『バンドリ!』発のCeVIO AI『夢ノ結唱』は感情豊かで楽曲制作時間も大幅に削減 r-906が「POPY」「ROSE」体験談を語る
『BanG Dream!』(以下、『バンドリ!』)と音声創作ソフト「CeVIO AI」のコラボレーションにより始まった次世代プロジェクト『夢ノ結唱』。Poppin'Party 戸山香澄(CV:愛美)とRoselia 湊友希那(CV:相羽あいな)の歌声を深層学習等のAI技術を使い、声質・癖・歌い方をリアルに再現した人工歌唱ソフト『夢ノ結唱 POPY』『夢ノ結唱 ROSE』が昨年12月にリリースされた。
そして、今年の7月には『POPY』と『ROSE』を使用した楽曲をコンパイルしたアルバム『Infructescence』『Blütenstand』の2作品が発売。リアルサウンドでは、両作に収録されている「怪電話」を制作したr-906にインタビュー。r-906はこれまでも可不などのCeVIO AIで楽曲を制作してきたが、同楽曲では『POPY』と『ROSE』の両方のソフトウェアを使用。「怪電話」の制作を通して体感した『夢ノ結唱』シリーズならではの魅力について話を聞いた(編集部)。
「ROSE」と「POPY」は非常に感情豊か
ーーr-906さんがCeVIO AIと出会ったのはいつ頃、どんなきっかけでしたか?
r-906:出会いは2021年だったかな。「可不」のプロモーションとして、CeVIO AIという言葉が世に出回り始めたのがきっかけです。ちょうどそのタイミングに、自分にもデモソングのご依頼が来て、そこから使い始めました。
ーー最新のソフトが世に出ると、積極的にチェックするほうですか?
r-906:あまりしないほうですね。自分は「この声好きだな」とか「このキャラクター好きだな」と思ってから入ることが多いので、新しいソフトウェアが出たから入るってことはあまりないです。
ーーでは、実際にCeVIO AIを触ってみた印象はいかがでした?
r-906:もちろんキャラクターによって特性は異なるんですけど、総じてすごい技術だなと思いました。というのも、CeVIO AIで制作した歌声を僕が普段使っている別の音声合成ソフトで作ろうと思うと、おそらく数倍近く時間がかかると思うので。そもそもの原理が大きく異なっているのもありますが、とにかく素晴らしい技術だなと思っています。
ーーr-906さんはそのCeVIO AIを使って、まず最初に「アイソトープ」という楽曲を制作しました。そのときは、「このソフトでこういうことができるんだ」という発見は何かありましたか?
r-906: CeVIO AIは声の揺らぎを自動で計算して、歌声に付与してくれるんですけど、他の音声合成ソフトを使っていても気づかないようなこと、例えば「ここの歌声って、こんなに声が揺れてもいいんだ」とか、「ここ、波形だと音程が外れているように見えるけど、実際に聴くと自然だな」とか、逆にソフトウェアに教えられることが多かったです。
ーー生歌だったら無意識のうちに聴き逃していたかもしれない細かな箇所にも、気づきがあったわけですね。
r-906:そのとおりです。僕は歌をうまく歌えない人間なので、自分より歌の上手なCeVIO AIには本当に教わることが多かったです。
ーーなるほど。そして、昨年末に「ROSE」と「POPY」という『バンドリ!』から派生した新たな音声合成ソフトが発表。こちらを使用してみて、「可不」などほかのCeVIO AIとの違いを感じたり、「ROSE」と「POPY」から得られた新たな刺激はありましたか?
r-906:「ROSE」と「POPY」は非常に感情豊かだなと感じました。少し次元が違うというか、歌が上手すぎるなと。僕の楽曲はこれまで無機質な歌い方であったり、そんなに感情を込めない歌い方が特徴だったと思うんですけど、「ROSE」と「POPY」を使うとそれが大きく変わるというか、ソフト自身の感情が抑えきれないという印象を受けましたね。
ーーそれは、「ROSE」や「POPY」の元になっている歌い手さんの個性や癖がより活かされているっていうことなんでしょうか?
r-906:僕は元になった方の歌声を実際に聴いたことがないので、そこに関してはちょっとわからないです。ただ、今後メッセージ性の強い音楽だったり、ボーカルの元気の良さを前面に押し出した楽曲ができた場合には、「ROSE」と「POPY」を候補に挙げたいなとは思いました。
ーーそれだけ感情を伝えやすい歌い方をするソフトということなんですね。例えばr-906さんの場合、そのソフトの声から刺激を受けて「こういう曲を作ってみたいな」と行動に移すのか、それとも「こういう曲ができたけど、このソフトが合っているじゃないか?」と選ぶのか、どちらのケースが多いですか?
r-906:完全に後者ですね。僕は声から音楽を作ることは一度もなかったので。基本的には生まれてきた楽曲やメッセージから、そこに合った声を選んでいます。
ーーでは、今回制作した「怪電話」という楽曲は、どういう流れを経て生まれたものなんですか?
r-906:「怪電話」を制作し始めるときに楽曲のリファレンスを伺ったところ、以前制作した「ノウナイディスコ」が上がってきたので、まずそこをとっかかりに取り組み始めました。「『ノウナイディスコ』っぽい曲ってなんだろう?」っていう、自分を見つめ直すところから始めて、その一歩として最後のサビをまず考えて。そこから、最後のサビに持っていくまでの展開をどうしようかな? というふうに、さかのぼって作っていきました。
ーーそういう制作の流れは、r-906さんの中では比較的ポピュラーなやり方なんです?
r-906:リファレンスをもとに曲を作ることが「怪電話」以前はなかったので、初めての経験ですね。
ーー最後のサビのキャッチーさもさることながら、全体を覆うクールな雰囲気、手の込んだアレンジなど、非常にエッジの効いた楽曲だなと思いました。この曲では「ROSE」や「POPY」の両方が使用されていますが、使い方に関して何か考えたことはありましたか?
r-906:音楽を作っている段階では「ここでこの声をこう活かそう」みたいな考え方は、一切していません。ただ、もともとは「ROSE」だけを使うつもりでいたんですが、メロディが出来上がった段階でカウンターコーラスのようなサブボーカルを入れたいなと考えて、「POPY」という子がいるならぜひ参加してほしいなと思って歌い分けを決めました。それに、サブボーカルも「ROSE」にすると、なんだか感情の付け方的にもあまりよろしくないように感じられて。別のCeVIO AIにもサブボーカルを歌ってもらってみたものの、やっぱり別の子のほうがいいなとなり、じゃあ「POPY」も使ってみようと。それが歌い分けを決めた動機ですね。