mekakusheの表現の中にある生活と終末感のバランス “あこがれ”に込めた思い

mekakushe、“あこがれ”に込めた思い

はじめて作った1曲目からずっと“あこがれ”をテーマにしてきた

ーー「壊れそうなときは」は静かな繊細な音で始まりますが、後半はストリングスも入った壮大な展開に変わっていきます。

mekakushe:「壊れそうなときは」はアルバムの最後の1ピースとして作った曲で、何か足りないなと思ってコウスケさんにお願いしました。元々はピアノをポロポロ弾いている感じで、後半もそこまで盛り上がるわけではなくて、マーチングドラムみたいな素朴なアレンジだったんですけど。さっきの“生活と終末感”というワードで言うと、私は“0と100”にすごく宗教を持っているというか、信仰しているから。前半のピアノの穏やかなところに対して、うるさすぎるストリングスであったり、派手なドラムを入れてもらって。それから、『フジロック』で手をあげたくなるようなギターを入れてくださいと伝えて、500テイクくらい録ってもらっています(笑)。PLASMA Pedalのシビれる音を入れてもらったりと、すごく細かくお願いしてできていきました。途中から壮大になるけど、最後はピアノだけになってアルバムが終わるイメージもありましたね。

ーー「0と100に宗教がある」というのは、確かに作品全体に言えることかもしれませんね。そして「あかい」の後半からは、少しだけハイパーポップっぽいサウンドを感じました。

Mekakushe:最近ハイパーポップっぽいと言われることがあります。リミックスでトラックメイカーの人に参加してもらったり、アレンジャーもバンドサウンドというよりかはDAWで緻密に制作しているような方たちに参加していただいているので、それが重なってハイパーポップの印象になるのかなとは思うんですけど……私としてはそんなつもりはないですね。私はJ-POPでいたいです。ただ、今までのJ-POPをそのままやっても出尽くしているし、歌詞も移ろっていくものだから。私が求めている歌謡曲的な美しいメロディに、新しい音楽が合わさることで今の自分にフィットする質感になっているのかなとは思います。

ーーJ-POPでいたいという言葉には、mekakusheさんのどんな理想が反映されていると思いますか?

mekakushe:ずっとクラシック畑でやってきたので、高校生くらいまでJ-POPをちゃんと聴いていなかったというのがまずあって。私にとってJ-POPって、小さい時に車の中でサザンオールスターズが流れているとか、aikoさんがテレビで歌っているのを観るだとか、そういう遠い存在だったんですよね。でも、自分がポップスを始めたいと思ったのには、ちょっとだけ反骨精神があったかもしれません。クラシックのような、楽譜通りに弾くことが大前提の音楽とは、相反する自由なものだと思ったんです。

ーーmekakusheさんにとって、J-POPは自由の象徴だったと。

mekakushe:そうですね。だからJ-POPに対して憧れを抱いたのは、クラシックをやっていたからこそなのかもしれないです。

ーークラシック畑で育ち、今ポップスをやっているという点で、どのくらいご自身の曲にはクラシックの影響が表れていると思いますか?

mekakushe:フランス音楽をずっと勉強してきた身からしたら、その音楽を研究したからこそ、自分の作品に似ているところがあるとは思わないんです。ただ、誰かが聴いた時に少し薫るものがあるのかなとは思います。たとえば今回アレンジをしてくださったコウスケさんや、他のアレンジャーさんに言われたことがあるのは、ポップスだったら絶対に使わないテンション感をピアノで多用しているということで。それをシンセサイザーに置き換えてもらったりすることもあるうので、聴いた人がそういうものを感じてくれることはあるのかな。

ーー参加している編曲の方たちもそうですが、今日お話しの中で名前が上がったアーティストを考えると、今作はmekakusheさんなりのインディロックの影響が出てきた作品でもあるのかなと思いました。

mekakushe:サザンオールスターズやaikoさんのような、小さい時に聴いたメジャーのJ-POPの人たちもいいなと思っているんですけど、私はインディーズのシーンに憧れて音楽を始めたんですよね。今回インディーズシーンで自分の音楽を追求しているような方達に編曲をお願いしたのも、インディーズサウンズへの憧れがあるからですね。自分の気持ち的にはやりたいことを目一杯詰め込んだ、集大成のアルバムにしようと思っていました。

