乃木坂46、「おひとりさま天国」MVで『MTV VMAJ』受賞 “グループ”を強みに挑んだ構成の革新性
乃木坂46の「おひとりさま天国」のMVが年間の優れたMVを表彰する音楽アワード『MTV VMAJ 2023』にて「Best Group Video -Japan-(最優秀邦楽グループビデオ賞)」を受賞した。同賞を乃木坂46が受賞するのは初。過去には欅坂46が「アンビバレント」(2018年)と「黒い羊」(2019年)で受賞したことがあったが、それ以降はOfficial髭男dismが3年連続(「I LOVE...」「Cry Baby」「ミックスナッツ」)で受賞している。今回の受賞を機に、あらためて乃木坂46のクリエイティブ面に注目が集まりそうだ。
「おひとりさま天国」は、乃木坂46の通算33作目のシングル表題曲。他人に振り回されない自由気ままな生き方を歌い、歌詞には〈焼肉もお寿司もソロデビューして/さあ ゆっくり自分のペースでンエジョイしよう〉といったように、煩わしい人間関係から解放されて“おひとりさま”を謳歌する姿が描かれる。愛や友情を歌うポップソングが多いなか、面倒な人付き合いには近寄らないこの曲の生き方は、ある意味でドライで現代的と言えるかもしれない。グループ作品の前提から覆す“独り身礼賛”ソングである。
一方で、MVは“おひとりさま”を満喫することをテーマに、メンバーがそれぞれ小部屋に分かれて好きなことに熱中する様子をカラフルな映像で映し出している。楽器を弾く者もいれば、絵を描く人もいる。サウナや野球観戦、釣りやヨガなど、さまざまな趣味を楽しむメンバーたち。なかには私物を飾るメンバーもいるという。そうした多種多様な個性が盛り込まれたセットはインパクトがあり、小部屋を柱のように積んだ円形の舞台セットは壮観。EDM調のアップテンポなサウンドも相まって、お祭り感のある賑やかな映像に仕上がっている。
監督を務めたのは伊藤衆人。これまでも多くの乃木坂46作品を手掛けてきた伊藤監督は、個性と一体感の表現、そして色彩表現が特徴的な作家だ。
たとえば、昨年公開された「僕が手を叩く方へ」では、色とりどりの衣装に身を包んだメンバーたちが踊る場面と、終盤で白を基調とした統一感のある衣装でパフォーマンスするシーンとの対比が美しい。メンバーの個性とグループの団結力が、ひとつの作品のなかでしっかりと映像的に描かれていた。
また、2020年に公開された「アナスターシャ」においては、荒廃した土地や廃墟の映像では色味を薄めに抑えて虚無感を演出。曲が進むにつれて彩度を徐々に上げていき、個人やグループとしての成長を繊細な色遣いによって表現している。ラストは優しいピンク色がアクセントとなっている衣装で、幻想的かつ温かい映像に仕上げていた。