iri「会いたいわ」なぜロングヒットに? 『Mステ』前に知っておきたい、従来のJ-POPとは一線を画した歌詞&サウンド

 シンガーソングライター iriの代表曲のひとつ「会いたいわ」がリリースから6年を経た今、再び脚光を浴びている。

 2017年11月にリリースされた5曲入りEP『life ep』の1曲として収録された「会いたいわ」。YouTubeで公開された公式音源とMVを合わせると1,300万回再生を突破し、サブスクの再生回数も8,600万回を超えるなど、ロングヒットを記録している(5月5日現在)。リリース当時からファンの間では人気の高い楽曲であったが、TikTokに投稿されるカップル動画のBGMとして「会いたいわ」が多く引用され始めたことをきっかけに、時間差でのヒットに結びついた。そして、本日5月5日放送の『ミュージックステーション 2時間スペシャル』(テレビ朝日系)では、iriが「会いたいわ」を披露することが決まっており、ファンが大切にしてきたこの楽曲がTikTokでの拡散を経て、6年越しでお茶の間にまで届く。Mステ初登場の彼女がどんなパフォーマンスを見せてくれるのか注目だ。

iri 「会いたいわ」 Music Video

 日本のポップス史を振り返るとき「会いたい」というキーワードを避けては通れない。90年代には沢田知可子「会いたい」や松田聖子「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」がミリオンヒットを記録し、2005年にはEXILE「ただ…逢いたくて」、2009年にはMISIA「逢いたくていま」、2010年には西野カナ「会いたくて会いたくて」がその年を代表するヒット曲のひとつになっている。

 このようにいつの時代も恋愛ソングの定番として用いられる「会いたい」というモチーフ。俯瞰してみると、その流れを汲む近年のヒット曲がiri「会いたいわ」であると言えるかもしれない。しかしながら、これまでの会いたい気持ちにフォーカスしたヒット曲群とiri「会いたいわ」を並べてみたとき、会いたい気持ちに対するスタンスの違いに気づく。これまでのヒット曲群は、抑えきれない会いたい気持ちをストレートに表現していることが多かったことに比べ、iri「会いたいわ」には、どちらかというと少し複雑な心情と気だるい雰囲気が漂っている。楽曲タイトルだけを取り上げても「会いたい」という言葉に終助詞の「わ」をつけることで、直接的な願望ではなく、やや含みを持たせたニュアンスを演出しているし、歌詞に目を向けても〈複雑な感情が交差する深夜/何もかも分からなくなった〉〈こんな不思議な混ざり合った感情/痛いんだか 辛いんだか 苦しいんだか/訳のわからん入り混じった感情/捨ててしまえたらどんだけ楽か〉のようなラインでは、感情の翳りを感じ取ることができる。

 そして、ヒップホップやR&Bをバックグラウンドにした色気のあるスモーキーなトラックと小気味よく韻を踏んでいくフロウによって、酩酊感にも似たレイドバックした印象が漂う。会いたい気持ちをテーマにしたときに王道J−POPバラード的なアプローチでなく、ブラックミュージック的なアプローチを選択するあたり、地元のJAZZ BARでのライブ活動がキャリアのスタート地点にあるiriらしさとも言えるだろう。ローファイ・ヒップホップの流行や、YOASOBIや米津玄師をはじめ、なとりやyamaのヒットに代表されるように「チルな夜に聴きたいエモい楽曲」がヒットのトレンドのひとつとなっている昨今の音楽シーンで、メロウでレイドバックした雰囲気をフックに「会いたいわ」が広く受け入れられていることは、至って自然なことなのかもしれない。「会いたいわ」がリリースされた2017年の音楽トレンドを振り返ると「チル」や「エモさ」への志向はまだそれほど高くなく、TikTokをはじめとする動画プラットフォームやSNSを震源地としたヒット曲も今ほど多くはなかった。それを考えると「会いたいわ」のヒットは、やっと時代が追いついた2023年ならではのヒット曲とも捉えることができそうだ。

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