桑田佳祐&松任谷由実、音楽を通した“夢のような対話” コラボ曲に感じるお互いへのリスペクト 

 桑田とユーミンによる「Kissin' Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」では2人のデュエットが実現。原曲の世界観はそのままでありつつも、今回ならではのアレンジによって、より華やかで心温まる楽曲に仕上がっている。演奏を担当するのはサザンオールスターズのメンバーである原 由子や、サザンや桑田のソロ活動でもサポートを務める片山敦夫、曽我淳一らが名を連ね、錚々たるメンバーによって現代向けにチューニングされた編曲は、36年の時を超えて現代に名曲が蘇ったかのような感慨に満ちている。

 ユーミンによる歌詞はオリジナルから大幅な変更はないものの、2023年の今聴くと〈これから何処に向かって進んでるのか 時折わからなくて哀しいけど〉というフレーズは今年の世界情勢における紛争や国内における景気悪化などを想起させる。そんな悲しさも〈きっと大丈夫だよね今夜の瞳〉とふたりが歌うことで浄化され、辛い出来事も踏まえながら未来へ進んでいこうと歌う〈新しい日を夢で変えてゆける〉というフレーズで未来への希望が胸に溢れるような気持ちにさせられてしまう。苦みや悲しみを乗り越えながら最後にはピースフルな祝祭感に包まれる本作の歌詞は、時代を超えても人々の胸を打つ普遍性に満ちている。

 とりわけ印象的なのは、原曲にも挿入されている童謡「お正月」や賛美歌「Joy to The World(もろびとこぞりて)」の一節と、ふたりの代表曲が組み込まれた中盤のアレンジだろう。作曲を担う桑田のポップシンガーとしての矜持と遊び心を感じさせるこのパートでは、桑田がユーミンの「恋人はサンタクロース」を、ユーミンが桑田の「波乗りジョニー」を、そしてふたりで「ルージュの伝言」を歌っている。このマッシュアップ的アレンジは原曲にはない本楽曲ならではのサプライズだ。

 ここで改めて本曲のテーマ「今、この世界に必要なのは、争い傷つけ合うことではなく、互いに歩み寄り、穏やかに対話すること」を思い浮かべる。桑田佳祐とユーミンは『メリー・クリスマス・ショー』や『紅白歌合戦』などで時に交差しながらも、それぞれの道で音楽シーンのトップをひた走ってきた。このアレンジには、そんなトップランナー2人が再び手を取り、音楽を通した“夢のような対話”を繰り広げている情景が表現されているように思えてならない。そこにはお互いの楽曲、ひいてはお互いの活動へのリスペクトがありながら、リスナーを喜ばせたい、この楽曲を通して世の中が少しでも明るくなってほしいという両者の願いも込められているように思う。

 本楽曲から得られる収益の一部は子どもたちの権利保護のためにセーブ・ザ・チルドレンへと寄付される。桑田とユーミンが共に抱く、世界中で起こる出来事への憂いや次世代への想いを象徴する施策だ。クリスマスソングと言えばテーマに平和を掲げる楽曲も数多い。先人たちの想いを受け取り、次世代に継承していく。そんなふたりの音楽人としての矜持をも感じさせる「Kissin' Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」。クリスマスはぜひ大切な人とこの曲を聴きながら過ごしてほしい。

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