大橋ちっぽけ、アルバム『character』全曲解説インタビュー 日本のポップミュージックの真ん中を突き進む理由と覚悟

04「寂しくなるよ」

――「SFA」のテイストを引き継ぎ、しんみり聴きつつもいい気分になれるのが、トオミヨウさんが編曲された「寂しくなるよ」で。こちらもシチュエーションとしては別れのシーンですね。

大橋:同棲を解消するようなシーンですね。長い期間、一緒にいたふたりが、突発的な別れではなく、話し合いの末に関係を終わらせる――という“冷静な別れ”で。あとからジワジワ効いてくる寂しさ、きっとこれからもっと「寂しくなるよ」という思いを込めています。

――多くの人が多かれ少なかれ経験している感覚だと思いますし、かなり共感を呼ぶ曲な気がします。

大橋:そうですよね。きっと何気ない瞬間にまた考えてしまうだろうな、という。サビの歌詞も、スマホ通知がくるたびに「あの子かな?」ってなったり、素敵な映画を知って一緒に観たいと思っても、もう相手はいなかったり。失った寂しさに気づく、そんな時間の歌です。

――曲調としてはストレートなバラードで、新鮮に感じました。

大橋:邦楽っぽいというか。歌い上げるようなバラードを一度書きたいという話から生まれた曲なんです。アレンジも初めてトオミヨウさんにお願いをして。初めてストリングスを生で録ったり、新しく開けたものがありました。これまでトオミさんが手がけた楽曲も、じんわりと感情に寄り添うような楽曲が多くて、僕の曲でもいい相乗効果が生まれることを期待してお願いしてみたら、想像を超える本当に素敵なアレンジをしてくださって。本当にお願いしてよかった!という感じです。

05「放し飼い」

――5曲目の「放し飼い」はタイトルが強く、言葉のチョイスが面白いですね。曲調も目まぐるしく変化するサイケっぽい要素もあって。

大橋:この曲は、どんどん冷めていく自分の感情を淡々と歌いたいなと思い、作りました。最初はずっと同じテンポでビートが続いていくんですけど、Dメロ以降はBPMも変わって、そこから感情がむき出しになって。ただ、もともとそういった展開を考えていたわけではなく、アタマから書いていくなかで、自然と途中で爆発してしまって(笑)。「最悪だ」と思いながら書いていったら、爆発的に終わりたくなっていったんですよね。甘々な感じではないところも含めて、恋愛においても大人の関係ってあるじゃないですか。たぶん、僕だったら受け入れられなくて終わるな、と。結局、そこにも自分の“器”が表れているような気がします。

――相手の人が上手(うわて)なシチュエーションですね。

大橋:遊ばれている状況で、それを楽しもうとしている自分もいるんだけれど、背伸びをしているから辛くなっていく。でも、素敵だった時間もチラつくし、繋がれていないのに、自分からうまく離れることもできない。そんな状況がグダグダ続いていることを「気にしていない」と思いたいけれど、最後はバカみたいになって爆発するというか。

――歌詞には謎めいた部分もありますし、いろいろと想像して聴くのが楽しそうです。あとメロディの起伏が多くて、歌う難易度も高そうです。

大橋:サビは特にそうですね。「気にしていない」という強がりを淡々と歌うところから、結局崩壊して、叫び声が入るくらい爆発する。そこで初めて、「本当はダメだとわかっていた」と気づけるというか。すごく酔っていて、曇天のような曲。“冷静なフリ”をしている感じが歌唱のポイントかもしれません。

06「ソリスト」

――「ソリスト」は、後半にかけて大きく盛り上がってくる楽曲です。アルバムの流れとしてもターニングポイント的な楽曲で、盛り上がりのポイントになっていますね。

大橋:この曲はドラマ(東海テレビ・フジテレビ系 土ドラ『最高のオバハン中島ハルコ』)のOPテーマなんですが、お話をいただいた際に“お祭り感”というテーマを伺って。ただ、日本のようなお祭りのイメージだと難しいなと思って、フェスやパレードのような海外っぽいお祭りのハッピー感が近いかなと。それで、ブラスだったりストリングスだったりを入れつつ、基本はギターで作ろうと思ったのですが、移籍して第2弾シングルというタイミングで、(サウンド面の方向性を)まだ悩んではいたんです。そのなかで、今の自分の状況を踏まえて、「誰が何と言おうと自分のやりたいことをやろう」「その決意を全部書いてしまおう」と思って。この曲は、いちばん前向きというか、未来に対して明るい感情を抱いている曲だというのは、強くありますね。

