パン野実々美、ワンマンライブでファンに伝える“恩返し” メジャーデビューに向けて進み続ける

 パン野実々美(ぱんのみみみ)というシンガーをご存知だろうか。語感にパンチと愛嬌がある、超キャッチーな名前だ。字面から瞬間的に脳内再生され、思わず言ってしまいたくなる。失礼ながら本原稿の執筆にあたり、筆者は彼女を初めて知ることになったのだが、ワンマンライブで聴いた彼女の歌声は、その名前に負けないほど一発で印象に残るスペシャル級のキャッチーさを備えていた。

 12月2日、パン野実々美がGRIT at Shibuyaにて『ONEMAN LIVE 2023 -私になれ-』を開催した。

 現在19歳のパン野実々美は、高校在学中よりバーチャルライブ配信アプリ「REALITY」やYouTubeなどで、2021年から配信活動を行ってきたシンガーだ。ボカロ曲を中心に歌ってきたが、発表する際にはイラストでリリックビデオも兼ねたオリジナルMVを制作するなど、早くから自己プロデュース能力に長けていたことがわかる。2022年にオリジナル曲を発表し始め、同年4月に発売された「eBASEBALL パワフルプロ野球2022」(KONAMI)の主題歌「群像夏」にシンガーとして起用された。同ゲームソフトの公式YouTube『パワプロ・プロスピ公式チャンネル』で同曲を使用したオープニングムービーが公開されると、10代を中心にSNSで拡散され、伸びやかな彼女の歌声も話題に。猛練習を重ね甲子園への切符を手にした高校球児と、そのマネージャーの様子を描いた同ムービーは、コロナ禍を経て3年ぶりに一般観客の観戦を再開した『第104回全国高等学校野球選手権大会』の開催も後押しし、240万回再生(2023年12月上旬現在)を突破。同チャンネルの他の動画とは桁違いの再生数を記録している。

 これまで、ほぼ顔出しをしてこなかったパン野実々美のワンマンライブは、SNSを中心にネット上で彼女のことを知った大勢のファンで満員だった。会場が暗転する。大歓声。バンドメンバーがステージへ。ギター、ベース、ドラム、キーボード、マニピュレーター、そしてボーカルのパン野実々美という布陣だ。1曲目はオリジナル曲「キャンディーホープ」。ポップなアップチューンに、観客からは“Oi! Oi!”という掛け声が上がる。この掛け声に合わせ、パン野も右手の拳を突き上げる。最初から会場全体がハイテンションで、いかにそれぞれが“この日”を待っていたのかがわかる。続く「LAG」では、ジャズのアプローチも感じるグルーヴに乗った滑らかなボーカルワークを聴かせた。最初のMCでは「こんばんは、パン野実々美です。よう来てくれたな、元気かー」と挨拶。ちょっと高音で、まさに鈴が転がるような声と早口な口調が愛らしい。

 中盤では、オリジナル曲に加えてボカロの名曲「フォニイ」(ツミキ)や「Mela!」(緑黄色社会)のカバーを披露。特に「Mela!」は、原曲にほぼ忠実なアレンジ、譜割りを踏襲しながら、ボーカルのニュアンスをひきずらず、しっかり自分の歌に昇華していたことに、パン野実々美の楽曲に対するリスペクトと、“自分の歌”に対する意地を見た気がした。

関連記事