バンドはシーンを守ってきただけでなく耕してきた 歓声と共に幕張メッセに帰還した『SATANIC CARNIVAL 2023』が繋ぐもの

 『SATANIC CARNIVAL』は2014年に千葉・幕張メッセ 国際展示場9-11ホールでスタートした。当時、誰が予想しただろうか、ライブハウスでモッシュ・ダイブはおろか、シンガロングもできなくなる日が来るということが。しかしアーティストは音楽を止めなかった。そして『SATANIC CARNIVAL』もまた、カーニバルを止めなかった。東京オリンピック・パラリンピックに伴い会場の千葉・幕張メッセ国際展示場が使用できなかったため2020年は開催中止となってしまったが、2021年は山梨・富士急ハイランドコニファーフォレストに会場を移して野外で開催。翌年も同会場での開催となった。そして2023年、『SATANIC CARNIVAL』が再び幕張メッセに戻ってきた。モッシュ・ダイブ、歌声や歓声も一緒に。

 『SATANIC CARNIVAL』はパンク・ラウド・ハードコアを中心にしたイベントだ。でもだからといって、それらの音を鳴らしているバンドを集めただけのイベントでは決してない。開催を続けていくことは同時にそのシーンを守り、繋げていくことになる。

 例えば、04 Limited Sazabysが2014年にオープニングアクトとしてEVIL STAGE(サブステージ)に出演し、2017年にメインステージであるSATAN STAGEへ進み、今や『SATANIC CARNIVAL』常連になっていることはよく知られている。そして、今年の『SATANIC CARNIVAL』にオープニングアクトとして登場したのは、昨秋に開催の若手バンドを中心とした『SATANIC PARTY』でトリを務めたPrompts。『SATANIC CARNIVAL』、PIZZA OF DEATH RECORDSがシーンを牽引し続けている理由の一つは、間違いなく若手にも常に目を向けていることだろう。

Prompts

 DAY1のSATAN STAGEの一番手を務めたCrossfaithは、昨年からライブ活動を休止していた。しかし活動再開を発表する前から『SATANIC CARNIVAL』のオファーがきていたという。『SATANIC CARNIVAL』には“そのときに出られるバンド”ではなく、“今、出てほしいバンド”が明確にあるのだ。実際、Crossfaithは1曲目から「Monolith」を叩きつけると、ものすごい熱量と轟音で一気に会場に火をつけた。同じDAY1のEVIL STAGEに出演したTrack'sも、昨年より活動休止をしていたが、その期間中にオファーがあったと話していた。Track'sはコロナ禍にも積極的にライブを行っていたバンドの一つだ。音を止めない、ライブハウスで遊びたい。当時のその想いと行動力が実を結んだというべきか、EVIL STAGEには多くの観客が集まり、すべての音に素早くオーディエンスが反応する。Track'sはすでに次世代のパンクヒーローになっていた。

 また、コロナ禍に生まれた音楽もある。Age FactoryとラッパーのJUBEEによるプロジェクト・AFJBだ。ミクスチャーロックのカッコよさを改めて伝えたいと意気込んだ彼らは「DENGEKI」でラッパーのkZmをフィーチャリング。コロナ禍で新たに生まれたバンドが、「SATANIC CARNIVAL」に新たな風を吹き込んだ。さらにSPARK!!SOUND!!SHOW!!のステージではENTHの“ダト・ダト・カイキ・カイキ”をステージに呼び込みコラボ。「コラボ」なんて仰々しい言い方をしてしまったけれど、それこそライブハウスのようなノリで呼び込んで、さらっと、でも圧倒的な説得力を持って「あいどんのう」をパフォーマンスした。彼らが現場で作ってきたライブハウスを、そのまま幕張に持ってきたという感じ。そうか、シーンとは、誰かが作ってくれるものじゃなくて、それぞれがライブハウスで作り上げて、それを持ち寄ったときに“できている”ものなのだ。

 今年の「SATANIC CARNIVAL」を語るうえで触れずにはいられないのは、今年2月の恒岡章(Hi-STANDARD)との別れ。初日のトリでKen Yokoyamaとしてステージに登場した横山健(Vo/Gt)はHi-STANDARD「The Sound Of Secret Minds」をカバーする際、翌日Hi-STANDARDのライブがあるため、ここでカバーをするか悩んだと明かす。しかし、3月から行なっていたKen Yokoyamaのライブツアー『Feel The Vibes Tour』では同曲を恒岡への追悼の意を込めて演奏しており、この日もやはり演奏したいと思ったと話した。続けて「でもツネの追悼の気持ちでやるのは今日で最後にした」ときっぱり。「今のが言えてすっきりした!」とその表情には少し寂しさもにじませつつも晴れ晴れとしていた。実際、その後はファンとの下世話な会話を楽しんでケラケラ笑ったり、感謝の曲として「I Love」を演奏しつつも「ステージを降りたらみんなファッキューだけどね!」と軽口を叩いたりと、笑顔に。最後には「また会おうな!」と約束して「While I’m Still Around」と「Believer」でこの日のSATAN STAGEを締めくくった。

Ken Yokoyama

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