【浜田麻里 40周年インタビュー】第6弾:新作『Soar』に至るまでの並々ならぬ覚悟 常識を疑う眼差し、波瀾万丈なキャリアから生まれた“自分にしか作り出せない音楽”
「自信を持って続けてこれたのは、一番の理解者がファンの皆さんだったから」
ーーさらに前回のツアーから参加しているバンドメンバーの原澤秀樹さん(MAHATMA)が「Prism」「Dramatica」を、ISAOさん(soLi)が「The Fall」を手掛けています。両者ともコンポーザー/プレイヤーとしての個性がよくわかる楽曲を提供していますが、それぞれの楽曲に対してはどのような印象でしょう? なぜ彼らに依頼したのか、その経緯も気になります。
浜田:『Gracia』発表後のツアーで、アルバムを再現できる若手のプレイヤーをライブバンドに起用しようと、頭を切り替えました。それは今作を含めた、その後の私自身の活動を見越してのことでしたので、ライブだけでなく、いやそれ以上に、次作の制作でコラボする相手としての視線を持っていました。原澤くんはドラマーとしては珍しく、自ら作詞作曲をする人だと知ったんです。彼の作る楽曲と自分との相性はかなり良いだろうと直感的に思いました。その感覚を実際の制作につなげたのが「Prism」「Dramatica」の2曲です。プログレハードなアレンジに、とてもキャッチーなメロディ、それを強調する曲ができたと思います。ISAOくんは新時代の多弦ギターのプレイヤーとして、私の現在の世界観に合う人と思い、お願いしました。彼の得意なスペイシーなタッピングギターのフレーズをモチーフとする曲が届いたので、そのイメージを膨らませて、サビを私が新たに作りました。以前のライブリハーサル中に、彼がお得意のフレーズをBOHくんとともにアドリブで弾く場面があったので、それを聴いた私が「新曲のフレーズができたね」と言ったんですよね。たぶん彼はそれをしっかり覚えてくれていたんだと思います。宇宙空間に放たれるようなバースの浮遊感を大事に、サビのコード展開を構築していきました。
ーー「Tomorrow Never Dies」「Escape From Freedom」は、ゴールデンボンバーのサウンドプロデューサーでもあるtatsuoさんが初めて麻里さんに提供した楽曲です。これらがアルバムの印象を大きく決定づける冒頭の2曲になったのは結果的なものかもしれませんが、彼がかつて福岡を拠点に活動していたMissing Tearというハードロックバンドのギタリストだったことも個人的に知っていますので、tatsuoさんが麻里さんと組んだことに納得の行くところもあります。彼を起用した背景にはどのようなものがあり、またどのようなオファーをしたのでしょう?
浜田:新しいマネージャーが以前に仕事をした人の中から、「私に合うのではないか」と考えてオファーをしてくれたんです。届いた彼のプレゼンデモを聴かせていただいて、「この人いいな」と思ったところから始まっています。私は彼のバックボーンも、過去に作った曲も知りません。そういうことに興味がないというか、それによって曲の制作の何かが変わることもないので。デモを一聴すれば、その人の音楽的な感性や作品作りで大事にしている部分など、ほぼ全てのことがわかるんですよね。彼はとても才能のあるクリエイターです。いただいたデモは最初から完成度の高いものでしたが、それを自分の曲としてより高い段階に持ち上げるためのアイデア出しを重ねて、編集案などを何度も送り合いながら仕上げていきました。
ーー2019年の日本武道館公演の際に、「まだやり残したことがある」という発言がありました。本作『Soar』では、その「やり残したこと」のうち、具体的に何が実現されたと言えるでしょう?
浜田:それはもう少し時間が経ってみないとわからないですね。今すでに何かをできているとしたら、コラボした将来性のある仲間たちに何らかの刺激、経験則を与えられたことくらいではないでしょうか。そして、アルバムを聴いてくださったリスナーの方々それぞれの心の中で、新しい曲が育っていくことを期待しています。「やり残したことをやっていく」というのは具体性を伴うものでなく、結果として歴史が刻まれるかどうか、という側面が大きいんですよね。自発的に何かをするだけで、完結するものではないというか。
ーーなるほど。ご自身のキャリアにおいて『Soar』はどのような位置づけの作品なのでしょう? というのは、このアルバムが並々ならぬ覚悟で制作されているように感じるからです。それは全体を通して漂う雰囲気のみならず、例えば、麻里さんが一人で作詞作曲を手掛けている「Last Leaf」でアルバムが締め括られていることなどからも一層思いを掻き立てられるところがあります。
浜田:「Last Leaf」1曲だけに特別な思いを込めているわけではないですよ。他の曲、共作曲にも同じくらい、いやそれ以上に、自分の手間と労力をかけていますから。アルバムラストを締める曲にしたのは、他の曲も含めた流れとして一番伝わると考えたからです。一聴すると悲しいモチーフが歌詞の題材となっていますが、その悲哀すらも今は、自分の持ち味のひとつだと考えていますね。
曲順は、コード感、リズムやテンポ変化など、さまざまなことを加味して、それこそ1曲の中のアレンジ変化を考えるのと同じイメージで熟考してあります。サブスク時代にはその努力が空回りすることも多いでしょうけどね。“覚悟”について言うとしたら、それは“並々ならない”と思いますよ(笑)。アルバムの枚数を重ねれば重ねるほど、ある意味で覚悟がないと作れませんしね。私の場合は特に、作るために誰かがお膳立てをしてくれる制作方法ではないからです。限られた人生のうちの多くの時間を割いて、自分の頭の細部までフル回転させる体力と精神力が必要で、自分を拘束するわけですからね。たくさんのコラボ相手やミュージシャンなど、人との多くの心の接触も必要となりますから、その中では嬉しい出来事もあれば、もちろん傷つけ合ってしまう場面だって少なくないです。それでも進んでいく。そういうことを繰り返して1枚が完成するんですよ。
