Creepy Nutsらしいキャッチーさを貫けた理由 鹿野 淳と語り合う、生活改革による新モード

「超ロジカルに音で組み立てて、気持ちいい感覚をそのままラップする」(R-指定)

鹿野:では楽曲の話を伺いたいんですけど、昨年の秋に「ビリケン」がリリースされ、そして今年1月7日には「Bling-Bang-Bang-Born」がリリースされ、1月27日には「二度寝」がリリースされています。3曲ともすごくバウンシーでBPMが速いし、言葉を思いきり畳みかけていて、そういう意味ではRと松永くんのスキルがものすごく表に出ている強烈な楽曲だと思うんですね。それとともに「Bling-Bang-Bang-Born」も「二度寝」も今までになくポップで軽快な感じで、「この曲はこういう風に受け取れよ」というサインになるキーワードがすごくわかりやすく提示されてると感じました。特に「Bling-Bang-Bang-Born」はTikTokが非常に好調だと聞いているんですけど、それは偶然そうなったわけでなく、この曲のキーワード性と軽快さがもたらしてると感じてます。それは自分たちのどのような気持ちから生まれていったのでしょうか?

DJ松永:そう言われることを全く予想してなかったんですよね。

R-指定:「Bling-Bang-Bang-Born」に関しては結構変な方向に振り切ったなとさえ思っていて。確かに、言われてみればめっちゃキャッチーかなとも思ったんですけど。俺らはキャッチーさって、日本語として伝わりやすい言葉と耳馴染みの良いメロディみたいな部分だと思ってたんです。でも今回はちゃんとリズムでキャッチーというところも受け取ってくれるんやって。嬉しいですね、もともと俺らが好きなのは“リズムキャッチー”やから。

DJ松永:そうそう。もともとないタイプですが、去年から、より一層「売れなきゃ」とか「結果出さなきゃ」みたいなことから本当に解放されたなって。それも自分たちの力をちゃんと信じることができたからだと思うんですけど。とにかくこっちの方がカッコいいとか新しいとか、自分たちがやったことないんじゃないかとか、それだけ。それ以外は考えていないというか。

R-指定:絶対売れようとか、もっとわかりやすくアニメ観てる層に届けようとか、そういう脳みそで作ってたら、もっと日本語で馴染みやすいメロディで作ってたと思うんですよね。でも、「このビートに合うのはもっとおもろいリズムとラップ、造語のリリックだな」って思った感じです。

鹿野:Creepy Nutsって言葉の散弾銃みたいな部分もあるんですけど、その散弾銃で撃ち込まれる言葉っていうのはわりと日本語であることが多くて、しかもそこに深い理屈があるっていうのが、二人の音楽的な特徴であり、武器や長所だと思っているんですね。「Bling-Bang-Bang-Born」はその逆を行くようにノリの気持ちよさが表に立っていった。意図的にCreepy Nutsという世界観をひっくり返したのかなと思ったんですけど、今のお話を聞くとそこまで考えて作ったわけではなかった?

DJ松永:そうですね、そこについては考えてないです。でも「こっちの方が気持ちいいよな」とか「こっちの方がイケてるよな」っていうのは超考えていて。どうクオリティを上げるか、どう磨いていくかということに関しては過去イチ理屈的に考えました。けどそれって昔からで、逆にどうバズる要素を入れるかとかは全く考えてないよね?

R-指定:そうだね。『アンサンブル・プレイ』で、松永さんが音作りに関して今までよりさらにロジカルになって、逆に俺がもっと感覚的にラップを作るようになったんです。「ビリケン」も「Bling-Bang-Bang-Born」も「二度寝」も、その気持ちいい比重を引き継いでいるような気がする。どう聴いたら首が振れるか、ノれるか、ブチ上がれるかみたいなのを超ロジカルに音で組み立てて、俺はその音を聴いて気持ちよくなった感覚をそのままラップにしているというか。そういう変化はあるかもしれないです。

TVアニメ「マッシュル-MASHLE-」第2期ノンクレジットOPムービー|Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」#BBBBダンス

鹿野:「Bling-Bang-Bang-Born」のインストも聴かせていただいて、BGMとしての機能性がとても高いものになってるなと感じました。何よりインストのトラックの中にユーモアがものすごくたくさん詰め込まれてるなと。その意味では新しいDJ松永のトラックだと思いましたが、どんなものを込めたんですか?

