PEDRO アユニ・D×田渕ひさ子×ドミコ さかしたひかる、赴くままの自由な制作で生まれた新しさ
アユニ・D(Vo/Ba)率いるバンド PEDROが2年ぶりとなるアルバム『赴くままに、胃の向くままに』を完成させた。この2年の間にはPEDROの一時的な活動休止があり、アユニが所属していたBiSHの解散があり……彼女自身にとっては大きな変革の季節だった。そんな激動の時期を経て、新たな体制で再出発を果たしたPEDROは、これまで以上にアユニ自身の思いや人生を注ぎ込んだ、唯一無二のロックバンドになりつつある。その最初の一歩といえるアルバム中の2曲に、サウンドプロデューサー/アレンジャー/ギタリストとして参加しているのがドミコのさかしたひかる。以前からアユニがドミコの大ファンだったこともあり実現したコラボは、このアルバムの中でも特に、ロックバンドの自由さとアユニ自身の人生観を強く感じさせる楽曲へと帰結した。実際どのように制作は進んでいったのか、アユニ、田渕ひさ子(Gt)、さかしたによる座談会で語り合ってもらった。(小川智宏)
共作のきっかけは“縛られない自由さ”への憧れ
――まず、『赴くままに、胃の向くままに』、どんなアルバムになったと思いますか。
アユニ・D(以下、アユニ):PEDROとしてすごく“深化”している作品になったと思います。自分が尊敬しているアーティストの方々の力を借りて、音楽として今までよりもさらに濃密なものになりました。
田渕ひさ子(以下、田渕):アユニさんが作詞作曲したものをいろんな人がアレンジしているので、1曲1曲個性が強くて。でも、カラフルではありながらも、どの曲にもアユニさんの芯があって、私とゆーまおさんも演奏しているので、すごくPEDROらしいアルバムだなとも思いました。
――今回はさかしたさんの参加した2曲を中心にお話を伺えればと思うんですが、これはどういう経緯で実現したんですか?
アユニ:もともと友人だったとか、そういうわけではないんですが……。
さかしたひかる(以下、さかした):でもドミコのライブを観に来てくれたりしていて。何回かその時に挨拶をしたり、それぐらいでしたね。好きで観に来てくれていたら、なんか気の迷いでこういうことに(笑)。僕自身、今までギターテックやサウンドメイクで他のアーティストの作品に参加したことはあるんですけど、こうやって思いっきり作品に携わるというのはしたことがなかったので、「思いきってるな」と思いましたね。
アユニ:もう頭が上がりませんわ。断られるのも覚悟してお願いしてしまったので。
――アユニさんはもともとドミコが好きだったんですよね。どういうところが好きなんですか?
アユニ:もう圧巻ですよね。ひかるさんワールド。今も靴脱いで椅子の上であぐらかいてますけど(笑)。自分は人間性としても音楽面でも結構とらわれがちなので……。
さかした:確かにレコーディングでも思ったんですけど、本当に自由にやらせてもらって。むしろ、こっちに気を使ってもらっているみたいな感じで、それに甘えさせてもらおうと思って、グータラやらせてもらってましたね、人の現場で。やりやすい空気にしてもらってたし、してしまってたし。すごい気を使わせてしまったんじゃないかというのもあったんですけど、その代わり自分の我をめっちゃ出せた。
アユニ:でも、はちゃめちゃに好き勝手やってるわけではなくて、穏やかに、本当に赴くままに自由に生きてらっしゃる方なので。それがライブとか音源とかにも出てますよね。何にも縛られていないっていうか、己の道をしっかり楽しく歩んでらっしゃる姿が音楽にも出ているし、人格が素晴らしいです。そこに憧れます。
――逆にさかしたさんはPEDROのことはどこまで知っていたんですか?
さかした:失礼ながらですけど、あまり知ってはいなかったですね。もともとBiSHをやりながら並行してバンドをやってるっていうことは認知していましたけど。でも今回作る上で、今までの作品とかを聴いてみたりして。珍しいですよね。歌って踊る方たちが実際に作詞作曲をして、人前で楽器を演奏してっていうパターンは。男気あるなあって。
アユニ:いやいや……。
さかした:僕と真逆で、きちっと丁寧に道を歩んでいくスタイルっていうのは何となく外側から見えていたので、それをどう自分なりにぶち壊せるか、その丁寧な歩みじゃ行けないようなところを見せられるかなっていうのがありましたね。
――今回「グリーンハイツ」と「春夏秋冬」をさかしたさんにお願いした理由はあるんですか?
