イヤホンズ 高野麻里佳&高橋李依&長久友紀が語るアルバム『手紙』のすべて 素の声で届ける7つの想い
「すべての若かりしオタクに捧ぐ」――志磨遼平によるアルバムのリード曲
――アルバム発売前に配信された楽曲のなかで、特に皆さんが歌ってみて印象に残った楽曲、感銘を受けた歌詞はありましたか?
高橋:どの曲も完成して泣いちゃうぐらい刺さっているんですが、私は自分と同じ言葉に近いなと感じたのが「タイムカプセル」で。この曲の登場人物は将来の自分に向けて、〈前髪の癖そのまま残ってますか?〉って疑問を抱いていて。私も前髪の癖が残っているんですよ(笑)。 これがすごく身近に感じられたし、あの頃の自分はそういう疑問でいっぱいだったなっていう。「結婚してますか?」とか「幸せに暮らしてますか?」とか、そういう当時の私から見た今という未来への興味を、私は大事に過ごせているかな、と。振り返ることができて、昔の自分を抱きしめてあげたくなる大好きな曲になりました。
長久:思春期っていろいろ気になるよね。
高橋:ヘアアイロンとかなかった時代だから。
高野:たしかに(笑)。
高橋:今はうまく前髪と折り合いをつけてやっています(笑)。そうそう! この曲は〈折り合い〉という言葉が出てくるところも好きで。
長久:“妥協”というと悪く聞こえるけど、“折り合い”ってすごく前向きな感じがしますし。
高野:私は「だから大丈夫」が大好きで。私の周りの友達が結婚したり家族が増えたりしていっているなかで、この歌詞を届けたいなと強く思えたんです。歌っていてまさに〈幸せにならなくちゃだめ〉って友達に言ってあげたくなる……今も幸せなのかもしれないけど、ずっと幸せでいてほしいという思いを届けたいなって気持ちで歌わせてもらいました。特に好きなのが、がっきゅ(長久)が歌っている〈がんばれ、なんて言わない/だって がんばってるから 今 あなたが〉っていうフレーズ。このフレーズを落ちメロで、ソロで歌われるとよりグッと刺さるし、すごくいい曲だなとあらためて思いました。
高橋:沁みるよね。
長久:私は関西出身で上京組なのもあって、「ミンナゲンキカ。」がとってもとっても涙がポロポロっていう感じだったんですけど……私も本当にこの歌詞のとおりだったんですよ。私は、手紙を書く以前に、電話とか連絡すらもできなくて。全部が刺さりました。上京していない方でもひとり暮らしをしていたりとか、どこかで孤独を感じることがあるじゃないですか。ひとりぼっちで、こんな自分が大嫌いで、でもこんな自分しかいなくて、何が好きとかも思い出せなくて。いざ外に出たら自分は大丈夫に振る舞えるけど、いざ白い便箋を前にしたり、携帯を前にしたら親に「ツライ」なんて言えなくて。そういう思いがすごく伝わってきて、刺さりすぎて痛かった歌詞です。
――僕も20代半ばに同じようなシチュエーションを体験したことがあったので、この歌詞はめちゃくちゃ刺さりました。
高橋:やっぱり強がっちゃうんですね、手紙や電話では。
長久:親に安心してほしいって気持ちももちろんあって、素直になれなくて。私は「大丈夫やから、もう連絡せんといて!」って、キレながら言ってしまっていた気がします(笑)。でも、電話を切ったあとに「あぁ……」と自己嫌悪に陥って。だけど、これを歌うことで私は何かを乗り越えられる気がして、歌い切れてよかったなと思います。
高野:“手紙”というと、最初はラブレターとか友達や家族への手紙くらいしか思い浮かばなかったけど、こんなにもシチュエーションが多岐にわたるものなんですね。そういえば、ラブレター(がテーマの楽曲)はないよね?
長久:「トメハネハラウ」があるよ。
高野:ああ、一応ラブレターだ。
高橋:ごめんなさいをくださいっていう角度の歌詞だからね(笑)。
長久:みんな、ラブレターって書いたことある?
高野:書いたことないねえ。あるの?
長久:私、小学生の頃に文通ブームがあって。デコ折りした手紙のなかに自分の名札を入れて、好きな人と交換して文通してたよ。
高野:じゃあ、ラブレターっていっても両思いなパターンってこと?
高橋:マセてるなあ〜(笑)。
高野:ラブレターって片想いだからいいところがあるじゃん! それはちょっと話が違うよ(笑)!
