん、益田さんがこだわったポイントは?

関:かなりゴージャズなサウンドなので、ベースとしては「ドラムと一緒にどれだけダンサブルな感じを出せるか」を意識していて。構成もめまぐるしいから、そのなかで一貫したノリをどう作るかも考えてましたね。益田もいろいろ試してたよね。

益田:うん。イントロとサビは4つ打ちなんだけど、ハイハットは16ビートで刻んでいて。怜央と一緒に「どうやったら攻撃的な音になるか?」を研究してたんですよ。ザギザギした音というか、できるだけ尖った感じにしたくて。曲を聴いてくれた人からは「明るいサビだね」という感想が多いんだけど、個人的には攻撃性も兼ね備えていると思ってます。

益田英知

——尖ったハイハットの音を出すって、どうやるんですか?

益田:スティックの立て方ですね。

内田:もともと益田さんはシンバルのタッチが繊細なんですよ。自分は(ドラムを叩くとき)金物(シンバル)をうるさく叩きがちなんですけど、それが好きじゃないので(笑)、益田さんの叩き方はすごくいいなと思っていて。「Sesame」は二人のプレースタイルをいい感じでくっつけたかったんですよ。

益田:今思い出したんですけど、そのときになんで俺がこういう叩き方(繊細なタッチ)なのか? を考えたんです。たぶんですけど、スティックを長持ちさせようと思ってたんですよね。ずっと金がなかったから。

——スティックを買うお金を節約するために、繊細に叩いていた?

益田:はい(笑)。金物を鋭く叩いちゃうと、スティックの摩耗が激しいので。

内田:ミュージシャンの生活がプレースタイルに直結しているっていうわかりやすい例ですね(笑)。

千葉:益田さんが大金持ちになったら、ハイハットの刻みが鋭くなるの?

益田:そうじゃない(笑)?

長谷部:ギタリストやベーシストも、金がないからって弦をなかなか変えない人もいるよね。

——意外とそういうことの積み重ねが音楽家の個性だったり、バンドのスタイルにつながってるのかも。

内田:そうですよね。意図せずやったことを他の人が聴いて、「新しい方法だ」と思って取り入れて、それが伝播することもあるだろうし。レコーディングでも偶然起きたことが良かったりするんですよ。

長谷部:Kroiはそういうことが多いよね。リズムがズレたり、ちょっとしたミスタッチを採用することもあるし。

Kroi - Sesame (Live Session)

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