石崎ひゅーい、今まで出会ったリスナーへの感謝とまだ見ぬ未来への渇望 デビュー10周年を締めくくるビルボードライブレポ

 2022年7月から1年にわたり“メジャーデビュー10周年”を掲げて活動していた石崎ひゅーいが、アニバーサリーの締め括りとして、『石崎ひゅーい 2023 「キミがいるLIVE」 -Piano Quintet-』を開催した。山本健太(Pf)、吉田宇宙(Violin)、名倉主(Violin)、金子由衣(Viola)、村中俊之(Cello)を迎えた編成でのビルボードライブだ。本稿では、7月22日のビルボードライブ東京公演、1stステージをレポートする。

 ライブの始まりを告げたのは、バイオリンによる優雅なメロディ。これだけで十分特別感があったが、1曲目に披露されたのは、ライブの4日後にリリースされたアルバム『宇宙百景』からの新曲「邂逅」だった。スペシャルなライブをさらにスペシャルにさせるオープニングだ。「邂逅」は、石崎が敬愛する槇原敬之からの提供曲。〈こんな遠い場所にまで来たけれど/どんな道も自分で選んで来た/想像さえもしなかった場所だけど/ここは確かに僕の見たかった景色だ〉という歌詞は、アニバーサリーのラストを飾るライブで歌われるにふさわしく、人生の交差点と言えるライブの幕開けにぴったりだ。客席にいる一人ひとりの顔を見ながら歌っていた石崎が「ありがとう!」と伝えると、観客が拍手を返し、アットホームな空気が広がった。

 人とは密になれなかったが、音楽とは密になれた。自らそう振り返った(※1)コロナ禍を経て迎えたアニバーサリーで、石崎は、人とも音楽とも密になり、充実の日々を過ごした。弾き語りでの全国ツアー、バンドセットでのライブハウス公演、そして今回のビルボードと続いたライブシリーズ『キミがいるLIVE』以外にも、この1年間頻繁にライブを行っていたのは、全国のファンへ会いに行き、歌で直接感謝を伝えたいという想いから。さらに言うと、ライブMCやインタビューでよく言っているように、“聴き手の存在があって初めて石崎ひゅーいの音楽は成立する”という意識があるからだろう。同時に、優れたソングライターであるにもかかわらず『宇宙百景』ではあえて他者からの提供曲を歌うなど、音楽的なトライアルも欠かさない。大切なものを確かめた上で、新しい場所へ歩を進める。音楽家としての誠実な姿勢がこの日のライブからも感じ取れた。

 伸びやかな歌声とピアノ、ストリングスのアンサンブルが美しかった「邂逅」を終えると、「虹」「ラストシーン」のセルフカバーへ。この2曲も『宇宙百景』からの選曲で、軽やかなアレンジによる「虹」も、ピアノ&チェロとの三重奏で厳かな雰囲気の「ラストシーン」も、菅田将暉が歌うバージョンとはまた違ったテイストだ。新曲を音源よりも先にライブで聴ける贅沢も嬉しいが、照明の光を雪のように見せる涼しげな演出があった「スノーマン」では、慣れ親しんだ曲が生まれ変わる様を体感できた。原曲は浮遊感のあるエレクトロだったのに対し、今回は歌とピアノからしっとりと始まるアレンジ。寂しさを感じさせる音像からイメージできたのはモノクロの現在で、〈愛していた、君を愛していた〉と過去形で歌うサビでストリングスが合流し、世界が色づく展開がかえって切なかった。〈大嫌いだ〉というフレーズに文字通りではない感情を乗せる歌の表現力に、シンガー・石崎ひゅーいの凄みを見る。

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