――(笑)。アルバムのリード曲「おーる・ざ・やんぐ・ぎーくす」についてもお話を聞かせてください。
高橋:「すべての若かりしオタクに捧ぐ」という意味のタイトルに、「その観点があったか!」と驚いて。たしかにみんなちっちゃい頃はアニメとか観て、ヒーローに憧れていたけど、それもいつしか離れていく。そんなアニメ側の目線になる機会が訪れるなんて。自分たちはアニメや漫画に携わる仕事をしているから、今も身近に感じているものの、「アニメを夕方に観ていたな」「朝にあのアニメ観てたな」という経験は、少し大袈裟かもしれないけど、でもきっとみんな通ってきたと思うんです。“オタク”という括りにはなっていますが、これを今声優の私たちが歌えることもすごく光栄ですし、自分たちが携わった作品が今の“やんぐ・ぎーくす”に届くかもしれないと思うと、人類は皆この曲のように循環してくのかなとか、いろいろ考えちゃいました。
長久:私は最初にいただいたデモに感動して。(作詞・作曲を手がけた)志磨(遼平)さんが仮歌を歌っていたんですよ!
――めちゃくちゃ贅沢じゃないですか!
長久:そうなんです。志磨さん節が随所に散りばめられているから、最初はどうやって自分に落とし込んで歌ったらいいのか悩んだんです。レコーディングの前に、キーチェックのために「おーる・ざ・やんぐ・ぎーくす」を一度歌う機会があったんですが、どう歌ったらいいかが本当にわからなくて。りえりー(高橋)が最初に録ったんだよね?
高橋:そうそう。
長久:りえりーの歌を聴いてイメージがやっと見えてきたので、先に歌ってくれてありがとうって感じでした。でも、志磨さんが歌う「おーる・ざ・やんぐ・ぎーくす」も本当に素晴らしいので、どこかで聴く機会があったらいいなあ。
高野:イヤホンズのデモはいつも贅沢なんですよ。
――本作の楽曲提供アーティストも非常に多彩で、それぞれのメロディから“らしさ”もしっかり伝わるんですけど、この3人が歌うとしっかりイヤホンズ色に染まるんですよね。
長久:本当ですか? そうなっていたならよかったです。
――高橋さんは、この曲を最初に歌う時にどのようなディレクションがあったんですか?
高橋:「アニメキャラからの手紙」というテーマだったので、どういうアニメなのかということを最初に考えて。ただ、キャラになるのではなく、等身大でアニメキャラの想いに寄り添っている空気感を出せたらという部分が大きかったです。そのあたりの温度感を纏いつつ、相手との距離感としてはアニメを観なくなった大人を諭すような感じで、というディレクションをいただきました。〈さあ 起きてよ〉という導入もあるので、その近さや心の距離感は大切にしています。
――高野さんはこの曲をいただいて、どのように受け止めましたか?
高野:声優としては、〈思い出したりしないでね/がっかりするから〉という歌詞を歌うのがちょっと寂しかったです。「いつでも思い出してくれればいいのに」って本当は思っているんだけど、その当時の記憶とかその当時のテンションには勝てないというのがわかっているから、この言葉が出てくるという寂しさもあって。
高橋:私のメモには「遺言のように」って書いてあった。寂しいよね。
長久:最後に〈みてるから〉というフレーズがあるから、より遺言っぽくなるし。私はまりんか(高野)が挙げたフレーズがいちばん刺さって。自分として歌ったら悲壮感いっぱいになっちゃうけど、アニメキャラってそういうのいらないじゃないですか。本当に純粋に背中を押せるのがアニメキャラだと思うので、この曲ならではのフレーズだなって。そういう意味では、前向きに捉えることもできました。
高野:面白いよね、人によって捉え方が違うのも。
長久:りえりーのレコーディングには志磨さんが立ち会ってくださったんだよね?
高橋:そうそう。(レコーディング順が)最初だったのもあって、纏う空気感を確認していただきました。最後のメロディで雰囲気が変わるから「ちょっと静かな雰囲気でみんなでユニゾンできたら」というお話になって。消え入りそうだけど囁くように歌うとか、いろいろディレクションしていただきました。
――ここまでウィスパー寄りの歌い方だと、場合によっては言葉が聴き取れないこともあるかと思いますが、ちゃんと一言一句聴き取れるんですよね。
高橋:諭すような部分であったり、近くで伝えるというところを大事にしていて。手紙だからしっかり伝えないといけないですし、その距離感を微調整できるのも声優ならではと思いました。