DJ松永:今回、ジャージークラブテイストのトラックでタイアップの曲を作っているのは、完全に悪ふざけというか、ただ自分がやりたいだけの愉快犯です。モラトリアム期間だからこそ無責任にやれたと思います。あとは音数をめちゃくちゃ減らしましたね。去年から意識しているのは、音数を減らして遊びっぽいところをいっぱい入れようかなということで。聴いて楽しいフックになるような要素を入れたくて、音色も全部聴いたことない感じにしてるんですよ。ピアノとチェンバロとカリンバを混ぜて、聴いたことないような音色を作ったり。

鹿野:なるほどね。だからなのか、0.8センチくらい浮いたところでフワッと踊れるような感覚があります。

DJ松永:本当にそうですね。あとはラップを立たせたかったので情報量を削って、空間をしっかり把握できるような設計にしたいというのはめちゃくちゃ意識しました。

鹿野:とにかくラップを聴かせようとした抜けの良いトラックで、その上に乗っかっているリリックは発語の快感がしっかりとあるものになっていて、結果的に若いリスナーのところにさらに届けられるような新しい手札になったんじゃないかなと思いました。それと松永くんはサラッと嫌味なく今のテイストをブッ込むからね。今世界でバズっているジャージークラブ感を出した今回のリズム&トラックも無邪気に聴こえるからこそ、この曲が世界に届くミラクルが起きているんじゃないかと思います。

DJ松永:とにかくラップを立たせたいから、隙間を作るために音数を整理しないといけなくて、そうなってくるとトラックが洗練されていき、ラップも洗練されていく。そうするとサブスクで聴くときに、たぶん声とかリズムが他の曲よりも際立つから、キャッチーに聴こえたりするんだろうなって。そういった意味でも今自分が作りたい音楽のバランスが時代に合ってるんだろうなと思います。

「動機として機能するのが好奇心、原料として強力なのがストレス」(DJ松永)

鹿野:もう1曲の「二度寝」ですけど、これもポップス性がすごく高いラップ、歌、トラック、リズムで構成されている楽曲だなと思いました。リリックの中に〈竜宮城〉〈鬼ヶ島〉〈浦島〉が出てくる温故知新さもあって、逆にこれが今に訴えかけるパワーになってるような気もします。そのあたりの振れ幅も含めて、非常に新しいCreepy Nutsの楽曲になっていると思ったんですけど。

R-指定:これはドラマ(『不適切にもほどがある!』)の楽曲なんですけど、ストーリーがタイムスリップもので。昭和の親父が今の時代にやって来て、変わった世界に戸惑うみたいな話なんですよ。普通に生きていても、その感覚って少なからず俺らくらいか、もっと上の世代の人にはあると思うんです。これだけ目まぐるしく世界が変わる中で、誰でも感じることがあると思う。さっき言ったように、液体くらいゆるゆるの俺みたいな人間からしたら、時間の流れがめっちゃ早いわけですよ。

鹿野:わかります。

R-指定:それを曲にどう落とし込もうかと考えているときに、そういう言葉が自然と出てきたというか。温故知新というより、昔話も人間と同じくアップデートを余儀なくされるものだなと。もっとエグくてグロい話だったものも、時代によってどんどんマイルドになっていったり、結末が変わってたりみたいな、そういうものが自然と歌詞の中に出てきたところもあって。とはいえ、今回のドラマも「今の時代は大変だな」が主題ではなくて、もっと根本的な、子どもや孫、家族に対する愛が主題やったりするから、自分のリアルにも落とし込めるなと。時代によって変化していかざるを得なかったりするところは昔話の例で出てきたけど、その昔話を誰に読むんやって言ったら子供なので、自分の子供にこの絵本を読み聞かせているみたいなイメージも歌詞の中に入っているんですよね。

Creepy Nuts「二度寝」

鹿野:僕が深読みしすぎた解釈をあえて言わせてもらうと、炎上とかコンプラについて辛辣なことをちゃんと歌ってるリリックだなと思ったんですね。〈不適切な語録/カチカチ気づきゃ火がついてく〉とか〈明日は誰が火の手〉とか。そういうものをラップするからこそ、おとぎ話的なテイストの中で誰もが聴きやすく、そして伝わりやすくなるっていう技法なのかなと思ったんですけど。