ーー複数のアレンジャーとコラボした作品が完成して、何か新しい発見を得たところはありますか。

mekakushe:めちゃくちゃありますね。いろんな方に参加していただいたことで、自分自身の新しい可能性や発見がいくつもありました。(アレンジャーが変わっても)意外と自分らしさが消えなかったし、それは作家をずっとやってきた自信にも繋がりました。

ーー作家としての仕事というのは、『THE IDOLM@STER』シリーズやでんぱ組.incへの楽曲提供のことですね。

mekakushe:作家は毎回違う制作チームだったりするし、編曲家さんをクライアントさんが選ぶこともあります。その仕事を通して色々な可能性に気づけたんだと思います。自分が書いた曲を誰かに歌ってもらうことでも世界が広がるし、編曲で違う人に関わってもらうことで、自分が変化することができると気づいたことが大きいです。

ーーなるほど。

mekakushe:作家としての活動はまだ二年くらいしか経っていないんですけど、最初はアイドルのSAKA-SAMAさんに書かせていただいたことがきっかけとなり、それから着々と大きなコンテンツでも書かせていただけるようになったのは、わかりやすく自信になりました。その中で音楽やジャンルへの懐が広かったというのが自分でもびっくりなんですけど、今回のアルバムではさらにポップになった自負があります。私はすごくポップスが好きなんだなって『THE IDOLM@STER』の曲を作っていても思うし、やっぱりアニソンって一番自由でポップなものだと思うので、そこに作家として携わらせていただけるのは素敵なことなんじゃないかなって思います。

ーー今作には『あこがれ』というタイトルがついていますが、前作の『光みたいにすすみたい』も、言い換えれば「憧れ」ということだと思います。

mekakushe:本当にそう。曲を作り始めた18歳の時から数えてそろそろ10年になりますけど、はじめて作った1曲目からずっと“あこがれ”をテーマにしてきたなと思います。音楽には恋愛の曲とか、友情や卒業について歌われたものとか、いろんな定義ができるものがあると思うんですけど。私はどれを書いても何かに対する憧れになってしまっている。“君と一緒にいられて嬉しい”ってことを書くにしても、“君になりたい”になるし、“このままずっと幸せでいたい”ってことを書くにしても、“終わりがきてしまうからずっと続いてほしい”というように、ちょっと哲学的な書き方になってしまう。それにクラシックからJ-POPに舵を切ったのも、自分のままでは幸せになれないような気がしていたからなんですよね。まだ見ぬ自分への憧れだったり、そういう全ての感情を抱擁する言葉が“あこがれ”なんじゃないかと思います。

ーー今も変わりたいと思いますか?

mekakushe:今はあまり思わないですね。“変わりたい”ってすごく苦しい気持ちだと思うんですよ。“何かになりたい”だったら素敵なのに、“何かになりたいけど、なれないからいなくなってしまいたい”って、憧れが歪んでしまうと負の感情に繋がってしまう。私は曲を作り始めてから、下手したら前回のアルバムまでは、そういう気持ちで作っていたんだと思います。そういう明るくなれない自分がいたからこそ、『光みたいにすすみたい』と思ったわけですよ。

ーーなるほど。

mekakushe:でも、今回『あこがれ』という4文字を素直にアルバムタイトルにつけられたのは、純粋に何かに憧れる気持ちって本当は素敵なんじゃないかと気づけたし、私は私にしかなれないということにもそろそろ気づいたのかもしれないです。

ーー「COSMO」では〈ずっと言えなかったけど、本当はしあわせ〉と歌われていますよね。

mekakushe:そういうことってありますよね。不幸に慣れてしまうと、自分は不幸なんだって思う方が楽になっていくから。でも、私は陽あたりのよいことろに行きたいし、幸せのほうが素敵だよ?って言いたいです。

ーー2023年、どんな活動をしていきたいですか。

mekakushe:まずはアルバムを出せてよかった。『あこがれ』は去年の春から作っていたので、今はやっと出せたという気持ちでいっぱいです。音源制作が好きなのでそこに注力しつつ、少しずつフェスに出ることも決まっているので、ライブ活動も頑張りたい。あとは作家も引き続き頑張って、そちらの仕事やライブの現場で知ってくれた人がmekakusheの音楽に流れてきてくれるような、そういう土台作りをやっていきたいと思います。

※1 https://twitter.com/kosukedao/status/1392502598930886656

■リリース情報
『あこがれ』
発売日:2023年2月8日
価格:3,000円(税込)
https://ultravybe.lnk.to/akogare_

オフィシャルサイト
https://www.mekakusirecords.com/

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