The Street Sliders、心を揺さぶる孤高のブルース デビュー40周年に振り返る“日本のロック史に刻んだ偉大な足跡”
2023年5月3日、『The Street Sliders Hello!!』と題して、2000年10月29日のラストライブから22年半ぶりにThe Street Slidersが日本武道館のステージに立つ。HARRYこと村越弘明(Vo/Gt)、蘭丸こと土屋公平(Gt/Vo)、JAMESこと市川洋二(Ba/Vo)、ZUZUこと鈴木将雄(Dr)の4人が再び集う日が来るとは、デビュー当時から彼らを見ていた一人としては奇跡を見る思い。ライブタイトルの『Hello!!』は、ライブの冒頭で必ずHARRYが発していた言葉。最後に「Thank You!!」と言うまでMCをしないのが常だった彼らからオーディエンスへの熱い一言だ。
1980年に結成されたThe Street Slidersは、その瞬間から日本のロックに大きな足跡を残してきた。つまらないルールに縛られまいとする反骨精神や、安易に迎合せず自分を貫く孤高の姿勢。自由なファッションに身を包み、自分の思うところを音と歌で表現して、ロックという音楽の持つ魅力を余すところなく体現したバンドだ。オフィシャルサイトのトップを飾る、1984年にロンドンで撮影された4人の姿は、まさにそんなバンドであることを捉えている。
福生や吉祥寺のライブハウスに“リトル・ストーンズ”の異名を持つバンドが出演していると噂になり、1983年、The Street Slidersは1stアルバム『SLIDER JOINT』でEPICソニーからデビューした。4人だけで鳴らす骨太なロックは、The Rolling Stonesを経由したブルースやロックンロールの系譜をリアルに感じさせ、HARRYが書く曲にはそうしたオーセンティックな音楽への敬愛と、それを超えるオリジナリティがある。その軸は常に変わらず、解散後のソロ活動でも受け継がれてきた。
デビュー40周年記念盤として3月22日にリリースされた『On The Street Again -Tribute & Origin-』は、12組のアーティストがThe Street Slidersの曲を取り上げた「Tribute」盤と、オリジナル音源16曲をリマスターした「Origin」盤の2枚組。ここに収録された曲を聴くだけでも、スライダーズの楽曲が放つ骨太さや華やかさを知ることができるというものだ。
まずは「Origin」盤を聴いてみよう。例えば1stシングル曲となった「Blow The Night!」のダイナミックなバンドサウンド、サイケデリック風味の「カメレオン」、ホーンを加えレゲエに仕立てた「Baby, 途方に暮れてるのさ」の見事な躍動感、ブルージーなバラード「風が強い日」の説得力のあるHARRYのボーカルなど、多彩な楽曲の中にも芯の通った姿勢があることが窺える。
そんな強烈な個性を持つ楽曲をカバーした「Tribute」盤の12組も、一筋縄ではいかない面々。硬派ぶりでは引けを取らないThe Birthday、R&Rスピリットを軽やかに掘り下げ続けるザ・クロマニヨンズ。ダンサブルに聴かせるALIにドープなサウンドで意表をつくYONCE (Suchmos)、自由でヤンチャなGEZANとSUPER BEAVER。若手の本気は面白い。蘭丸と麗蘭を組んで30年を超える仲井戸麗市、やはり蘭丸とMIKA RANMARUを組んでいた中島美嘉が花を添え、かつてのレーベルメイト 渡辺美里とエレファントカシマシはEPICの色を感じさせる。斉藤和義は懐の深さを感じさせ、T字路sはがっつり歌を受け止めた。
主にHARRYが詞曲ともに書いているが、ストーンズをはじめとするロックやブルースのマナーを十分に咀嚼して、日本語のロックの新しい地平を切り拓く歌詞は彼ならではのもの。バンド結成当時に書いたという「のら犬にさえなれない」の哀愁と孤高は、その後の作品にも受け継がれている。「ありったけのコイン」のサビで歌う〈どのくらいの 願いごとが/空の下に ぶらさがってる〉では不思議な情景が目に浮かぶ。果たしてこれは生きる希望なのか、絶望なのか。解散前の作品『NO BIG DEAL』収録の「愛の痛手が一晩中」は〈八方塞がり〉と歌いながら、どこか達観したような曲調がブルースの根底にあるスピリットを感じさせる。安易に希望を歌ったり共感を求めたりしないHARRYの歌詞は、だからこそ一人ひとりが向いている方や進む道が違っても、同じように感じながら生きている人の心を揺さぶるのだ。