R-指定:狙ってそうしたというよりは、自然とそうなっていった感じですね。さっき言ったように、俺は自分の子供に何をしてあげられるかというと、いろんなことがあると思うんですよ。ご飯を食べさせてあげるとか、楽しいところに連れて行ってあげるとか、守ってあげるとか。その中での“昔話を読んであげる”というイメージですかね。「こういうところに気をつけろ」とかを教えてあげなあかんというか。でも例えば、いつでも自分が加害者にも被害者にも、速攻スターにもなり得ることって、自分のおとんやおかんの世代が知り得ない世界だったわけじゃないですか。俺らの時代にそういう世界ができたわけで。だから、そもそも俺は子どもに対して何かを教えてあげられるような人間でも全くないけど、昔話を読むことでそこから得られる教訓は教えてあげたいし、俺らがリアルタイムで間違って失敗して踏み外していってることもいろいろ見せて聞かせてあげられたらいいなと。そういう気持ちも入っている歌詞なのかなと思います。

鹿野:僕はこのリリックを見て、ラッパーが作る絵本とか読んでみたいなと思いましたよ。R-指定が絵本を作って、Audibleとして聴けるように松永くんがトラックを乗せていくっていう。新しいCreepy Nutsの在り方としてあるんじゃないですか。

R-指定:いいですね!

DJ松永:なるほど(笑)。確かに。

鹿野:聴き手としては、このリリックをこれだけ涼しげなトラックに乗せたのはなかなか痛快だと感じたんですけど、松永くん的にはどうでした?

DJ松永:Rのリリックを聴いて、切なくシリアスにし過ぎないで、明るく宇宙に飛びたいなと思ったんですよね。「Bling-Bang-Bang-Born」にも言えるんですけど、最近トラックを作るときに絵でシチュエーションを想像するんです。「二度寝」に関しては宇宙に飛んでいきたかったんで、そんな音作りをしました。要所要所で自分が適当に遊んでて偶然生まれた音とか、日常的な効果音も入れつつ。あとChatGPT(ユーザーの指示に従ってAIが自動で文章生成を行うチャット)も使っていて。Bメロの展開をChatGPTに聞いて提案してもらったんです。「Aメロとかヴァースのコード展開はこれで、Bメロを作りたいんだけどどんな候補がある?」みたいな感じで。

鹿野:へえ、面白い。

DJ松永:それで出てきたものを参考にいろいろ試してみて、一番ハマるやつを使いました。最新の情報は持ってないし、直接的にクリエイティブな提案はしてくれないけど、自分の頭の外づけハードディスクみたいなイメージというか、使い方次第ではものすごく便利ですよね。

鹿野:今回の話を聞いて、半分過去を取り戻して半分新しく変わった昨年からの過ごし方が今回の「Bling-Bang-Bang-Born」と「二度寝」にしっかりと表れていて、音楽に対しても生きることに対しても素直な二人なんだなと伝わった気がします。ここからしばらく、“働き方改革”後のゆるい感じでいくんですか?

DJ松永:そうですね。最近、曲作りがマジ楽しくて。

R-指定:前やったら、「この提案したいけどそれを実現する時間はないな」とか思ったりしてたんですよ。でも今は「この曲ガラッと変えてみる?」とかができるようになって、めっちゃいいなと。

DJ松永:俺が作ったトラックをRに投げたら、Rが想像もしないような形にして投げ返してきたりとか。そういうラリーがいくらでもできるし、なんなら途中で白紙に戻してもいい。そういうのは今余裕があるからこそやれているから、今回の2曲や「ビリケン」みたいな曲が作れたんだろうなと思いますね。

鹿野:僕の取材経験上では、音楽を作る一番のエネルギーってストレスだと思っているんです。Creepy Nutsにもそういう部分はあったと思うんですけど、今回の2曲の制作、そして今の二人の生活はおそらくかなりストレスが少ないものになっている。そこをもうしばらく楽しんでいくと、また不思議なアルバムが生まれるような気もします。

DJ松永:でも俺、一番のエネルギーは好奇心だと思ってます。ストレスはたぶん短距離走向きだし、それに頼りすぎると、長い目で見た時にその人の人生を豊かにするかどうかは結構怪しいと思ってて。より分けて考えると、音楽を作る動機として最も機能するのが好奇心で、音楽作りの原料で最も強力なのがストレスっていうイメージです。その人が数ある表現方法の中から音楽を選び取っているということは、そもそもの手法自体に興味を持てているというわけで。

