海外メディアが選ぶ年間ベストアルバム シンガーソングライターの活躍、K-POPの台頭……2023年の傾向は
すっかり年末となり、毎年恒例の各メディアやリスナーの「年間ベストアルバム」を見ながら、一年の終わりを実感しているという人も多いのではないだろうか。個人的にも本稿を書いているクリスマスの時点でも、今年聴いたアルバムのアートワークを並べながら、特に誰が気にしているわけでもないのにああでもないこうでもないと考えていて、それが単純に楽しかったりする。本稿では、そんな2023年の総括の切り口のひとつとして、ほぼ出揃った印象のある海外メディアの年間ベストの結果をまとめながら、どのような作品が評価されたのか、あるいはどのような傾向が見られるのかについて、まとめていきたい。
『Album of The Year』から読み解く、シンガーソングライターが活躍した2023年
まずは各メディアの結果を集計した内容をまとめているWEBサイト『Album of The Year』(※1)の本稿執筆時点(2023年12月25日時点)での状況を見てみよう。
全体のランキングとしては、1位がboygenius『the record』、2位がキャロライン・ポラチェック『Desire, I Want To Turn Into You』、3位がラナ・デル・レイ『Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd』、4位がスフィアン・スティーヴンス『Javelin』、5位がオリヴィア・ロドリゴ『GUTS』という結果になっている。
ちなみに参考のために去年の結果(※2)も併せて記しておくと、2022年は1位がビヨンセ『RENAISSANCE』、2位がロザリア『MOTOMAMI』、3位がWet Leg『Wet Leg』、4位がケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』、5位がBig Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』という感じだ。「かなり傾向が違うな」と感じたのは、筆者だけではないのではないだろうか。
この結果に対して納得か、驚きか、どのように感じるかは個々人に任せるとして、少なくともこのラインナップから読み取ることができるのは、間違いなく2023年はソングライティングにも定評のあるソロアーティスト(特に女性)が大きな強みを発揮した一年であったということだろう(ちなみに続く6位は現状Mitski『The Land Is Inhospitable and So Are We』である)。
ラナ・デル・レイやスフィアン・スティーヴンスといった以前より確固たる評価を獲得しているアーティストの順位の高さに安定感を抱く一方で、やはり大きなサプライズとなったのは、以前からポップリスナーを中心に親しまれつつも尖った存在感を発揮していたキャロライン・ポラチェックの大躍進だ。以前より親交が深く、PC Musicの代表的なアーティストとしても知られているダニー・L・ハールと全面的にタッグを組んだ『Desire, I Want to Turn Into You』は(今年のベスト級のアートワークにも象徴されるように)実験的でありながらも普遍的なポップミュージックの強度を併せ持った快作で、『Pitchfork』(2位/米)のようなインディー系から、『People』(5位/米)のようなエンタメ系のメディアまで幅広い支持を獲得する結果となった。来年の動向に注目の集まるデュア・リパの最新曲「Houdini」に、Tame Impalaと共にダニー・L・ハールが参加していたことも、本作の影響の大きさを感じさせる出来事だったように思う。
また、大ヒットしたデビューアルバム(『Sour』/2021年)に続く新作という絶大なプレッシャーのなかで、しっかりとオルタナティブロックの方向性を強めた新作をリリースしたオリヴィア・ロドリゴも、『Billboard』(米)と『People』の1位を筆頭にややエンタメ寄りの評価が強いものの、『Stereogum』(2位/米)や『Gorilla vs. Bear』(12位/米)などインディー系メディアからの評価もしっかりと獲得し、自身の才能をあらためて証明した一年となった。
そうした流れのなかで、米国のインディーシーンを代表する女性ソロアーティストであるジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダカスが集結したスーパーグループ boygeniusの『the record』が見事1位を獲得しているのは、まさに鮮やかであり、象徴的ですらあると言える。『NME』(英)や『The Independent』(英)で1位、『Billboard』や『Rolling Stone』(米)で2位と、大手メディアを中心に強い支持を獲得しつつ、『DAZED』(5位/英)や『NYLON』(6位/米)といったファッション系のメディアでも強く支持されていることが示すように、3人が生み出す美しいハーモニーや、開放的で力強く、繊細な楽曲の数々は、それ自体が現代における理想的なロールモデルを体現していたのではないだろうか。