瑛人、ライフスタイルの変化が音楽活動に与えた影響 結婚や育児……日常の風景からEP『らんちゅう』ができるまで
瑛人が約1年5カ月ぶりの新作EP『らんちゅう』をリリースした。彼の祖父が飼っていた金魚の名前を冠したという同作には、ライブでのみ披露していた楽曲も含む新曲6曲が収録されている。
「香水」ブレイクからメジャーデビュー、2022年に2ndアルバム『1 OR 8』をリリースし、全国ツアーを開催するなど、ミュージシャンとして精力的な活動を送る一方で、私生活でも同年に結婚を経て父親となり、慌ただしい日々を過ごしてきた瑛人。そんな環境の変化は自身の楽曲制作にも影響を与えているようで、『らんちゅう』の収録曲には彼の視点から切り取られた日常の風景が収められている。本インタビューでは、音楽活動と生活のエピソードを軸に瑛人の現在について話を聞いた。(編集部)
「君のタイ語は点数もつけれない」と言われたタイでの初ライブ
ーーまずは、2022年3月にリリースされた2ndアルバム『1 OR 8』以降のお話を伺えればと思います。同年4月からは2度目の全国ワンマンツアー『ALL IN』が開催されましたが、ご自身にとってはどんな意味を持つツアーになりましたか?
瑛人:もちろんすごく楽しかったんですけど、同時にすごく勉強になったツアーでもありました。振り返れば、1stアルバム『すっからかん』を持ってまわる最初のツアーはとにかく意味がわからなかったというか(笑)。僕はそもそもバンドをやってきたわけではなかったし、ライブと言えば友達と酒を飲みながら歌うっていうスタイルでしかやったことがなかったんです。それが最初のツアーではライブハウスを舞台に、すごく上手なミュージシャンの方々と一緒にまわることになったので、もう何が何やらわからないくらい難しいことばかりで。
ーーなるほど。
瑛人:でも、2度目のツアーとなった『ALL IN』を開催するにあたっては、セットリストのことも自分なりにじっくり考えるようになったし、お客さんに喜んでもらえるであろうパフォーマンスに関してもいろいろアイデアが出るようになった。そういった状況でツアーをまわれたことが、自分としてはすごく勉強になったんです。すべてが満足の行くライブになったかというとまだまだな部分はたくさんあったと思うけど、ライブにおいてはもっとできることがありそうだぞっていう思いになれたんですよね。
ーーその経験を踏まえて、現状見えている瑛人さんならではのライブスタイルってどんなものだと思いますか?
瑛人:みんながラフな気持ちになれるようなライブを心がけているところはありますね。一切かしこまることなく、ラフに楽しみ、その気持ちのまま帰っていただける。それが僕らしいライブの形なんじゃないかなって。僕自身も、「よっしゃ、やるぞ!」ってビシッとやれる感じじゃないですしね(笑)。
ーーそういうスタンスだからこそ、瑛人さんのライブにはオーディエンスとの距離感の近さが生まれているような気がします。
瑛人:あぁ確かに距離感は近いかもしれませんね。そこはずっと大事にしたいというか。スパイダーマン的な、“親愛なる隣人”的なシンガーソングライターを目指しておりますので(笑)。
ーー『ALL IN』ツアーの最終日、東京公演では大きな発表もされましたね。
瑛人:あぁ、そうでしたね。「8月に父親になります!」っていう発表をさせてもらって。ファンの方にまず直接伝えたかったんですよ。
ーーお子さんが生まれたことで、ご自身の中に変化は起きていますか?
瑛人:子供がこの8月で1歳になったんですけど、徐々に実感が湧いてきているところはありますね。お風呂に1人で入ることがなくなったり、夜中に起こされたり、ららぽーととかのショッピングセンターが妙に居心地よく感じるようになったりっていう変化があります。で、気がついたら子供のことを思った歌を作っていたりもして(笑)。さりげなく子供の名前を歌詞にポロッと入れてみたりとか。いろんな面で、子供がいる日常を楽しんでいる自分がいます。昔は自分のことを第一に考えるタイプだったけど、最近は父親としての責任みたいなものも強く感じるようにはなったかな。自分にとって大切な存在が一つ増えたわけですからね。
ーー昨年11月末にはタイでのライブも経験されましたよね。それに合わせて「香水」のタイ語バージョンも配信リリースされました。
瑛人:タイでのライブはちょっと別次元な感覚でしたね。外タレ気分を楽しませてもらったというか(笑)。でも、事前にタイ語バージョンの「香水」を作り、それを現地でも歌わせてもらったんですけど、それがもう惨敗だったというか。
ーーえ、そうなんですか?
瑛人:お客さんはみんなわーっと盛り上がってくれたんですよ。みなさんすごく優しいから。でも、ライブ後に現地の人に感想を聞いたら、「君のタイ語は点数もつけれない」って言われてしまって。3カ月くらいタイ語を特訓して臨んだんだけど、現地の人からしたらもう何語で歌っているのかわからないレベルだったらしくて。
ーー厳しいですね。
瑛人:カタカナで覚えたタイ語ではやっぱり通用しないんですよね。それが悔しかったから、今も2週間に一度、タイの方にレッスンを受けながら練習を続けてるんです。実は今年もタイでライブをさせていただけることになったので、今回は去年よりも上達したタイ語で歌えたらなと。それに合わせて、タイ語バージョンの「香水」ももう一度レコーディングするつもり。何年かかってもいいから完璧なタイ語が話せるようになるのが今の目標ですね。
ーータイでのライブを経験したことで、海外での活動への欲求が高まったりはしませんでしたか?
瑛人:もちろん他の土地でもライブできたら、そんな幸せなことはないですよね。具体的にどこでっていう夢があるわけではないけど、海沿いの場所とかで歌ってみたいなって気持ちはあります。いつか実現したらいいなって。