連載「lit!」第72回:トロイ・シヴァン、バッド・バニー、ドレイク……海外音楽シーンの重要人物による奔放自在な新作たち

テイト・マクレー「Greedy」

 今年9月から新設されたTikTokのヒット曲を集計したチャート「TikTok Billboard Top 50」で、現在4週連続でトップ10にランクインしているカナダ出身のテイト・マクレー。2003年生まれの20歳で、7歳からYouTubeチャンネルにダンスの動画を投稿していたという。2020年1月に、ビリー・アイリッシュとその兄のフィニアスによる提供曲「tear myself apart」を含む1st EP『all the things i never said』をリリース。その3か月後にはシングル「you broke me first」が爆発的にヒットを記録したが、世界はパンデミックに突入。カナダの自宅で完全DIYで撮影したMVも盛大なバズを引き起こしたものの、ライブやプロモーションは十分に行えなかったと思われる。しかしそれからも楽曲のリリースを続け、つい先日北米20都市を巡るツアーを終えたばかりだ。リリース前からTikTok上で10万本もの投稿があったという「Greedy」は、中毒性の高いビートに挑発的な歌詞がティーンの間でウケている。そしてジャスティン・ビーバーのキッズダンサーにも選ばれた経験を持つ得意のキレキレなダンスも大きな魅力だ。粘り強い活動が実を結び、確実にスターへの道を歩み始めているのだ。

Tate McRae - greedy (Official Video)

ジョルジャ・スミス「Falling or flying」

 英国のウォルソール出身で、ジャマイカ人の父とイギリス人の母をもつジョルジャ・スミス。近年最も注目度の高い英国R&Bシンガーの一人だ。1枚のEPを挟んで5年ぶりに届けられた2ndアルバム『falling or Flying』は、R&Bやソウルに加えてインディーロックやレゲエの要素も感じさせる意欲作である。デビュー作『Lost & Found』での大成功に伴う重圧から逃れるようにロンドンを離れ、故郷のウォルソールで古くからの知り合いであるプロデューサーデュオのDAMEDAME*と制作したという本作。アフリカ系英国人のJ Husやジャマイカの新星Lila Ikéといった、自身のルーツに意識的なフィーチャリングも注目ポイントだろう。アルバム表題曲「Falling or flying」のMVはジョルジャ自身が監督したという。「落ちているか飛んでいるか」という不思議なタイトルから宇宙が連想されるのも面白い。情熱的なエレキギターが内省的なバラードのムードを損なわないくらいのほどよい存在感で鳴っているのが心地よい。

Jorja Smith - Falling or flying

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