ーー今回のコンセプトは“死生観”であると伺いました。確かにそう聞くと頷ける物語が歌詞には綴られていると思います。ただ、有り体に言うならば、現実的にこれが最後のアルバムになるかもしれない、そういった自覚を持って制作に臨まれていたような気がしてならないのです。“暗さ”を感じた理由の一つもそこにありますが、いかがですか。
浜田:それは私にとって暗いことではないですよ。アーティストとしての歴史を終えようと思える瞬間が来るとしたら、それはきっと私にとって喜ばしいことですらあると思います。“最後のアルバムになるかもしれない”というのは、常日頃から考えて挑んでいるとも言えます。それくらい、作品というのは私にとって重みのあるものなんです。私の世代になると、ほぼ誰もが自分の残り時間についてリアルに考え始めます。ほんの少しでも若いと、そうではないのだと思いますけどね。以前もお話ししましたが、うちは両親ともに50代で大病に倒れ、リタイアしているんです。だから、もしかしたら自分も50代の終わりが、アーティストとしての締めくくりになるかもしれないと思っていた時期もあります。でも、今もまだ同じように活動していることを思うと、考えようによってはエクストラタイムに入っているんですよ(笑)。だから逆に、とても自由な気持ちになれているんだと思います。これから大きく世の中が変わると予想しているお話をしましたが、もしも本当にシンギュラリティが来るのなら、その瞬間はぜひ体験してみたいなと思います。隔世遺伝で、祖母みたいに100歳まで生きるかもしれませんから(笑)。
ーーそのときの麻里さんの歌もぜひ聴いてみたいですね。自分がそこまで生きながらえることができればの話ですが(笑)。さて、来る10月からのツアーは、前回と同じバンドメンバーになると思いますが、ライブそのものはどのような内容にしたいと構想しているのでしょう?
浜田:前回のツアーから4年が経ち、バンドメンバーもそれぞれの時間を経て大きく成長しているはずですから楽しみですね。そして観客の方々も、大変なことがたくさんあった時期を乗り越えてきましたよね。私が何か特別なことを考えなくても、そんな皆さんと時間を共にできるだけで、自ずと記憶に残るものになるはずです。今の時代は急激な変化に晒されていますから、その一つひとつが変動の中の象徴的な一瞬として刻まれることになると思います。
ーーデビュー40周年と言っても、誰もが到達できるものではないですよね。特に麻里さんの場合、これまでお話しいただいたように、紆余曲折などという表現では片づけられない歩みでもありました。今だからこそ見えてくるご自身の姿というのもあるのではないですか?
浜田:デビュー当時から今に至るまで、私はたぶん異端児であったと思うんですよ。だから周りの皆さんも、私をどうしていいのかわからなかったのだろうと。いつの時代も業界において味方は少なく、理解者も少なかったと思います。それでも活動を続けてきたのは、「歌はミッション(天命)であったから」とお答えしてきました。でも結局は、そのときどきで人生の選択をしてきたのは自分自身でした。“運命”とは自ら命を運ぶこと、“使命”とはその命の使い方を選択していくこと、今はそう言えます。そしてその選択を、どこか自信を持って続けてこれたのは、一番の理解者がファンの皆さんであったからなのだろうと思います。私の歌や創作した音楽が、リスナーの皆さんの心に直接届いているのなら、それ以上の強みはありません。このことには本当に感謝しているんです。
※1:https://realsound.jp/2023/04/post-1298448.html
■リリース情報
浜田麻里『Soar』
2023年4月19日(水)発売
・初回限定盤【CD+DVD、スリーブケース入り】
¥4,500(税込)
封入特典:“Soar” tourライブチケット先行予約シリアルナンバー封入
・通常盤【CD】
定価¥3,500(税込)
封入特典:"Soar"tourライブチケット先行予約シリアルナンバー封入
※初回プレス分のみ
<収録曲>
1.Tomorrow Never Dies
2.Escape From Freedom
3.Prism
4.Noblesse Oblige
5.Zero Gravity
6.Dramatica
7.Dancing With Heartache
8.The Fall
9.River
10.Diagram
11.Last Leaf
[DVD]
・Tomorrow Never Dies[Music Video]
・Tomorrow Never Dies[Behind The Scenes]
■ツアー情報
『The 40th Anniversary Tour “Soar”』
2023年10月4日 福岡・福岡国際会議場 メインホール OPEN 18:00/START 18:30
2023年10月9日 大阪・フェスティバルホール OPEN 17:00/START 18:00
2023年10月14日 東京・東京ガーデンシアター OPEN 17:00/START 18:00
2023年10月21日 名古屋・日本特殊陶業市民会館フォレストホール OPEN 17:00/START 18:00
2023年10月28日 札幌・カナモトホール OPEN 17:30/START 18:00
チケット料金 全席指定9,500円(税込)
※小学生以上はチケットが必要。未就学児は入場不可。
■配信情報
4月20日(木)20:00~
『ニューアルバム「Soar」発売記念YouTube Live』
※音楽ライターの増田勇一との対談形式
視聴ページ
https://www.youtube.com/live/_nsgJJJNFfI
■関連リンク
『Soar』特設サイト
https://www.mari-hamada.com/special/soar/
浜田麻里オフィシャルHP
https://www.mari-hamada.com
浜田麻里オフィシャルTwitter
https://twitter.com/marihd_official