プリンス、ポップ全体の背骨たる理由 リマスターから再考する『ダイアモンズ・アンド・パールズ』の功績

 オリジナルに収録された13曲の別テイク、別バージョンを聴き比べるのも楽しい。さらに、スーパー・デラックス・エディションには当時を振り返る、関係者による貴重なコメントのライナーノーツがついている。プリンス・エステートが厳しいのか、本稿で引用できないのがもどかしいが、たとえばトニー・Mは「ラッパーというより、ラップもできるミュージシャン」であったこととか、不仲ばかりが伝えられたワーナーミュージックにもプリンスが信頼するスタッフがいて、本人も納得するプロモーションを展開した苦労話などが読めて、興味深い。

 ライブバージョンの特典もある。91年の『スペシャル・オリンピックス』でのパフォーマンスのサウンドチェックと本番の様子や、プリンス所有のクラブ グラム・スラムでのライブが鮮やかな映像で観られるBlu-rayに加え、後者のライブ音源も合わせて収録されている。『ダイアモンズ・アンド・パールズ』の曲を中心に、ミュージシャンとダンサー3人、ホーン5人、ゴスペルグループのThe Steeles、DJ、そしてオープニングにダンスを披露する後の妻 マイテと、総勢20名の大所帯によるステージは、凄まじくファンキー。見どころは、パワフルなロージー・ゲインズとプリンスの歌声のかけ合いだろう。トニー・M、ロージー、そしてプリンス本人にもラップパートがあるのだが、やはりひとつの要素に過ぎない。どの時代でも、どんな要素が入っていても、彼が奏でるのはジャンル関係なく、「プリンスの音楽」としか言いようがないと再確認できる。

 むしろ、このアルバムが後輩たちに大きく影響を与えた点を指摘したい。タイトル曲はリル・ウェインが「ダイアモンズ&ガールズ」(2007年)に、「ウォーク・ドント・ウォーク」はファレル・ウィリアムスのプロデュースによるジェイ・Zの「エクスキューズ・ミー・ミス」(2002年)にサンプリングされている。また、「サンダー」で聴ける、レイヤーのあるアカペラコーラスでいきなり始まる手法は、Backstreet Boysが真似をし、そのあとのボーイバンドにも影響を与えている。プリンスの音楽は、R&Bとファンクを内包したポップ全体の背骨のような存在なのだ。ファンにとっては当然、待望のリマスターだが、「世代ではないから、あまり知らないかも」という人も、たとえば流しっぱなしにして(7時間超えである)、「あ、ここが好きかも」とカジュアルにプリンス道へ入門するためにもいい企画だ。

Prince & The New Power Generation - Diamonds And Pearls (Official Music Video)

■リリース情報
『ダイアモンズ・アンド・パールズ:スーパー・デラックス・エディション』
・完全生産限定(7CD+Blu-ray/輸入盤国内仕様):税込¥30,800
・75曲収録、うち未発表音源47曲
・12インチボックス仕様
・120ページに及ぶハードカバーブックレットを収納
・英文ライナーノーツの完全翻訳付
<収録内容>
Disc 1:初めてリマスターされたオリジナルアルバム
Disc 2:新たにリマスターされたシングル曲の別ミックス、エディットを15曲収録
Disc 3~5:プリンスの伝説的ヴォルト(保管庫)からの秘蔵音源(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)(未発表音源)
Disc 6~7:ライヴ・アット・グラム・スラム(1992年1月11日収録)(未発表音源)
Blu-ray:
・ライヴ・アット・グラム・スラム(1992年1月11日収録)(未発表映像)
・スペシャル・オリンピックスでのサウンドチェック(1991年7月19日収録)(未発表映像)
・スペシャル・オリンピックスでのパフォーマンス(1991年7月20日収録)(当時テレビ放映された映像の初商品化)
・『ダイアモンズ・アンド・パールズ・ビデオ・コレクション』(1992年作品のリストア版)

『ダイアモンズ・アンド・パールズ:デラックス・エディション』
・完全生産限定(2CD):税込¥3,960
<収録内容>
Disc1:『ダイアモンズ・アンド・パールズ』の初リマスター音源
Disc2:新たにリマスターされたシングル曲の別ミックス、エディットを15曲収録

購入リンク:
https://warnermusicjapan.lnk.to/prince_dap2023
『ダイアモンズ・アンド・パールズ』関連の音源・映像リンク:https://www.youtube.com/playlist?list=PLrwXzbX3SWnvkKJkzjZNQOkGQKWDoKXdY

プリンス WMJ 公式サイト

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