Phoenix、アイデンティティと独創性をダイレクトに示す圧巻のステージ 5年ぶりの来日公演を観て
フレンチエレクトロの伝統とエッセンス(本質)、オルタナティブなギターロックバンドとしてのエナジーが有機的に結びついた音楽性。高度に洗練された照明と映像を駆使した演出。目の前のオーディエンスと直接つながり、この瞬間を最高の時間にしたいという強い意志。自らのアイデンティティと独創性をダイレクトに示す、圧巻のステージだった。
Phoenixが3月14日(大阪・ZEPP OSAKA BAYSIDE)、16日(東京・ZEPP HANEDA)に来日公演を行った。2000年代以降、フランスのポップシーンを牽引し続ける彼らの来日公演は、2018年以来、5年ぶり。昨年11月にリリースした最新アルバム『Alpha Zulu』の収録曲、オーディエンスが望んでいるヒット曲、代表曲を網羅したセットリスト、そしてポップでエネルギッシュなパフォーマンスによって超満員のオーディエンスを享楽の渦へと巻き込んだ。
オープニングアクトのGliiico(Nico、Kai、Kioの3人組バンド。カナダ出身で、現在は東京を拠点に活動)がキッチュで現代的なポップミュージックを奏でた後、Phoenixのショーがスタート。トーマス・マーズ(Vo)、デック・ダーシー(Ba/Key)、ローラン・ブランコウィッツ(Gt/Key)、クリスチャン・マザライ(Gt)が登場するとーー全員すらりとしていて、本当に絵になるーー大きな歓声と拍手が巻き起こる。
オープニングナンバーは「Lisztomania」(第52回グラミー賞「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム」受賞の4thアルバム『Wolfgang Amadeus Phoenix』収録曲)。観客は手を上げ、身体を揺らし、サビではシンガロングが発生。さらに煌びやかなシンセにリードされた「Entertainment」、ドラムとベースのイントロからはじまった「Lasso」を放ち、フロア全体を早くも熱狂的な多幸感へと導く。新たに参加したサポートドラマーの骨太なビートも気持ちいい。
ライブ前半は“This is Phoenix”なベスト盤のようなラインナップ。この後も「Too Young」「Girlfriend」「J-Boy」などのヒットチューンをシームレスにつなげ、観客の快楽度数をさらに引き上げていく。いずれも極上のポップネスを反映させた楽曲だが、ライブではロックバンドとしての強さが押し出され、音源とはまったく違う波動が伝わってくる。エレガントな雰囲気を損なわず、生演奏ならではのダイナミズムを交えながら、この場所、この瞬間にしか生まれないグルーヴへと導く。これこそがPhoenixの真骨頂だ。
「Alpha Zulu」からは最新アルバムの収録曲を交えたシークエンスへ。洗練と大胆なアイデアが一つになったライティングとVJもこのバンドのライブの魅力だが、今回もっとも印象的だったのは、「Love Like a Sunset Part Ⅰ&Ⅱ」の演出だった。20世紀を代表するデザイナー、イームズ夫妻(チャールズ・イームズ&レイ・イームズ)が1977年に製作した「Powers of Ten」の映像を使用し、壮大にして深遠なイメージを表現。ブランコ、クリスチャンのギターのアンサンブルを軸にした、エレクトロニカとバンドサウンドが融合するような演奏も素晴らしかった。
ここでトーマスが「数年、東京を離れてしまったけど、いつも戻ってきてくれてありがとう。僕たちも何度でも日本に戻ってくるよ。ありがとう」と挨拶。この親密さ、オーディエンスに対する誠実な姿勢も、彼らが日本で支持され続けている理由だろう。
Vampire Weekendのエズラ・クーニグが参加した「Tonight(feat. Ezra Koenig)」がライブアンセムとして機能しているのも印象的だったが、この日演奏されたアルバム『Alpha Zulu』の楽曲でもっとも心に残ったのは、「Winter Solstice」だった。彼らの古くからの友人であるトーマ・バンガルテル(ex.Daft Punk)が制作に加わったこの曲は、アルバムのなかでもっとも陰鬱な楽曲と言っていい。コロナ禍に端を発したディストピア的な世界観、そして、Phoenixのプロデューサー的な立場だったフィリップ・ゼダールの死。この数年間に起きた経験が反映された「Winter Solstice」がダークサイドを担うことで、Phoenix本来の色彩感がさらに際立っていたーーというのは考えすぎだろうか。
本編の最後は、1stアルバム『United』収録の「If I Ever Feel Better」。軽快でしなやかなネオソウル的グルーヴに乗せて、〈I feel the chaos around me(僕の周りは混沌としていて)/A thing I don't try to deny (拒むことはできない)/I'd better learn to accept that (受け入れたほうがいいらしい)〉という思いを描いたこの曲は、コロナ禍以降、聴こえ方が変わった曲の一つ。突如として現れた(オペラ座の怪人を想起させる)仮面の男の前でトーマスが膝をつき、首を垂れるシアトルカルな演出も印象的だった。
アンコールの1曲目は、“チェンバロと歌”のバロック的なアレンジによる「Fior Di Latte」。続く「After Midnight」(アルバム『Alpha Zulu』)は東京の首都高をシューティングした映像とともに披露された。そして「Trying to be Cool」ではステージの奥にレインボーカラーに彩られたバンドロゴが浮かび上がり、フロアの高揚感も最高潮。ラストの「1901」ではトーマスがフロアに飛び込み、クラウドサーフィング! 心地よい一体感と熱気のなかでライブはエンディングを迎えた。
ニューアルバム『Alpha Zulu』を交えながら、音楽の楽しさ、奥深さ、爆発力を存分に見せつけたPhoenix。こんなにも夢中でポップミュージックを浴びまくったのは、本当に久しぶりだった。
オフィシャルサイト
https://wearephoenix.com/