Foo Fighters、Guns N' Roses、レッチリ、C&K……怪我を乗り越えた伝説のライブ ピンチをチャンスに変えるアイデアと情熱
ライブを生モノだと表現するアーティストがいる。ライブを生き様だと表現するアーティストがいる。
ライブが流動性のある生モノである以上、アクシデントと背中合わせなわけだし、生き様である以上、ライブにはアーティスト自身の意志が強く映し出される。そして何より、アクシデントを乗り越えるような力強いステージパフォーマンスを目の当たりにすることでオーディエンスの心は動かされる。例えば、ライブの途中で音響トラブルが発生したとき、無音のなかボーカルがアカペラで歌い続け、心を打たれたオーディエンスがシンガロングでサポートする光景を思い浮かべてほしい。アクシデントによって浮き彫りになったアーティストの情熱や、アーティストとオーディエンスが共にそのアクシデントを乗り越えた感覚にこそ、ライブならではの特別な瞬間が訪れるのだ。
それは、アーティスト自身の身体に起きるアクシデント=怪我であっても同様だ。機材トラブルとは違い、身体というのはどうしても替えの効かないものだが、時に怪我を乗り越えながらライブを続行し、表現者としての生き様をオーディエンスに見せつけたアーティストたちがいる。今回はそんなライブにスポットライトを当てたい。
まずは、今年の『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、フジロック)でヘッドライナーを務めたFoo Fightersのフロントマン、デイヴ・グロールも怪我を乗り越え、素晴らしいパフォーマンスを見せつけたひとりである。2015年にスウェーデン・ヨーテボリでのライブ中、足を骨折したデイヴ。同年の夏には、フジロックへの出演も決まっていた彼らだが、来日を危ぶむ声も聞かれるなか、驚くべき方法で見事にパワフルなステージを披露した。まるで玉座のような椅子に骨折した足を固定しながらパフォーマンスをしたのである。バンドのロゴがあしらわれた背もたれには照明装置が備えつけられ、椅子の土台部分には、千手観音のように幾重にも重なるギターネックの装飾が施されていた。この特注の椅子に鎮座して登場したデイヴの姿に、苗場のオーディエンスは度肝を抜かれた。本当に骨折しているのか? と疑ってしまうほどのアグレッシブなパフォーマンスは、椅子のど派手さにも負けない迫力。怪我を逆手にとった伝説のライブである。
そして、実はデイヴの骨折の翌年、あるステージで再びこの椅子が脚光を浴びることになる。それは、Guns N' Rosesのステージだ。2016年に再結成ツアーの目玉としてコーチェラ(『Coachella Valley Music And Arts Festival』)へのヘッドライナー出演が控えていたタイミングで、足を骨折したフロントマンのアクセル・ローズ。ツアー続行は絶望的かと思われたものの、デイヴからこの椅子を借り受けることで、無事ステージに上がることができ、見事にライブは大成功。デイヴを救ったこの“玉座”は、またしても伝説のライブの立役者となった。
また「フジロック」「骨折」という言葉を聞くと、ある伝説を思い浮かべる生粋のフジロッカーも多いのではないだろうか。当初2Daysで開催が予定されていたものの、台風の影響で初日のみの開催となった第1回目のフジロック。奇しくも、デイヴ・グロールといえばまだNirvanaのドラマーという印象が強かった、駆け出しのFoo Fightersも初日のラインナップに名を連ねていたわけだが、その日のヘッドライナーにはRed Hot Chili Peppersが招聘されていた。台風が近づき大荒れの天気のなか、満を持して登場したRed Hot Chili Peppers。しかし、どこか様子がおかしい。フロントマンのアンソニー・キーディスが腕にギプスをはめて登場したのだ。来日前にバイク事故に遭い、腕を負傷していたのである。それでも待ちに待ったオーディエンスの熱量に応えるように、暴風雨に負けないパフォーマンスを見せつけるも、あまりの悪天候のため約30分でライブは強制終了。さまざまなアクシデントが重なったこのライブは、まさにフジロック創成期の伝説として歴史に刻まれることとなった。