日食なつこ、15周年イヤー『宇宙友泳』に向けて 過去も未来も見せる大胆な企画の狙い
「開拓者」「ログマロープ」…過去曲への注目は「先行投資をようやく取り返した」
──そして2つ目の企画です。こちらは「エリア過去」というタイトルの展覧会ということですね。
日食:「エリア未来」とは真逆、とにかく過去を見せていくものになります。私は絵を描く人間ではないので何を展示しようか色々考えたんですけど、幸運なことに小学校の時からずっと日記を書いていて、日食なつこの曲を作るにあたっての副産物が大量に残っているので、それを展示していったらみなさんが面白がってくれるんじゃないかなと思ったんですよね。ここまで日食なつこがどうやって暮らしてきたのかを、ただただ見せていくだけの展示にしようかなと。
──過去の日記を自分で見るって、どんな感覚ですか?
日食:ぶん殴りたくなります(笑)。この前Xにも上げましたけど、成人の日があったので久しぶりに自分が成人した2014年頃の日記を読み返したら......まあ、ひどい。もうちょっとちゃんとしてると思ってたんですよ(笑)。20歳の時の自信ってなんだったんだろうなって。本当に何も落ち着いてない、何も手にしてない状態っていう。でも、それはそれで面白く読めたので、これを見せても面白いかなと思いました。
──今も日記は書かれてるんですか。
日食:書いてます。小学校の時からずっと枕元にノートを1冊置いといて、何かあった時はそこに書く。文量も結構すごくて、1回で3ページぐらい書くのが私の日記なので、Xの140字なんかとてもじゃないけど足りないくらいなんですよね。言葉をとにかく出して出して出して、やっぱいらなかったって線を引いたり、もうちょっと補足したりしていくことで、頭の中が片付いてスッキリしていくので、ストレス発散かつまとめ作業みたいな感じですかね。
──ちなみに展示には歌詞の断片とかもあるんですか?
日食:あります。それも展示したら面白いかなと。まあでも、そこでなくなったりしたら絶対泣くと思うので(笑)、具体的にどういう形で展示をするかはもうちょっと考えたいですね。
──過去と言えば、昨年Xにて「ことし脚光を浴びた3曲」という投稿で、「エピゴウネ」「開拓者」「ログマロープ」を挙げていましたよね。過去曲に再びスポットが当たることに関してどんな気持ちでしたか。
日食:昔の先行投資をようやく取り返した、という感じです。「開拓者」を書いたのは高校生の頃で、当時何かのオーディションに出してみたんですけど、そこで高校の名前を書かないといけなくて。そうしたら地区予選か何かの第2位で一応入賞したんですけど、賞状が学校に届いちゃったんですよ。
──なるほど。
日食:そこで当時の部活の担任から、「なんか届いてるけど」ってその賞状を片手で渡されたんですけど、それがすごくムカついたんですよね。なんでこんなに必死な気持ちで書いた曲の賞状を、この先生はこうやって渡せるんだろうって。まあ、あんまり出来の良い生徒ではなかったから、白い目で見られがちだったんですけど。その時代に書いた曲が15年くらい経って脚光を浴びてると。どうだ、みたいな。
──報われますね。
日食:「エピゴウネ」は岩手から東京に引っ越した23歳ぐらいの時でしたかね。自分も周囲の同世代の人たちも、そろそろ夢と現実のどっちを取るのか、という分岐点に立たされるタイミングで。その時に同い年の音楽をやっていた知人が、まあ情熱ばかりで。お前どうすんのよ、その先? っていう気持ちで書いたのが「エピゴウネ」でした。「ログマロープ」はその2、3年後ですかね。いちばんお金がない時代(笑)。これは散々いろんなとこで言ってますけど、あるアパートの2階に住んでまして、その時の1階の住人がとにかく嫌がらせをしてくるんです。 家に帰って私がドアを閉めると、下でもバーンって閉まる音がしてきて、それを毎日やられるので家に帰れない、ということで事務所のソファーに寝泊まりしてた時代があるんですけど。それでも諦めたくない、という気持ちで書いたのが「ログマロープ」でした。そういう苦節の返りがまとめて来てる感じなので、ありがたいですね。
──どの曲も格闘しているというか、ギリギリのところで一発逆転を狙っているような曲だと思います。改めてこの3曲が多くの人に聴かれているというのは、どういう理由があるからだと思いますか?
