由薫、新曲「Crystals」で新たな境地へ スウェーデンでの旅を経て進化を遂げた今を語る

 由薫から、新曲「Crystals」が届いた。10月22日よりスタートしたドラマ『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の主題歌として起用されている楽曲だ。『星降る夜に』の主題歌「星月夜」での経験を経て、今回純愛ストーリーで展開していくドラマに由薫はどのように寄り添い、ミディアムバラードに乗せて何を歌いたかったのか。そして7月に単身で渡ったというスウェーデンでの“武者修行”や、2ndツアーについても話を聞いた。(編集部)

『星降る夜に』主題歌を経て、スウェーデンで単身武者修行へ

――前回ご登場いただいたのが、今年5月にリリースしたEP『Alone Together』リリース時のインタビューでした。それから現在まで、どのように過ごしていましたか?

由薫:5月28日から初めてのワンマンツアー(『1st TOUR 2023“Alone Together”』)を開催させていただいたり、7月28日にTVアニメ『うちの会社の小さい先輩の話』(テレビ朝日系)のEDテーマ「sugar」をリリースをしたり。あとはスウェーデンに曲作りの武者修行に行ったりと、いろいろやっていましたね。

――単身でスウェーデンに乗り込んだ、という記事を読みましたよ。どうしてスウェーデンを選んだんですか。

由薫:私がお世話になっている音楽チームの方が、スウェーデンの音楽家さんとご縁があって、武者修行のお話をいただいたのがきっかけでした。10日ほど滞在したんですけど、とにかく学ぶことが多くて。スウェーデンと日本の音楽性の違いについても勉強になりましたし、あらためて自分の音楽についても考えさせられたり、いろんな方面から気づきのある滞在でしたね。

――学んだこと、というのは?

由薫:スウェーデンの作家さんと「日本とスウェーデンの音楽って何が違うんだろう?」という話をしたなかで、ひとつは日本の方がコードにこだわっていたり、一曲のなかでいろんな展開をしたり、複雑なことをやっている。一方でスウェーデンの音楽は、もっとシンプルなんです。何より大きいのは、日本は“何を歌っているのか”をすごく大切にする文化で「歌詞も曲と同じぐらい大事」という考えがあるけど、スウェーデンは歌詞の意味をじっくり考えて聴くよりも、音自体を楽しむ傾向にあるらしいです。そういうことを知って「自分の音楽ってどうだったかな?」「どれくらい歌詞を大事にしていたかな?」と見つめ直せましたし、私は洋楽も邦楽も同じくらい好きなので、海外のサウンドを取り入れつつも、日本語と英語を織り交ぜて自分らしいサウンドを追求していきたい、とあらためて思いました。それもあってスウェーデンで楽曲制作をした「Blue Moment」(9月13日にYouTubeでショートサイズの制作風景動画を公開)は、あえて海外サウンド強めなアレンジにしているんです。

Blue Moment (Memories of Sweden Video)

――初めて「Blue Moment」を聴いた時に、由薫さんがひとつの答えを出した感じというか、障壁を超えて新しい出口を見つけたと思ったんですよ。

由薫:はい! 私のなかでもそうだったので、「伝わっているんだな」と思えて嬉しいです。こうやって進んでいくんだ、という決意の気持ちを込めていて。

――そんな曲をこのタイミングで書いたのはどうして?

由薫:ありがたいことに、「星月夜」(テレビ朝日系ドラマ『星降る夜に』主題歌)ですごく忙しくさせていただいて。同時に、かなり悩んだ期間でもあったんです。言ってしまえば、「自分は何を大切に生きているんだろう?」と思い詰めていました。それまで私は音楽の友達が少なかったんですけど、積極的にミュージシャンの友達を作ってお喋りしたことで気づけたこともあって。あとは、ずっとそばにいてくれる友達とも深い話をしたことで、自分のなかで区切りをつけられて。いろいろ悩んだりとかわからなくなったりしたけど、人と話すことで忘れていたこと、大切なことを思い出せたんです。紐をぎゅっと縛って進んで行くタイミングが今かな、と思って「Blue Moment」を書きました。10月から開催するクアトロツアー『2nd TOUR “Blue”』に捧げた曲でもありますし、今の自分から素直に出てきた言葉をそのまま綴ってレコーディングしたから、その時期の私がそのまま投影されています。赤裸々で真っ直ぐな歌詞ですけど、そういう曲がひとつあってもいいかなって。

由薫 – 星月夜(Official Music Video)

――自分自身と向き合い、楽曲制作を通して新しい道標を見つけた由薫さんは、10月スタートの連続ドラマ『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の主題歌を歌うことになったわけですけど、オファーを受けた時のお気持ちは?

由薫:すごく嬉しかったです。しかも、今回は以前作ったデモが主題歌に決まった、と言っていただいたのでびっくりしましたし、こんなことってなかなかないことだなと思って、より嬉しかったです。

――楽曲自体は、いつ頃からあったんですか。

由薫:携帯のボイスメモを遡ったら、1年半ぐらい前に「Crystals」というタイトルのデモを録音していて。なので、デモの時からタイトルだけは変わっていないんですよ。そこからドラマの内容に合わせて歌詞を書き直しました。

――『たとえあなたを忘れても』は、夢を失い生活苦に陥ってしまった女性と、解離性健忘症という記憶を失ってしまう障害を抱えながらも、キッチンカーを運営して懸命に生きる男性の物語です。ドラマの内容について、最初にどんな印象をお持ちになりました?

由薫:記憶喪失という壮大なテーマが根底にありつつも、ふたりの人間が惹かれ合っていろんなことが起きていく物語は、いい意味で“ありふれた”というか、多くの人が共感できると思いましたし、透き通るような純粋さを脚本から感じたので、その印象を曲でも表せたらと思いました。

――歌詞を書くうえで、ドラマ制作側からのオーダーはありましたか?

由薫:お任せいただきました。なので、イチから歌詞に向き合う作業でしたね。

――あらためて、どのように楽曲を形にしていきましたか?

由薫:もともとのデモは、ピアノと声だけの未完成の状態で。(そのままでも)お気に入りではあったんですけど、見つめ直して音を増やしたり、シンプルな構成だったのでBメロを増やしてみたりして。そこから歌詞を書いていく作業に移ったんですけど、これが本当に大変で。先ほども言ったように、当時は悩んでいた時期だったので、歌詞を書き始めるにあたって「あれ? 歌詞ってどうやって書くんだっけ?」という状況に陥り、言葉を生むのが困難になりました。部屋にこもって、集中して歌詞を書いてみたり、試行錯誤していたんですけど、最終的にはレコーディングの直前にいきなり書き直したくなって、そこで決定しました。

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