Mori Calliope、バーチャルにとどまらないアクティブな存在感 『JIGOKU 6』は音楽シーンを先導する斬新なコラボ作に

 Mori Calliopeがメジャー2nd EP『JIGOKU 6』をリリースした。

 ホロライブEnglishに所属するVTuberで“死神ラッパー”のMori Calliope。6曲入りの新作に感じたのは、その音楽としてのフィジカルな強度の高さだ。ケンモチヒデフミ、蔦谷好位置、TK from 凛として時雨など様々な作家陣を迎えた構成で、Mori Calliopeのラップスキルを存分に活かしつつ、ロックサウンドを中心に新たな側面からその魅力を引き出した楽曲が並んでいる。

 2022年にユニバーサル ミュージック内のEMI Recordsからメジャーデビューを果たしたMori Calliope。昨年12月にリリースしたメジャー1stアルバム『SINDERELLA』は「10個の大罪(10 Deadly Sins)」をコンセプトにした全10曲収録のアルバムだったが、『JIGOKU 6』は、そこで表現された“罪”を犯した後に辿る“地獄”をテーマにした作品。つまりストーリーとしては連続性があるのだが、新作の音楽的な方向性は、単に前作の延長線上とは言い切れないものになっている。そして、その変化の背景にはMori Calliopeやシーンを巡る様々な状況を見出すことができる。そのあたりのことを読み解いていきたい。

 まず大きなポイントは、今年に入ってからのMori CalliopeがホロライブやVTuberのシーンにとどまらない幅広い領域とコラボを繰り広げてきたということ。『JIGOKU 6』はその結晶とも言える作品だ。

 これまでもJP THE WAVYがプロデュースした「I'm Greedy」や、山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)がプロデュースした「Wanted, Wasted」など、ヒップホップやロックのシーンで活躍する様々なアーティストと交わることで表現領域を拡大してきたMori Calliope。新作ではさらに大きなフィールドでのコラボレーションも実現している。

 それが「未来島 ~Future Island~」。今年7月4日に発売された『ONE PIECE』106巻の公式テーマソングとして作られた一曲だ。コミックスの発売前日にはこの曲を初披露したスペシャルライブが新宿ユニカビジョンで放映され、その模様は『ONE PIECE』公式YouTubeチャンネルでも公開された。

【MV】未来島 ~Future Island~ / Mori Calliope(『ONE PIECE』106巻公式テーマソング)

 「未来島 ~Future Island~」はケンモチヒデフミが作曲を手掛け、作詞をケンモチヒデフミとMori Calliopeが共に手掛けた一曲。ジャージークラブの軽快なビートに乗せて展開しつつ後半ではトラップビートに乗せたフロウも聴かせる。いわゆるタイアップ曲だが、Mori Calliopeが『ONE PIECE』のファンでもあることもあり、『ONE PIECE』106巻の世界観やストーリーに寄り添って作られた一曲となっている。

『ONE PIECE』106巻発売記念 Mori Calliope LIVE レポートムービー

 「虚像のCarousel」はReolとのコラボレーションによる一曲。MVは実写とCGを織り交ぜた構成になっている。れをる名義の時代から歌い手のシーンで活躍してきたReolとMori Calliopeの共演は、単にバーチャルアーティストとリアルアーティストとの対峙というだけでなく、共にネットカルチャーを歩んできた同士という意味合いも大きいはず。作曲は辻村有記、アレンジとギターにはBABYMETALなどにも携わるMEGが参加し、激しい色合いのメタルサウンドを展開している。

【MV】虚像のCarousel / Mori Calliope × Reol

 メタルへの接近も『JIGOKU 6』のポイントと言っていいだろう。蔦谷好位置がプロデュースを手掛けた「Black Sheep」もハイパーポップ×メタルな方向性の一曲。畳み掛けるようなビートと重量感あるギターサウンドがキーになっている。

[MV] Black Sheep - Mori Calliope (prod. by Koichi Tsutaya)

 今年6月にリリースされ全米1位を獲得したリル・ウージー・ヴァート『Pink Tape』にBring Me The HorizonやBABYMETALとのコラボ曲が収録されていることが象徴するように、ラップとヘヴィミュージックの接近は2023年の音楽シーンのトレンドの一つとも言える。そのあたりのシーンの動きとも同時代性を感じさせる一曲だ。

 「six feet under」はTK(凛として時雨)がプロデュース。一聴してすぐに彼の曲と気づくタッピングギターのシグネチャーサウンドからドラマティックに展開する一曲だ。この曲もメタルの要素が色濃くある。ドラムにはCrossfaithのTatsuya Amanoが、ベースには吉田一郎不可触世界が参加し、鉄壁のメンツによる強固なバンドサウンドが聴きどころとなっている。

【MV】six feet under / Mori Calliope (produced by TK)

 「Youʼre Not Special」はTom-H@ckとRINZOが手掛けたハードなエレクトロナンバー、「Left For Dead Lullaby」はてにをはの作曲による和のテイストを感じさせるバラード。『JIGOKU 6』の収録曲6曲を通して聴くと、全般にラップだけでなくメロディアスな楽曲が多く、パワフルで芯の強いボーカリストとしてのMori Calliopeの歌声の魅力を前面に押し出す楽曲の印象が残る。共作の形も含めて、全ての曲でMori Calliope自身が作詞に携わっているのも見逃せない。

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