文化庁主催の新プロジェクト「MICUSRAT」が目指すもの サマソニアート展示でも異彩、芸術文化発展への新たな文脈を作れるか

 文化庁が主催する新たなプロジェクト「MICUSRAT -Loves music and art-」が開催された。8月18日には大阪で国際シンポジウムとZ世代アーティスト・鈴木一世の展示、8月18日から20日までは幕張でグラフィックアーティスト・YOSHIROTTENのインスタレーションの展示が行われた。

 本企画は音楽とアートの融合で「新たな価値」を創造する作品をアーティストと生み出し、日本が世界の芸術文化発展の拠点となることを目指す。「MICUSRAT (読み:マイクスラット)」というタイトルは、Mic(マイク)、Us(私たちに)、Reach(届けてくれる)、Artistic(芸術的に)、Transformation(変容を)の合成かつ「Music」と「Art」のアナグラムとなっている。

 まず大阪市中央公会堂で行われた国際シンポジウム『MICUSRAT- Loves music and art - presents SYMPOSIUM』には都倉俊一文化庁長官のほか、国際的に活躍する山下有佳子、鈴木一世、田中杏子、中里唯馬、塩井るり、宇川直宏、渋谷慶一郎、石上純也、シモン・デ・ピューリー(モナコ)、ベリー・キム(韓国)、キャメロン・バイとケン・ウォン(中国)が登壇し、モデレーターとして星野太、トランフォームサポーターとして佐藤ビンゴが参加。文化芸術の「新たな価値」、日本から世界への発信、あるいは世界的潮流と日本とのつながりなどについてが6回のセッションに渡って議論された。

 また本プロジェクトは大型音楽フェスティバル『SUMMER SONIC』とコラボレーションし、大阪会場には鈴木一世の代表作『FUSION(融合)』シリーズ、東京会場及び幕張一帯の6カ所にはYOSHIROTTENの代表作であるインスタレーション『SUN』を展示。空間のなかに配置された作品たちは時に自然で、時に違和感を感じさせ、見る者それぞれの心に“何か”を投げかけていた。

 クリエイティブディレクターとしてプロジェクトに関わったMUTEK Japan理事・竹川潤一氏によれば、本プロジェクトでは「世界の芸術文化発展への新たな文脈となる日本の芸術作品を創る」という本質を見い出し、「たくさんのアーティストや作品を並べる発想では無く、音楽でいうなら1曲を地球全体で鳴らすイメージで、空間差と時間差で設計しよう」と考え、「地球を想う作品」「複数箇所表現可能な作品」「生活者とともに鑑賞できる作品」という視点で、文化庁(同長官・都倉俊一氏)や行政、クリエイティブマン(同代表・清水直樹氏)と対話を重ねながら、YOSHIROTTEN氏、鈴木一世氏とともに、MICUSRATという地球上どこでも表現できる文脈を創造していったという。

 さらに竹川氏は「『MICUSRAT(マイクスラット)』という言葉が50年後や100年後に辞書にのり、音楽とアートを愛する、という意味になったらいいですね」と重ねた。

 またシンポジウムに参加した渋谷慶一郎氏は「多様なメンバーでしたが、忖度なく話せたのはよかったです。アートや音楽の異ジャンルの人が出会う場所は日本だと少ないので、それを文化庁が応援していけばいいと思います」と率直に語る。

 確かにアーティストが行政を交えて行う建設的な議論の促進は、我が国の文化振興にとって大切なことだ。しかし、一方で渋谷氏は「それはアーティスト側も試されるということ。気を遣って話すのは現状に何のメリットにもなりません。問題提起はして、建設的な議論をしなければいけない」とも強調。

 さらに公演で訪れたフランスにおけるロジカルかつ文化的な意見交換を振り返りつつ、「『〇〇はよくないと思う!』もしくは『よいと思う!』のような言いっぱなしの論理性の弱い意見は有効じゃない」とばっさり。「論理とユーモアを合わせたコミュニケーションこそが議論を生み出すためには必要」と話した。自身が「MICUSRAT」に関わる可能性については、「見たことがないようなコラボレーションができたらいいなと思ってます」と前向きだった。

 長期スパンで続いていくと思われる、この「MICUSRAT -Loves music and art-」。まだまだ始まったばかりで誰もが手探り状態であることは否めないが、文化庁がこのような取り組みをスタートさせたのは興味深い限りである。安易なクールジャパンではなく、ジャンルを超えたアーティストたちが公に議論を尽くしながら道筋を示す、意義あるプロジェクトになっていくことを期待し、この先の展開も注視していきたい。

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