アユニ:はい、あります。「グリーンハイツ」は、これ、ご本人の前で言ったら怒られるかもしれないですけど、自分なりにドミコっぽいものをイメージして作ったんです。「春夏秋冬」は、今自分が一番幸せになるとか満たされることって何だろうって思った時に、やっぱり四季を感じることだなって。自然に身を置くことで、人や自分の大事さを感じられるなって気づいたのが今年の大きな気づきだったので、それを楽曲にして、これはひかるさんにアレンジをしていただくっきゃない! って直感で思ったので、この2曲をお願いしました。
――さかしたさんは曲を受け取ってどんなことを感じました?
さかした:順番としては「春夏秋冬」が先だったんですけど、どうアレンジしようかなとかの前に「これ、どこからどこまでやっていいんだっけ」みたいな。で、ちょこちょこ作ってはデモを送って、「これはOK?」って連絡して聞いていって。そういう手探りみたいな感じでした。でも、結構思いっきり変えていってもいいのかなっていう感じがあったんで、新しい要素とか、PEDROが絶対入れてない要素を入れていこう、みたいな。あとは、聴いてていい曲っていうのは当たり前なんですけど、ライブをやって、客だけじゃなくて自分らが上がるようなフレージングだったり構成だったり、そういう部分を曲に乗せていきたいなって思いました。
田渕ひさ子も苦戦した!? 難関のギターフレーズ
――「春夏秋冬」は歌詞の世界観や曲の持っている雰囲気に対して、結構攻めたアレンジになっていますよね。リズムがすごく強かったり、リフが効いていたり。
アユニ:自分はまだ理論とかを全然理解できていなくて、それこそどこまで表現していいんだろうとかも模索中だったんです。なので「ひかるさんの好きなように、コードもまるっと変えていただいて全然構わないです」「なんでも変えちゃってください」ってお願いして、自由自在にアレンジしていただきました。
――それで上がってきたものを受け取ってどう思いましたか?
アユニ:もう、びっくりしました。ずっと聴いてましたね。ギターのリフが天才的すぎて、自分がポッと生んだ赤子がめちゃくちゃスーパースターになって帰ってきた、みたいな(笑)。それが本当に衝撃的でした。
田渕:私も初めて聴いた時、「すっご」って思いました。びっくり。
さかした:わ、嬉しい。
田渕:構成も変わってるけど奇を衒うとかじゃなくて、自然と体に入ってくるような感じで。あとギターのフレーズがめちゃめちゃかっこいいですよね。でも難しくて、自分で弾けるかどうか、すぐ確認しました(笑)。
さかした:あれはもう……もともとプレイヤーとしては参加しない予定だったんですよ。だから弾く人が頑張ればいいやって思って、結構難しいフレーズにしたんです(笑)。
――田渕さんなら大丈夫だろう、と。
田渕:(笑)。
さかした:でも時間の都合とかもあって結局自分が弾くことになった時に、自分でもめっちゃ練習しました。もっと簡単にしとけばよかった(笑)。
――そういう意味では、ドミコの曲をやる以上にいろんなものを出せた感じもありますか?
さかした:そうですね。特に「春夏秋冬」のデモをもらった時は、普通にアレンジするなら絶対僕がやらない方がいいなって思ったんですよ。でも僕がやるなら、別方向の、かっこいい方に行くスタイルに持っていきたかったんですよね。でも、コードや構成は結構変えたんですけど、メロディラインはほとんどデモのままなんです。元のメロディがすごく綺麗で、穏やかだけど力強くていいラインって感じだったので、そこにどう自分が絡まるか、みたいな。そこに演奏の楽しさとか、ライブでこっちが高揚するようなトリックがあったらいいなと思ってやりました。
――おっしゃる通り、この曲は普通にアレンジしたら普通に綺麗な曲になるっていうタイプの楽曲な気がするんです。そこにあえて、さかしたさんをぶつけるっていうのが面白いですよね。
さかした:だから「この曲でいいの?」って思ったんですよ。絶対求めてるものにならないけど大丈夫かなって。
アユニ:それが目的でした。
――そういう意味では「グリーンハイツ」とはまたオファーの角度が違いますよね。「春夏秋冬」は「やれるものならやってみろ」っていう感じもちょっとある。
さかした:そうですね、挑戦状みたいな。
――一方で「グリーンハイツ」はドミコをイメージしながら作ったと。
アユニ:はい。このアルバム、わりと穏やかで温度のある楽曲が多いので、「グリーンハイツ」は鋭い曲にしたいと思って。
――どういう思いで書いた曲なんですか。
アユニ:これは……このアルバムの制作期間が、私にとっては自分の調整期間だったんです。今までの生活が一変して「自分ってどう生きてたっけ?」っていうのがわからなくなって、生き方を整えていた時期だったんですよね。そんな自分の人生の中でも大革命期みたいな時期に、家に閉じこもって「自分の暮らしって何だろう」とか考えて、泣きじゃくっていた時期の自分を書き留めたのがこの「グリーンハイツ」です。むしゃくしゃしてるしおセンチな気持ちになってるけど、本当はしっかり生きていきたいっていう。