日食:なんでしょう、本当に今ってお金がない時代だと思うんです。やっぱりそういう時に一発逆転を狙っていたり、自分の得意な分野で、自分のやれることで夢を見ている時代だと思うので、その時の追い風や後押しになるものをみんな欲しがっていて、そこにこの3曲は上手くハマるのかもしれないですね。
──追い風というか、ケツを叩いてる感じですよね。
日食:そうですね。やや強めに(笑)。
──でも、そのぐらい強引なほうがいいのかもしれないですね。頑張れって言われるより。
日食:そう言ってもらえると作った側も助かります。
反骨心を保つための生活のチューニング中
──あと、昨年のライブから来場者からの手紙を受け付けるポストが再開されましたね。
日食:やっぱり戦ってる人が多いなって思います。転職や資格を取る時に聴いてましたとか、彼氏や彼女とお別れする時に聴いてましたっていうのがあったり、それと結構多いのが、娘さんや息子さんが引きこもりがちで、それをどう解決するかを一緒に考えている時にすごくいいですと書いてくださっている方。そうやって現状を変えようとしてる人がいっぱいいるんだなって思います。相互作用と言いますか、これだけの人が私の曲を聴いて頑張ると言ってくれているんだから、私もぬるいこと言ってられないなという感じになりますね。
──若い時に尖っていたとしても、年齢を経ていくことで変わっていくものがあると思うんです。でも、日食さんの曲は歌詞にずっと1本通ずるものがあって。どうしてそういう反骨心やモチベーションを保っていられるんだと思いますか?
日食:そうなるように自分で調整して生きているから、と言いますか。昨年末に環境を変えたというのも、今は満たされすぎているんじゃないか? という思いがあったからなんです。それで捨てられるだけ捨ててみようということで、実は財含めかなり捨てたんですよね。今は悪い意味で空っぽの状態なんです。「ログマロープ」や「エピゴウネ」を書いていた時代へと強制的にチューニングしたと言いますか、やっぱり私は体感型でしか曲を書けないので。こういう曲を書き続けるのであれば、自分もそういうところに身を置き続けなきゃいけないなって、ずっと前から思っていました。
──たとえば若い頃にとげとげしい曲を書いていた人が、ある年齢から温かい作風に変わったとしても、それはそれで面白さのひとつだと思うんです。リスナーはその変遷を楽しむこともできるから。ただ、そんな中でも日食さんは変わらないことを強く意識しているように感じます。
日食:そうですね。そうやって変わっていくアーティストはいっぱいいると思います。ただ、ひとりくらい、マジでそれをやらない人──生活を歪めてでもずっと維持していこうとする人がいたらどうなるのかなっていう気持ちもありますね。私は正直、その人の人生だからしょうがないと思いつつも、変わらずに頑張ってほしかったと思う人も何人かいるので。私はどこまで身を削って沿わずに行けるかなっていうのを、今実験してるところですね。なのでいきなり無理! と言って変わっちゃう可能性もありますけど(笑)、そこまではギリギリ何も手にしない状態を維持してみたいと思っています。
──今年はどんな1年になると思いますか?
日食:戦いの1年ですね。たぶん5つの企画をこなすのって相当大変ですし、私が見てるものとチームに共有できたもの、そこからみなさんに届くものとの間で今思っている何パーセントがゴールまで行けるのかという。その戦いが5個のコンテンツで並行して行われると思うと、心休めずに頑張らないといけないですね。まあ、辛くなったらVulfpeckでも聴いて踊ろうかなと思います(笑)。
■ツアー情報
日食なつこ15th Anniversary -宇宙友泳-
未発表曲ツアー「エリア未来」
5月31日(金)大阪 BIGCAT…Sold Out!!!
6月1日(土)愛知 ボトムライン…Sold Out!!!
6月7日(金)北海道 club garden…Sold Out!!!
6月14日(金)福岡 DRUM LOGOS
6月15日(土)広島 Reed
6月21日(金)東京 EX THEATER ROPPONGI…Sold Out!!!
6月23(日)新潟 LOTS
6月29日(土)宮城 Rensa…Sold Out!!!
チケット料金:¥6,500(税込)
■展覧会情報
日食なつこ15th Anniversary -宇宙友泳-
展覧会「エリア過去」~日食なつこを成したものもの~
会期:3月9日(土)~17日(日)
会場:四谷三丁目ランプ坂ギャラリー
入場料:一般1,500円/中高生1,000円(小学生以下無料)
チケット:当日のみ会場受付にて販売
日食なつこ 15th Anniversary -宇宙友泳- 特設サイト:https://nisshoku-natsuko.com/15thanniversary-uchuyuei/
日食なつこデジタル配信:https://orcd.co/nisshoku
日食なつこ公式HP:https://nisshoku-natsuko.com/
日食なつこX:https://x.com/nsn58
日食なつこInstagram:https://www.instagram.com/nisshokunatsuko_official