鹿野:まさにそうだね。だから今の二人は非常に健全なんじゃないかな。

DJ松永:そうですね。まあ作詞作業とは切っても切れないだろうし、全部を綺麗に分けて考えることは難しいけど。

R-指定:でも俺、作詞に向いてるなって思うのは、あんなに暇だった上板橋でのモラトリアム時代すら忙しいと思ってたくらい、すぐにストレスを感じることなんですよ。

DJ松永:ストレスの才能がある(笑)。

R-指定:そう。他の人なら「このくらいは当たり前やで」と思うようなスケジュールでも、「朝早いよ」「多いよ、しんどいよ」がすぐ出てくるんです。もちろんストレスからの逃げ方も上手になってきてるんですけど、どこに行っても俺は真っ先に感じるので。だからこそほんまにラップがあって幸せというか、吐き出し口はまだまだあるなと思いますね。

◾️配信リリース情報
「二度寝」
Streaming/Download:https://smar.lnk.to/8T1odL
2024年1月27日(土)配信リリース
TBS系金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』主題歌

「Bling-Bang-Bang-Born」
Streaming/Download:https://smar.lnk.to/0AM0sn
2024年1月7日(日)配信リリース
TVアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』オープニングテーマ

◾️CDリリース情報
Creepy Nuts 両A面シングル『二度寝 / Bling-Bang-Bang-Born』
2024年3月20日(水)CDリリース
購入(予約)リンク
・初回生産限定盤:https://smar.lnk.to/nZZhoA
・通常盤(初回仕様):https://smar.lnk.to/dIUaKC
・期間生産限定盤:https://smar.lnk.to/rYMnXK

<全3形態>
1.初回生産限定盤(CD+Blu-ray)デジパック仕様:4,400円(税込)
2.通常盤(CD)1,100円(税込)

CD収録内容
M1. 二度寝
M2. Bling-Bang-Bang-Born
M3. 二度寝 – Instrumental -
M4. Bling-Bang-Bang-Born – Instrumental - 

Blu-ray収録内容(*初回生産限定盤)
・『Creepy Nuts ONE MAN TOUR アンサンブル・プレイ』at さいたまスーパーアリーナ
2way nice guy
助演男優賞
手練手管
スポットライト
パッと咲いて散って灰に
サントラ
耳無し芳一Style
dawn
堕天
よふかしのうた
犬も食わない
紙様
Madman
友人A
フロント9番
ロスタイム
かつて天才だった俺たちへ
Bad Orangez
グレートジャーニー
土産話
ばかまじめ
のびしろ
・Behind The Scenes of Creepy Nuts in さいたまスーパーアリーナ

3.期間生産限定盤(アニメ盤/CD+Blu-ray):1,870円(税込)
アニメ描き下ろしジャケット+三方背スリーブケース付き

CD収録曲
M1. Bling-Bang-Bang-Born
M2. 二度寝
M3. Bling-Bang-Bang-Born – Instrumental -
M4. 二度寝 – Instrumental -

Blu-ray収録内容
TVアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』ノンクレジットOP映像

■ツアー情報
『Creepy Nuts ONE MAN TOUR 2024』
2024年3月22日(金)ロームシアター京都 メインホール
OPEN 18:00 / START 19:00

2024年3月23日(土) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
OPEN 17:00 / START 18:00

2024年3月29日(金) 新潟県民会館 大ホール
OPEN 18:00 / START 19:00

2024年4月6日(土) 福岡サンパレス
OPEN 17:00 / START 18:00

2024年4月12日(金) 静岡市民文化会館 大ホール
OPEN 18:00 / START 19:00

2024年4月14日(日) サンポートホール高松 大ホール
OPEN 17:00 / START 18:00

2024年4月19日(金) 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
OPEN 18:00 / START 19:00

2024年4月29日(月・祝) 札幌文化芸術劇場 hitaru
OPEN 17:00 / START 18:00

2024年5月10日(金) 広島上野学園ホール
OPEN 18:00 / START 19:00

2024年5月14日(火) 大阪城ホール
OPEN 18:00 / START 19:00

2024年6月15日(土) 国立代々木競技場 第一体育館
OPEN 17:00 / START 18:00

2024年6月16日(日) 国立代々木競技場 第一体育館
OPEN 16:00 / START 17:00

<チケット詳細>
全席指定 ¥6,800 (税込)
※3歳以上有料
※お一人様4枚まで
※チケットは全て電子チケット

Creepy Nuts オフィシャルサイト

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