YOASOBIらヒットでレーベルとアーティストの関係性に変化? 『Puzzle Project』次世代エンタメの作り方

 YouTube、TikTok、X(旧Twitter)、Instagramなどのプラットフォームで自由にコンテンツ配信ができ、The OrchardやTuneCoreなどのデジタルディストリビューションサービスから簡単に全世界へ楽曲配信が行えるなど、個人の力のみで作品を世間に売り込むことができるようになった昨今。自身で全てのクリエイティブやマーケティング、プロモーション戦略まで行える、セルフプロデュース力の高いアーティストが続々と登場し、次世代の音楽シーンを作りつつある。おそらく、音楽アーティストが成功に至るまでのプロセスは、10〜20年前と比べると劇的な変化を遂げていると言えるだろう。

 そんな時代において、アーティストとメジャーレーベルの関係性にも変化が見られるようになった。メジャー最大手のレコード会社 ソニー・ミュージックエンタテインメントが2020年よりスタートした『Puzzle Project』は、同社の新人発掘・育成セクションであるSDグループ、YOASOBI結成のきっかけとなった小説投稿サイト「monogatary.com」、彼らの世界進出を後押ししたディストリビューションサービス「The Orchard」が共同で始動したプロジェクト。ユーザーの創作が、プロの音楽制作に直接結びついたデビュー曲「夜に駆ける」の爆発的ヒットは、音楽業界の常識を覆す出来事であったことは、言うまでもない。そして、「The Orchard」が持つグローバルなネットワークとマーケティング力によって、YOASOBIは海外での認知度を急速に高めることに成功した。

 『Puzzle Project』のユニークな点は、YOASOBIのヒットを踏襲するかのようにプロジェクト自体がDIY的な仕組みになっていること。楽曲制作をはじめとするクリエイティブの補助をはじめ、ボーカリストやプレイヤーのマッチング、ライブやグッズ制作の補助、音源の世界配信など、アーティストを中心に置き、その創作や活動において足りない部分のサポートを、ソニーミュージックのソリューションを活用して実現してくれる。そこにはトップダウン的な力関係で何かを作るのではなく、レーベルとアーティストがwin-winな関係性を築くパートナーシップという意味合いが強いように感じられる。

 現在、『Puzzle Project』に参加しているのは、ボカロPを中心とした約15組の新進気鋭のクリエイター。ソニーミュージックの強力なソリューションにより、ボカロPに特化したイベントへの出演や、アーティスト同士のコラボレーション、タイアップを実現している。

【373】[feat. 美波, SAKURAmoti] アイウエ / MAISONdes

 例えば、SAKURAmotiは歌い手・作り手がコラボする音楽プロジェクト『MAISONdes』に参加し、シンガー・美波と共作した「アイウエ」でテレビアニメ『うる星やつら』のオープニングテーマを担当。ボカロP 晴いちばんは、『沼にハマってきいてみた』(NHK総合)の公式番組テーマソングに抜擢された。いずれもクリエイターの個性が輝いているのはもちろん、現役高校生で大きなタイアップを獲得しているところに夢を感じる。

【MV】トレンドチューン / シユイ

 また、Sohbanaは中川翔子のシングル表題曲「65535」の作詞/作曲/編曲を担当し、さらに同曲がテレビアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』のオープニングテーマに起用。モネルタPがシユイ「トレンドチューン」の作詞/作曲/編曲を担当するなど、コンポーザーとしてメジャーアーティストへの楽曲提供も積極的に行われている。

中川翔子『65535』music video

 近年は、ユーザーによるシェアや口コミによって、ヒット曲がいつ、どこで生まれてもおかしくない。このような時代においては、『Puzzle Project』のグローバルネットワーク、大手レコードレーベルのソリューションやノウハウは、新しい才能やヒット曲の芽をいち早く発見し、迅速に展開できる強力な武器となるだろう。

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