TikTokでのポエム投稿も人気 Spica、1st EPから紐解くサウンド・歌声・言葉のポテンシャル
3月22日、昨年から本格的にソロアーティストとして活動を始めたSpica(読み方:スピカ)の1st EP『Spica』がリリースされた。今作は、昨年末から年明けにかけてリリースされた計3曲の楽曲に、2つの新曲を加えてコンパイルしたもので、いまだ謎のベールに包まれている彼のポテンシャルを伝える作品となっている。今回は、今作の収録曲を紐解きながら、「Spicaとは何者であるのか?」について迫っていく。
はじめに、Spicaのプロフィールについて。特筆すべきは、彼がコンポーザー、アレンジャー、エンジニア、ドラマーといった多様な経験を有していることだ。まずドラマーとして、全国のドラムコンテストにて何度も賞を受賞するなど高い評価を得ており、2016年には、マオ(シド)、カリスマカンタローによるプロデュースのもと、ソニー・ミュージックレーベルズ、マーヴェリック、ニコニコ動画の3社がタッグを組み始動した「イケVプロジェクト」から誕生したバンド・VALSのドラマーを務めた。彼は同バンドですでに、幕張メッセ、さいたまスーパーアリーナ、日本武道館などの大舞台を経験しており、こうした経歴から彼のドラマーとしての経験値の高さが窺える。
また、歌い手として、YouTubeにAdo「うっせぇわ」や米津玄師「KICK BACK」などのカバー動画もアップしており、艶やかでパワフルなボーカルワークを堪能することができる。さらに彼は、自身のTikTokなどで定期的にオリジナルのポエムの投稿を行っている。その中でも、恋する者たちが胸の内に抱える焦燥や孤独感を的確に射抜いた言葉たちは、特に10代や20代から大きな共感を集め、これまでに数々のバズが生まれている。
このように、もはやマルチな才能という一言では語りきれない複数の面を持つSpicaであるが、彼が誇るそうした多様な才能はどのような形でオリジナル作品へと結実しているのだろうか。彼が全曲の作詞作曲やアレンジを担った1st EP『Spica』を聴くと、Spicaの音楽性を明確に感じ取ることができる。
まず、サウンド面について。ほとんどの楽曲に共通しているのが、ダークな世界観を追求した中毒性の高いサウンドデザインだ。彼はドラマーという出自を持ちながら、決して生のドラムのみにこだわることはせず、むしろ楽曲の軸として大胆に打ち込みのサウンドを導入している。生の音と打ち込みのサウンドの結合によってもたらされるリズムセクションの高揚感は果てしなく、その意味でSpicaの楽曲の多くはハイクオリティなダンスミュージックとして機能し得る。リズムセクションのみならず、各楽曲のキーを担うフレーズにおいても攻撃的でアバンギャルドなサウンドが採用されていて、一度耳にしたらそのまま深い闇に堕ちていきそうな危うい中毒性を放っている。特に、荘厳でゴシックな曲調の「punishment」は、まるでミュージカルのような仕上がりになっていて、そのダークな世界にグッと引き込まれる。また、ワブルベースやボーカルチョップなどEDM特有のサウンドを再解釈して楽曲に落とし込んだアレンジが各楽曲に見られ、アレンジャーとしての一面も持つ彼ならではの細部へのこだわりが随所に光っている(彼は、影響を受けたアーティストとして、Skrillex、ZEDDを挙げている)。特に、「pocket」のサビにおけるトラック全体の揺らぎは凄まじく、こうした攻めのサウンドを、あくまでも歌モノとして聴かせるアレンジのバランス感覚も見事だ。