大橋ちっぽけ「ソリスト 」Music Video

――〈期待したい!〉という強めのフレーズもあります。

大橋:「行けるぞ!」というより、僕っぽいですよね(笑)。僕からすると、相当踏み出そうとしている感じがあります。

――冒頭に〈破れかぶれの感情〉とありますが、置かれた状況が大きく影響したと。

大橋:曲(「常緑」)がバズって、「次はこういうことをやりましょう」というお話をいろいろといただく過程で、やっぱり「そもそも何をやりたかったのか」という悩みが生まれたんです。音楽が嫌になって、普通に就職したくなったり、謎の方向に行ってしまった時期もあって。でも、生涯をそんな気持ちのまま生きていくのだけは嫌だと思って、吹っ切れたんです。自分が自分のやりたいようにやっていった未来が、期待できるものであってほしい。そう強く望んでいる思いが出たというか、いちばん決意を歌った曲です。

07「ダーリン」

――そして、7曲目の「ダーリン」で一気に爆発する感じですね。

大橋:いちばん好きなポップソングというジャンルに立ち返った時に、出来上がった曲です。この曲が先行してリリースされた時、「サビはポップでかわいくて、Aメロ、Bメロでウジウジ言っているのが大橋ちっぽけっぽい」という感想をくれた方がいて、「たしかにそうだ!」って腑に落ちたんです。明るい曲というのは、ずっと明るくなくてもいい。恋愛もそうですけど、何事も明るい面だけじゃないですよね。どれだけ楽しいことでも辛い側面はあるし、それを包み隠さなくてもいい、という気持ちで書いた歌詞でした。

 音楽的にはフューチャーベースっぽいノリがやってみたくて、今まで以上にかわいいサウンドになったのかなと。個人的にも気に入っている曲です。

大橋ちっぽけ「ダーリン」Music Video

――サビになると幸福感があって、Aメロからの流れを考えると初期から持っている魅力を残しつつ、今じゃなければ書けない曲でもあるのかなと思いました。

大橋:「こういうことを言っていいんだっけ……?」ということをあまり恐れなくなったというか。ダサい部分も含めて出していかないと、自分が歌う意味がない。先ほど言ったように、楽曲提供を重ねていくなかで感じたことでもあるんですが、“魂を込めて書いた曲を自分で歌う”ということがすごく意味のある行いだと思えるようになって、歌うことに対する恐怖がなくなったのも大きい気がします。

08「You Need Me, I Need You」

――「You Need Me, I Need You」は、まずタイトルがストレートで。

大橋:だいぶキラキラしている感じですね。これはもともと自分向けに書いた曲ではなくて、他のアーティストに提供するために2曲作ったうちのひとつなんです。でも、また事務所の社長がすごく気に入って、「大橋くんが自分で歌ってほしい」と言ってくださって。自分ではなく、もっとかっこいい人が歌うイメージで書いた曲なので、だからこそ、このアルバムのなかでもアクセントになっていると思います。

大橋ちっぽけ「You Need Me, I Need You」Studio Live Music Video

――結果として、アルバム全体にとてもいい効果をもたらしていると思います。バンド感があって、ライブで盛り上がりそうですね。

大橋:実際、過去に2回くらいライブでやったことがあるんですけど、「あの曲はよかった!」「リリースはまだ?」なんて声もいただけて。ライブで印象に残る曲なんだなと思います。

――こういうかっこいい曲が書けるというのも、大橋ちっぽけというソングライターの強みかもしれない。

大橋:他の楽曲と生まれてきた工程が違うぶん、また違った強みとして、アルバムのなかでも特に聴いてほしい一曲ではありますね。ただ、イケメンが歌うことを前提に作ったので、「これを自分がやるんだ……」と思った時は震えました(笑)。でも、そこは振り切って、最大限かっこつけて歌いました。

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