DCPRG『構造と力』リリース20周年 菊地成孔が語る、オルタナティブなグルーヴの現在

DC/PRG『構造と力』20周年インタビュー

次にやりたいのは「5拍子のEDMでも観客たちは盛り上がる」という検証

――この20年におけるクロスリズム感覚の浸透や、生み出されている音楽についてはどう考えていますか。

菊地:Tipographica時代はダンスミュージックに使えないと思っていた、2小節に還元できない展開し続ける音楽がジャズでは主流になりつつあります。特にメタルバンド・Animals As Leadersは象徴的ですね。メンバー構成がドラムひとりと8弦ギターがふたりの3人で、もはやギターとベースが別の役割をするという概念もない。

 楽曲もかなり複雑な構造ですが、それでもファンがついてくる時代になりました。今の若いアーティストを聴くと、フロアを踊り狂わせるとまではいかなくても、DC/PRGよりもはるかに複雑かつ良質な音楽を作っているなと感じます。

――『構造と力』からインスピレーションを得たミュージシャンも多かったのでは?

菊地:確かに『構造と力』はクロスリズムの先駆的作品だとは思いますが、20年が経った今の感覚だとあれくらいは当たり前ですし、「俺がオリジネイターだから敬意を示せ」と言うつもりは全然ないですね。

 それにバッハが平均律の名曲を作ったからといって、全員が無理にリスペクトする必要もないじゃないですか(笑)。人類の共有財産として誰かが新しいアイデアを持ち込んでカルチャーが発達すれば、それでいいと思っています。

――ではリズム的な面で今、音楽家として見据えているものは何でしょう。

菊地:先ほど複雑な音楽やリズムが生み出されるようになったと話しましたが、その一方で「シンプルなリズムに飽きて踊れなくなる」ということは起きないんですよ。要するに、いつの時代もイビサ島のレイブはずっと4つ打ちなのは変わりません。

 新音楽制作工房の子たちにDAWから発想した新しいアイデアをもらいながら、僕が最近考えてるのは音色や雰囲気さえマッチしていればイビサの人たちも5拍子とか6拍子で踊れるんじゃないかってことなんですよ。

 “ドンドンドンドン/ドンドンドンドン”という楽しいEDMが途中で“ドンドンドンドンドン/ドンドンドンドンドン”に変わっても、パリピたちは気づかずにダンスし続けるかもしれない(笑)。

――それは面白いですね(笑)。

菊地:研究家としてジャズのヒットソングについての資料を漁っていると、シングルチャートで5拍子のデイブ・ブルーベック「Take Five」を超える曲ってないんですね。それが日本のジャズ喫茶でも“スタンタタン・タンタン”と気持ちよく聴かれていたんじゃないかなと。だからぐっと拡大したらイビサでもいけるはず。

 DC/PRGを辞めた今、次にやりたいのは「5拍子や6拍子、7拍子のEDMでも、泡を浴びる観客たちは盛り上がるんじゃない?」ということなんですよ。「成り立つに決まってる」という確信すらあります。試しに新音楽制作工房のメンバーに「5拍子のEDMを作ってみて」と言ったら、普通に踊れるものが上がってくるので。20年前のコンセプトに比べると情報量が少なすぎますが、「イビサのレイブで5拍子のEDMを踊る」という意義は大きいですよね。

――「奇数拍子やポリリズムなどの音楽をフロア対応でやる」ということを前提にDC/PRGをスタートさせた時と重なりますね。

菊地:似ています。当時も「クロスリズムやマルチBPMで踊れるわけないじゃん」と言われましたが、僕には確証があって「5年もすれば普通になる」と思っていたし、お客さんも結果的に踊ってくれた。つくづく自分はフロアとともに生きてきたと感じますよ。

 とはいえ僕がイビサに行くことは現状ないでしょう。でも誰かが後を継いでくれるかもしれませんし、何らかの形で石を置いておきたいとは考えています。結果的に「EDMは5拍子でも踊れる」となれば満足ですし、それが今一番ヤバいなと思うので。

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