小説家 三浦しをん、BUCK-TICKから受けた多大な影響 ツアーに通い詰めて感じた“バンドの真髄”や“愛すべき隙”

思わずツッコミを入れたBUCK-TICKのライブ演出

ーー他に、どんなところに“抜け感”があると思いますか?

三浦: Marilyn Manson主催の野外フェス『BEAUTIFUL MONSTERS TOUR 1999』(1999年8月@富士急ハイランド・コニファーフォレスト)の時だったと思うんですが……、櫻井(敦司)さんが「富士山、キレイ」って、ボソッとおっしゃったんです。あの片言っぽい味わいをうまく再現できないんですけど(笑)、MCがそれだけだったことに爆笑しちゃったことがありましたね。夕空に富士山が見えて本当に綺麗だったので、心打たれてありのままにおっしゃったんだと思うんですけど。

ーー懐かしいですね。私も行ってましたけど、たしかにそんなMCをされていたように思います。

三浦:あと、幕張メッセでの『ロクス・ソルスの獣たち』(2019年5月)。アンコールで客席の真ん中にアコースティックセットのステージがあって、客席の間を歩いて5人が登場したんです。私は一人で行っていて、ちょうど通路の近くの席にいたので、「人生で初めて、こんなに間近にBUCK-TICKの皆さんが!」と興奮して、「キャーッ」と思ったんですけど、BUCK-TICKの皆さんはこの世の終わりみたいな顔で、なんかちょっとぎくしゃく歩いていて(笑)。ユータ(樋󠄀口豊)さんだけがいつも通りにニコニコと手を振ってくださってたんですけど、他の皆さんの表情を見たら、こっちもどう反応していいかわからなくて、黄色い悲鳴も引っこんだというか(笑)。そしたら隣にいた、一人で来ていた私より年上の女性が、「なんでこんな無謀な演出に挑んじゃったんだろう」と独り言をおっしゃっていて、私もつい、「ですよね〜」って返してしまいました。その方、話を聞いたら超初期からのファンなんですって。そういう方ですら思わずツッコミを入れたくなる、ぎこちなく無愛想な行進(笑)。でもそれも、「客席の間を歩く時も、基本お手振りなどしない。さすがBUCK-TICKだ」って、ファンの皆が多少戸惑いつつも受け入れてしまうような、愛すべき隙と言いますか。そういうところが好きですね。

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ーースターなのにスター然としていないところが魅力的ですよね。三浦さんはエッセイの中で、友人のYさんといろいろ妄想を膨らませていると書かれていますね。一緒に各地のツアーに行くほどの仲のようですが、どんなきっかけで親しくなられたんですか。

三浦:大学時代の友達の、高校時代の友達なんですよ。ややこしくてすみません(笑)。私がすごくBUCK-TICKが好きと知った友達が、「自分の高校の友達にもすごく好きな人がいる」と紹介してくれて、それで仲良くなったんです。BUCK-TICKが繋いでくれた友情ですね。一人でライブを観て噛み締めるのもいいんですけど、ファン同士で喋っていると、自分が気づけていなかったことを見ていたり、「これはこういうことじゃないか」という解釈を持っていたりとか、そういうのを話すのも楽しいんですよね。

ーー長らく作品を聴きライブをご覧になってきて、BUCK-TICKの変化をどのように感じていらっしゃいますか。

三浦:Yちゃんとも話していたことがあって、プロの方に対して失礼なんですけど、マジで演奏がどんどん上手くなってる! 元からものすごくハイレベルな演奏だったと思うんですけど、皆さんもう50歳を過ぎていますよね。なのに、ますます演奏のキレやグルーヴ、歌の表現力や声量が増している。どういうことなんだろうと思いますね。自分自身、もう20年以上も小説を書いていると、どうしても手癖で書いてしまいそうになったり、若い時の感性の燦きが鈍ってくるから、文章が緩むなというのをすごく思ってるんです。けど、そういう緩みがBUCK-TICKには全然ないどころか、どんどん研ぎ澄まされている。しかもそれが機械的な上手さみたいな方向性じゃなくて、すごく生々しく人間性が反映されていると言いますか。もう、バンドサウンドの理想じゃないかなと思っています。怠けてたら絶対あんなにすごい音にはならないだろうな、と言いつつ、家で今井(寿)さんがコツコツとギターの練習をしてるんだろうか……と想像すると、イメージと違う気がしますけど(笑)。

ーー星野(英彦)さんのギターとはまた違いますよね。

三浦:今井さんの前衛的、実験的な音色と、星野さんのギターが帯びる抒情性のコントラストとバランス、本当に痺れますよね。星野さんはいつもステージで、ギターを弾きながら歌詞を口ずさんでいるのが見て取れるんですよ。本当に音楽が好きで、BUCK-TICKが好きなんだなって感じられます。声は聴こえないですけど、いかなる時も歌いながらギターを弾いている星野さんを拝見するたびに、胸がキュンとします。

ーーアニイ(ヤガミ・トール)やユータさんには、どんな印象をお持ちですか。

三浦:アニイは、ドラムがとにかくすごいじゃないですか。無表情でひたすら叩いてる。でも、叩き終わった時の足腰のヘタリ具合……あれが本当なのか演技なのか、私はいつもどっちなんだろうと思っているんですけど(笑)、プロ中のプロとしての演奏でも、それ以外の面でも、ファンのことを思って楽しませてくださる印象です。アニイはきっと相当な鍛錬をしていらっしゃいますよね。ユータさんは、すごく色っぽいベースの音色なのに、ご本人はいつまでも可愛いじゃないですか。その落差に心がかき乱されて、「くそ〜っ」って思っちゃうんですけど、何なんでしょうこの感じ(笑)。

ーー(笑)。櫻井さんについては、いかがでしょうか?

三浦:もうもうもう! あんなに麗しい人がこの世にいるとは! 私、櫻井さんの声がすごく好きですね。聴いていると、胸がざわめきつつも不思議と落ち着くというか。音源でももちろん素晴らしいんですけど、ライブだと特に櫻井さんの歌の迫力を感じます。音源だけでは捉えきれないほどの響きなんですよ。変幻自在な表現力で音域も広いですよね。それで声量もあって……「本当にすごい!」の一言(笑)。BUCK-TICKはお客さんたちの熱気や、櫻井さんのステージ構築力とかも含めて、ライブがものすごく魅力的なので、ライブを楽しむことで、よりいっそう真髄が伝わってくるバンドなんじゃないかと思います。あと、櫻井さんは指がすごく綺麗。ボーカリストって指先まで神経を行き渡らせた表現力も大事じゃないかと思うんですよね。

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