櫻坂46 小林由依のアイドルとしてのプライド “アニラのその先”を描いた卒業公演

櫻坂46 小林由依卒業公演レポート

 小林由依という存在は間違いなく、櫻坂46にとって精神的支柱となる存在だった。欅坂46時代は年少メンバーとしてグループに加入しながらも、ある時にはライブやツアーの出来について疑問を呈すなど、その信念を次第に強めていく。筆者もインタビューのたびにそういう場面に何度か直面し、他者に対して誠実であろうとするその真っ直ぐな姿勢に感心させられたものだ。そして、欅坂46後期からグループを牽引する側へとシフトし始め、櫻坂46に移行してからは二期生中心の体制のなかで、自身も華やかさを見せながらも後輩に背中で語るなど、重要な役割を果たし続けてきた。櫻坂46がここまで着実な成長を重ねるうえで、間違いなく功労者のひとりと言える存在だ。

 そんな小林が、約8年半にわたるアイドル人生に終止符を打つ。昨年10月発売の7thシングル『承認欲求』に収録された楽曲「隙間風よ」で、自身初のセンターを務めたこともあり、「もしかしたら……」と予感めいたものもあったのだが、そこから1カ月強での卒業発表。「ついにこの日が来たか……」というのが正直な気持ちだった。センターを担うだけの才能と存在感を持った人材が二期生に豊富だという事実、加入から1年にも満たない三期生がすでに第一線で活躍できる実力を身に付けている現状、そしてグループに対する評価が日々上がり続けていることを考えれば、彼女が次の一歩を踏み出すのも時間の問題だったし、むしろ欅坂46から櫻坂46へと改名するタイミングもグループにとどまり、そこから3年も在籍してくれたことに対して感謝の気持ちしかない。

 1月31日、2月1日に国立代々木競技場第一体育館で行われた『小林由依 卒業コンサート』。この会場は小林にとって忘れられない思い出の地でもある。結成から半年にも満たない、まだCDデビュー前だった欅坂46は2016年1月30日、この会場で行われたイベント『ニッポン放送 LIVE EXPO TOKYO 2016 ALL LIVE NIPPON VOL.4』にオープニングアクトとして出演。最初にステージに姿を現したのが、小林と今泉佑唯からなる“ゆいちゃんず”であり、2人はギター弾き語りで「ちっぽけな愛のうた」(大原櫻子)を披露している。当時、筆者も会場でこの様子を目にしていたが、MCでは緊張した面持ちだったものの、しんと静まり返った観客を前に堂々とした歌声を届けてくれたことは今でも忘れられない。そんな場所をラストステージの場に選ぶあたりにも、小林の誠実さが感じられる。

 筆者は2公演とも会場で『小林由依 卒業コンサート』を観覧したが、最後の最後までアイドルとして誠実であろうとする小林の姿には、やはり感心させられた。まず、卒業コンサートということで、グループ曲やユニット曲のみならず、三期生楽曲「Anthem time」を含むすべての楽曲に彼女が参加。しかし、全体の構成や雰囲気としては、アンコールで一期生がフロートに乗って歌唱するパートを除けば、彼女を送り出そうというお祭り的な要素はほぼ感じられず、首尾一貫した“櫻坂46のライブ”が展開される。グループ全体のライブとしては昨年11月の『櫻坂46 3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE』(以下、アニラ)に続くものとなるが、『小林由依 卒業コンサート』は間違いなく“アニラのその先”を描いたものだったのだ。

 暗闇から光の射すほうへと歩き始め、扉を開けると過去の思い出(櫻坂46楽曲MVのメイキング映像)がよみがえる……などの映像を交えながら披露される楽曲の一つひとつにも、映像との関連性や深い意味を感じ取ることができ、こういったストーリー性の強いライブ構成も欅坂46時代から現在に至るまで、何度もトライしてきた演出。小林由依というアイドルがどこから生まれたのかという出自を、最後に再認識させられたのも興味深かった。

 ライブ本編は久しぶりに小林、遠藤光莉、藤吉夏鈴のオリジナルメンバーが揃った「ジャマイカビール」を筆頭に、序盤はクールめの楽曲が続く。ここでパフォーマーとしての力量を遺憾なく発揮したかと思えば、続くブロックでは「五月雨よ」や「最終の地下鉄に乗って」「僕たちのLa vie en rose」と比較的ポップな楽曲で多面性を見せ、小林の生き生きとした煽りを交えた欅坂46時代のライブ定番曲「危なっかしい計画」で一気にギアが入ることに。ちなみに、菅井友香や渡邉理佐など、過去の一期生の卒業コンサートでは欅坂46時代の楽曲が複数披露されてきたが、小林の場合は初日に「風に吹かれても」を一期生3人(小林、上村莉菜、齋藤冬優花)で、2日目にこの「危なっかしい計画」と、両日とも1曲にとどまっている。三期生加入により櫻坂46の色が確立されつつあることから、無理に欅坂46楽曲を入れる必要がないと感じたのだろうか。特に今回に関しては欅坂46時代から応援してくれた人たちへ向けた、一種のファンサービスのようにも思えた。

 小林が三期生に混じってパフォーマンスした「Anthem time」も、非常に興味深い1曲だった。ここまでアイドル性の高い楽曲を、小林がフレッシュなメンバーとともに披露した事実にも驚かされたが、三期生に触発されてか、キラキラ感の強いアイドルパフォーマンスを最後に楽しめたこともファンはうれしかったのではないだろうか。とはいえ、小林自身は三期生と一緒に活動する場面が少なかったことを受けこうした機会を設けたのだから、最後に間近で自身の背中を見せるという大きな意味も込めていたはず。ダブルセンターを務めた中嶋優月を筆頭に、多くの三期生が小林との共演に刺激を受けたことだろう。

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