連載『lit!』第76回:ドレイク、City Girls、ケン・カーソン……捻れた表現でリアルを描くヒップホップ5作

ブレント・ファイヤズ『Larger Than Life』

 ミッシー・エリオットやエイサップ・ロッキー、ベイビーフェイス・レイなどが参加した、R&Bシンガー ブレント・ファイヤズの新譜は、ティンバランドからの電話とTLCのサンプリングから始まる通り、2000年前後の時代へのタイムスリップ感を醸しているが、同時に不思議な時間感覚を持つ作品ともいうべきかもしれない。サウンドやネタ使い、ミッシーやティンバランドの参加などに魅せられるが、タイムスリップ感とはいえ単なる懐古主義とも違うような、クールで淡々とした流れがそこにはあって、全てがドライに切り替わっていくのである。

 またリレーションシップの主題に満ちた楽曲群の歌詞は、すでに喪失の感情が横たわっているような儚さで、アルバムの流れにおける各シーンの切り捨てられ方には刹那的なモンタージュを見ているような感触がある。まるで各カットがより良い音によって紡がれながらも、絶妙なリズムで無執着に切り捨てられ、身軽に次のカットに切り替わるような。この編集感覚において、非常にヒップホップ的なアルバムであるとも言えるだろう。不安感情やみっともなさも曝け出した各パートが、感傷性とは別のノスタルジアに彩られ、煌びやかな時間に生まれ変わる様は、鮮やかである。

Brent Faiyaz - Last One Left feat. Missy Elliott & Lil Gray [Visualizer]

ケン・カーソン『A Great Chaos』

 プレイボーイ・カルティ『Whole Lotta Red』(2020年)以降の次世代のスターといえば、ケン・カーソンだ。現在23歳のカーソンの新作『A Great Chaos』が期待通りの危険な香りと邪悪さを持った作品であることを嬉しく思う人は多いだろう。容赦のないシンセ、破壊的で快楽主義的な言葉の断片。モチーフやカラーから、もう少し内省的なものを想像していた人もいるかもしれないが、“Great Chaos”から出られないカーソンは、常に衝動的である。ドラッグとセックス、そして暴力の衝動的なドキュメントであり、リラックスした旅路でも、頭を巡らす自省の時間でもない。過激な描写の数々は、ラリー・クラークの映画が孕んでいた若者の暴力的な生々しさを少し思い出すが、何よりも早い展開で騒々しい音が鳴り止まないことが本作の特徴である。フロウの変化やメロディの緩急、支離滅裂ながら時に細かい描写と感覚的に繰り返される単語の数々。似たようなスタイルの曲が集まっているというには情報量が多く、聴き流せない瞬間にも溢れている。『A Great Chaos』は、数々の有害さを撒き散らしながら、この快楽に抗えるかと我々に問うているようだ。

Ken Carson - Fighting My Demons (Directed by Cole Bennett)

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