the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第17回 異色作へ繋がったポンコツ合宿&A$AP Rockyらのクールな刺激
『謎のオープンワールド』全曲解説
1. (opening)
音楽ユニット・YMCKがオフィシャルウェブサイトで公開している「Magical 8bit Plug」というソフトをダウンロードしたことをきっかけに作ったイントロ。ファミコン世代の我々としては非常にノスタルジーを感じる音色でもあります。重なっている電車の音はたしか有楽町線の車内、iPhoneで録音したものだと思う。
2. 笑うDJ
前作の作り込みの反動+当時アメリカでリバイバルしていたパンクやエモの衝動性から影響を受けてできた曲。最初のイメージではもっとラフで汚い、ガレージパンクのようなものを目指していたのだけど、他の楽曲に対してあまりにも浮いてしまうのと、前作の反省点でもあったライブとの乖離を考えて現在のミックスに落ち着いた。そうした当初の音像イメージはのちにリリースされる同名タイトルの7インチに反映されている。個人的にはそちらの方が好みだし、今だったらその形でアルバムにも収録していたと思う。
3. ピルグリム
ポンコツ合宿が生んだ成果のひとつ。“ダフトパンク”という適当な仮タイトルがついていた記憶があるけど、今聴いてみるとDaft Punk成分は5%くらいしかないですね。
荒井が作った原型を聴いた時から、アルバムのリード曲になりそうな感触があった。どうしてそうなったのかは忘れたけど、歌詞は僕が書いている。このアルバムの曲はベーシックな構成を作った後、基本的に各パートの担当メンバーにアレンジを任せて作っていったものが多いので、歌詞制作にもそういったムードがあったのかもしれない。
4. 廃棄CITY
川崎と原の合作曲。作曲・川崎、編曲・原、といったイメージが近いかもしれない。こうして聴き直すと同じバンドでもやはりメンバーそれぞれの作風があるのだな、と感じる。川崎の作るギターリフのアメリカンロックなドライさに、原の整合感を重視したアレンジが組み合わさったユニークな曲だと思う。「太鼓の倍音がしっかり聴こえてほしい」という川崎の注文を受けて、ドラムを全体的にハイピッチにチューニングした。さらにミックスの時、「もっとクソみたいな音にしてください」と川崎に言われたエンジニアの速水(直樹)さんが困っていた記憶がある。
5. (save Point A)
一応ゲームのサウンドトラックという裏テーマで曲順を決めていったので、こういうスキットが挟まっている。8ビットサウンドと、当時僕が住んでいた江古田の踏切のアラームをiPhoneで録音したもののコラージュ。さらにゲームのキャラクターが歩いている音のようなものが重ねてある。
6. 禁断の宮殿
作風、ということで言うなら、原の作家性みたいなものはある意味一貫していることが一聴してわかる。一時期に比べると楽曲構成的にはシンプルになってきているが、その分使用するコードやフレーズといった細部に主眼が移行し始めた時期なのかもしれない。彼のいわゆる美学のようなものが散りばめられた歌詞を聴けば、のちに吉田一郎不可触世界が我々のトリビュートに参加してくれた時にこの曲を選んだのも、何だか頷ける話だ。
7. 殺し屋がいっぱい
古いデスクトップPCに残っていたデモから作った曲。なので原型を思いついたのは『街の14景』以前のことだと思う。この曲も「笑うDJ」と同じくもっとローファイな音像をイメージしていたが、同じ理由で現在の形になっている。歌詞は、SNSが市民権を得ると同時に表出し始めたネット上の匿名を笠に着た過剰なバッシングや炎上、そして不寛容について。
8. 遊覧船
川崎がギターと簡単なリズムで作った構成にメロディを乗せ、僕がそれをPro Tools上でエディットして作った曲。どうしてそういうアプローチになったのか全然覚えていない。これをこのままライブでやっても上手くいかないことは前作の経験でわかっていたので、別にライブアレンジバージョンが存在するという我々にとって珍しい曲でもある。歌詞は川崎と連想ゲームのようにお互いのイメージを出し合いながら作っていった。その点では英詞の時の作り方に近い。
9. 月と暁
ポンコツ合宿の成果のひとつ。こう振り返ると2回続けて茶碗に髪の毛、といった被害を受けたりしていたにも関わらず、あの合宿で一番頑張っていたのは荒井だったのかもしれない。合宿所のスタジオセッションの時に、Bad Religionみたいなキーワードが出ていたように思うが定かではない。覚えているのは、歌詞を書いていた荒井が「今回はぼんやりしたイメージや単語を使いたくないんですよね」と言っていたこと。それを反芻しながら聴くと、確かにストレートな言葉使いが多い。
10. (save Point B)
「bacon & eggs」の8ビットカバーの奥でchannyさんが歌うスキット。個人的にすごく好きな感じ。趣味の押しつけですね。
11. 裸足のラストデイ
この前スタジオで作業をしている時に、背後で別の作業をしていたローディのユキオが適当に音楽を流していたスピーカーからこの曲のイントロが聴こえてきて、「良いじゃん、この曲だれ?」と聞いてしまったくらいライブでやっていない曲。ユキオは爆笑していた。スネアがローピッチで良い。メジャーだったら即却下されるであろう歌詞と曲調の対比も面白いし、近年の自分たちのムードにもフィットしている気がするので、そのうちライブでもやりたい。もしくはthe band apart (naked)でリアレンジとか。
12. 消える前に
「月と暁」の項でも書いた荒井の歌詞に対するアプローチがよりはっきりと出ている曲。この頃に比べたらミキシングに対する知識だけは相当変わったので、今ならこの曲のポテンシャルをもっと引き出せるのに……なんてことをどうしても思ってしまう。しかし、世にある無数の再ミックス/リマスター盤でオリジナルを超えているものなんて稀有、という事実を鑑みても、そういうのはやはり単なるエゴなんだろう。そんなことを言い出したら最新作にだっていじりたいところが多々あるのだから、やはりこれはこれで、この時期の大事な記録。老後に落涙系。
13. 最終列車
本文でも書いたように、前作の個別作曲に対し、このアルバムでは4人の様々な面をミックスして曲を作りたいというテーマがあったので、この曲では荒井と僕のデモを合体させた上で、原と川崎がアレンジを加えた。
歌詞に関しては「殺し屋がいっぱい」と似たテーマになっていると思うが、多少の客観性を持って今聴いてみると、1990〜2000年代に長めの青春期を過ごし、東日本大震災を経てようやく大人になり、しかし世相はいよいよ“ビューティフル・ルーザーズ”なんて言っている場合ではなくなってきている……そんな時代背景に対しての、練馬のボンクラ集団による意思表明のようなものに聴こえなくもない。
14. (ending)
「最終列車」のアウトロを8ビットに変換したもの、って聴けばわかるけど。中学生の頃はもうスーパーファミコンだった気がするから、この音色はやはり小学生時代限定のノスタルジー。しかし、ちょうど本文で書いたくらいの時期のヒップホップでも、8ビットサウンドのサンプリングがちょっとしたトレンドだったりする。時代は巡りますね。
※1:https://realsound.jp/2023/01/post-1235234.html
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