宮崎駿監督作『君たちはどう生きるか』はどうなる? 『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』……ジブリ映画と音楽の関係性

 続いてはさまざまな面でスタジオジブリの転換点となった『もののけ姫』。音楽面においては、劇中曲でプロのオーケストラ楽団招集を導入した初の作品となる。従来作と比較すると、本作以降は劇中曲におけるシンセサイザーの使用率が減少。加えて、よりオーケストラ、アコースティック楽器を主とするサウンドへの変化が見て取れる。

 先述の『風の谷のナウシカ』と並べると、同じストリングスサウンドながらも、同作の重厚で土着的なサウンド構成が非常に対比的でわかりやすい。重低音を担う管弦楽器に、ジャポニズムな民族楽器を交えた打楽器の重々しさ。ハープや笛楽器による神秘性/幻想性が劇中曲の肝ともなっている。舞台となる日本の室町時代、あるいは制作ロケハン先とされた屋久島や白神山地などの原始の大自然のニュアンスが、サウンド全体にも色濃く落とされている。

金曜ロードショー「もののけ姫」7月21日放送

 当然『もののけ姫』にもイメージアルバムがあり、なかでも「アシタカせっ記」「もののけ姫」内のフレーズは他のシーンの楽曲でも多く使われている。重ねてユニークなのは、劇中曲のリアレンジが明確に行われている点だ。ナンバリングされたサウンドトラック収録の劇中曲「タタリ神」「レクイエム」「呪われた力」などは、作中で一度用いた曲を踏襲して、その後のシーンにも用いることで、アシタカの所在が変われど地続きとなる物語内のファクターを暗に示唆しているのだろう。

 最後に、先述した2作とはやや毛色の違う作品からもその音楽性に触れてみよう。スポットを当てるのは宮崎吾郎の映画監督作品の2作目である『コクリコ坂から』だ。本作をはじめとする宮崎駿&久石譲のタッグ外作品でも、スタジオジブリ作品におけるイメージアルバムの制作形式は受け継がれている。しかし、その時点での楽曲素材の多さは、本作の音楽面の特徴のひとつだろう。上記2作におけるイメージアルバム収録曲は10曲程度であったのに対し、本作はなんと29曲。サウンドトラック(ピアノスケッチ集)収録曲が29曲であることを考えると、同じ曲のモチーフはほぼ使っていないと考えていい。とはいえ、イメージアルバム楽曲をそのまま劇中に使っているわけではなく、素案段階のものをピアノアレンジ構成とする点は、キャリアの原点がキーボーディストである武部聡志が音楽監督を務めるがゆえの形かもしれない。

金曜ロードショー「コクリコ坂から」7月14日放送

 また本作は歴代ジブリ作のなかでもファンタジー色がかなり薄く、物語の舞台も現代日本に近しい、1963年の横浜である。それゆえに「上を向いて歩こう」を始めとする作品の設定時代当時の実在楽曲を挿入歌に起用したり、劇中曲全体のテイストとして当時のトレンドでもあったジャズ、ミュゼットを取り入れたりと、大きく時代性を反映している。長編アニメーションの次作となった『風立ちぬ』にも近しい要素のある音楽形式の新規性は、本作の評価点のひとつでもあるのかもしれない。

 こうしてスタジオジブリ作品を見てみると、イメージアルバムの手法を始め、様々な形で劇中曲が物語本編の魅力をより際立たせる形で制作されていることがわかる。そして、今やはり目下話題となっているのは7月14日公開予定の『君たちはどう生きるか』だ。引退宣言から一転、約10年を空けての宮崎駿監督長編復帰作となる今作。映画界そのものへの問題提起ともなる、一切の事前宣伝活動を行わない異例の方針発表でも注目を集めている。制作陣やキャストなどの事前情報も大部分が秘匿されているが、劇中曲に関しては10年ぶりの久石譲との再タッグとなることが明かされている。本編ストーリー、主題歌の担当アーティストも含め、劇場封切りの瞬間が今からとても楽しみだ。

久石譲、エンタテインメントとクラシックの未来を語る「人に聴いてもらうことは何より大事」

 日本を代表する映画音楽の作曲家であり、近年はクラシックの指揮者としても活躍する久石譲。これまで多岐にわたる作品を発表してき…

「さんぽ」「となりのトトロ」……30年の時を超えて愛され続けるジブリ名作“歌の力”

 1988年に『となりのトトロ』が公開されて今年で30周年を迎えた。小学生のさつきと妹のめいが母の病気療養のために田舎の…

関連記事